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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第九章 ロハン・カムダウル 10歳
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ラファエル

ロハンと大男は、再現された渋谷の街に足を踏み入れた。

隣に付いて来た狼が、舗装(ほそう)された道の感触を楽しむように、全速力で街の中を駆け抜ける。

目の前のビルには2階に大型店舗のカフェがあるため、大男は嬉しそうにそのカフェへ向かった。


「ガハハ! 見ろよガラガラだぜガラガラ。今わの(きわ)の夢の中だって、こんな光景は(おが)めやしねぇぞ」


大男は店舗にあるコーヒー製品を物色(ぶっしょく)し始める。

ロハンは置かれているテーブルや椅子などを触り、その感触を確かめていた。

(す、凄い……ハリボテだと思ってたのに、完璧に再現されている。どんな魔法を使ったんだ?)

戸惑いの表情を浮かべているロハンを見て、大男が苛立(いらだ)つように声を掛ける。

「おい! コーヒーを()れてやるから飲めよ。飲み放題だぜ飲み放題!」

「コーヒーは苦くて飲めません」

「なんだよ! 舌はお子様なのか。面倒クセェな、おまえさんは。俺はコーヒー淹れるのが上手いんだぞ」

「ごめんなさい……でも、ここまで建物を再現できるのは凄いですね。本当に魔法を使ったんですか?」

大男はコーヒーを淹れながら、ブルブルと首を横に振る。

「いいや、魔法なんかじゃない。ちゃんと確定した未来にある技術だ。この世界の物理法則にも従っているし、科学的に説明することもできる。ただ、おまえに説明してもチンプンカンプンだろうな。この時代の人間に、スマホの構造(こうぞう)を説明しても分からないのと同じだ」

そう言うと、大男は近くにある椅子に腰掛け、カップにコーヒーを注いで飲み始める。

「僕にこれを見せて、何を学べと言うのですか?」

「ああん? 頭が悪いなおまえさんは。これを見て何も思わないのかよ」

「驚きはしましたけど……」

大男はズズズとコーヒーを(すす)り、乱暴にカップをテーブルの上に置いた。


「だからよ! 人間を創造することなんざ、俺たちにとっては立ちションするくらい簡単なんだよ!」


ロハンは内心(下品な例えだな)と思いつつも、その事実にしばらく言葉を失う。

「いいか、今一度よく考えてみろ。何度も転生を繰り返したり、凶悪な化け物と戦ったり、しかも神話の世界にまでおまえさんは足を踏み入れているんだ。人間を創造することなんざ、些細(ささい)な出来事に過ぎないんだよ。いい加減に慣れるんだな」

「……だって」

「だってもクソもねぇ! おまえが自覚してくれないと、話が先に進まないんだよ。こっちだって無駄な苦労を背負い込みたくないからな」

「そう言うおじさんは誰なんですか? 僕を助ける理由とかもまだ聞いてないし」

「俺か? 俺は『旅人を癒す者』だ。人の子の世界では大天使だの、ラファエルだのとか呼ばれているがな」

「大天使……ラファエル」

その名前を聞くと、ロハンは三歩ほど後ろに下がって身構えた。

「どうしたよ?」

「おじさんは……僕の敵ですか?」

「ああん? どういう意味だ」

「以前聞いたことがあるんです、僕はサタンやルシファーの化身だって。神話の世界に関係があるなら、僕は大天使にとって敵になるでしょ」

ラファエルは再びコーヒーを一口飲むと、カップを置いて大きく溜息を()いた。

「確かに、おまえさんは俺たちに盛大な喧嘩を売った。だがよ、今のおまえは完全に抜け殻だ。ここで殺しちまっても、な~んも意味がねぇ」

「抜け殻……?」

「おまえさんの片割れが、次元の狭間をウロついてるんだ。そいつと一体になれば、原初の時代の記憶を取り戻して、完全体になれるだろうがな。そうなった時、おまえは明確に俺たちの敵になったと言えるだろう」

「片割れですか? もう一人の自分がこの世界にいるってこと?」

「そうだ。あえて敵と呼ぶなら、そいつが本体であり元凶だ。そいつは、おまえのイーテルヴィータを閉ざすため、事あるごとに邪魔をしているはず」

その話を聞いて、ロハンは思い当たる人物の顔が頭に浮かんだ。


「メフィスト……ですね」

「ご名答だ」

ラファエルはカップに残ったコーヒーを一気に飲み干した。

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