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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第九章 ロハン・カムダウル 10歳
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無骨な大男

――どのくらいの日数が経過しただろうか?


ロハンは意識を失ったまま、一向に目を覚ます気配がない。

悪戯(いたずら)に時間だけが過ぎ、彼が起き上がる時はもう来ないと思われたが、ある日、自分の(ほほ)()められた感触があったため、眉間(みけん)(しわ)を寄せながらゆっくりと(まぶた)を開いた。

見ると、隣には友人である狼が心配そうにロハンの顔を見つめている。

「あ、あれ……サラかい? 僕は一体どうなっちゃったの?」

ロハンは痛む体を(さす)りながら起き上がると、愛おしそうに()()る狼の頭を、優しく()でてあげた。

「なんだか悪い夢をずっと見ていたような気がしたよ。恐ろしい女の人に両腕を切り落とされたんだ……(ひど)い話だよねぇ」

「残念だが、それは夢じゃない。実際に起きた出来事だ」

突然、背後から聞き慣れない声で話し掛けられたため、ロハンは体を強張(こわば)らせながら振り向く。

そこには筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の大男が一人で立っていた。

「お、おじさんは誰?」

「ようやく目覚めたか……人の子の体は回復に時間が掛かるな。丸三日間、おまえは眠り続けたんだぞ」

「夢じゃなかったってどういう意味ですか? 僕は両腕がなくなったんですよ」

「俺が治したんだ。少しは感謝して欲しいものだな」

ロハンは驚いて自分の両腕を見たが、肩の辺りに少しの傷跡があるだけで、以前と変わらず自然に動かすことができる。

「そ、そんな簡単に腕ってくっつくものなの?」

「俺はこういうのが得意でね。詳しく説明すると長くなるから、まあ素直に治ったことを喜べや」

大男はガハハと大きな声で笑った。

「……さて、先にやることがあるぞ。まずはおまえのイーテルヴィータを確定しろ。このカードに触れさえすりゃいい」

「い、いーてる……なんですかそれ?」

「いいからカードに触れるんだよ!」

大男は(ふところ)からカードを一枚取り出すと、ロハンの目の前に突き出す。

ロハンは言われるまま、恐る恐るカードに触れてみると、数秒後には今までの記憶がすべて(よみがえ)った。

「あ……」

「思い出したようだな」

「なんか変……体は子供で頭の中身は大人って感じで」

「おまえが6年分の世界を飛び越えちまうから、まだ体に違和感があんだよ。まったく、こちとら探すのに骨が折れちまったぞ」

「ま、まさか七奈美さん? 今度はなんでよりにもよって、そんな(いか)つい入れ墨だらけの凶悪犯みたいな男の体を選んだんですか?」

「違う違う、俺はおまえの知る相棒じゃねぇ。それに……よりにもよってとはなんだ、よりにもよってとは」

「なんだ、七奈美さんじゃないのか。良かった」

「何がいいのか分からねぇが、おまえさんの相棒とやらは、何処かの世界に閉じ込められちまったぞ。状況は大ピンチだ」

「そ、そうなんですか? それが本当なら助けに行かなきゃ!」

ロハンは立ち上がろうとするも、何故か体に力が入らずに転んでしまう。

「……あれ? 力が入らない」

「長く寝てたから養分が足りないんだろうな。こっちに食事を用意してあるから、まずは食っとけ」

「なんで僕を助けたり、面倒を見てくれるんですか? それに……あなたは誰なの?」

「食いながら話そうぜ。俺もこいつも、腹が減ったからな」

そう言うと、大男は嬉しそうにしている狼を指差した。


――そしてロハンと大男は、洞窟の中にある食事場へ向かうと、そこには豪勢(ごうせい)な料理が隙間(すきま)なく並べられていた。


「凄いな……これ、おじさんが全部用意したんですか?」

「細かいこと気にしねぇで、さっさと食いな。(はし)が欲しいなら先に言えよ」

「いつも通り手で食べます」

「インド人らしいな」

大男は近くにあった肉などを次々に口の中へ運ぶと、それを頑強な(あご)()(つぶ)すように食べてしまう。

そんな食べっぷりを横目に、ロハンは魚料理を中心に平らげてゆく。

「おう、そこの狼。おまえさんには缶詰入りのドッグフードをやるから、こっちに来な」

その話を聞くと、ロハンは「ぶっ」と口から音を出しながら驚いた。

「か、缶詰? どうしてそんなものがこの時代に?」

「……何か問題でもあるのか?」

「だって今いる世界は17世紀初期のインドですよ。缶詰なんてこの世に存在すらしていないはず……」

大男はロハンの話を聞いて、(あき)れたように大きくため息を吐く。

「やれやれ、すっかりおまえさんは忘れちまってるようだな。こっち側の存在だってのに、実に(なげ)かわしいもんだ」

「……こっち側の存在?」

ロハンが首を(かし)げる様子を見て、大男は少し怒りを込めた声でこう言った。


「よく聞け『光を運ぶ者』よ。おまえは幻異界を代表する、創造主たる存在なんだぞ!」

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