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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第九章 ロハン・カムダウル 10歳
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悪女の姉

「う、う〜ん」

ロハンは目を覚ますと、洞窟(どうくつ)の中で自分が逆さまに()るされていることに気が付いた。

蜘蛛(くも)の糸のようなものが足に(から)み付いており、手で(ほど)こうとしても簡単には外せそうにない。

こうしている間にも、全身の血液が頭に向かい、なんとなく意識まで朦朧(もうろう)として来た。

「無駄よ無駄。その糸は鉄製のナイフでも切れないから」

下から女性の声が聞こえたため、ロハンは視線をそちらに向けようとする。

するとそこには、身長が2メートルを超えそうな大柄(おおがら)の女性が一人で立っていた。

「頭に血が上り過ぎて、かなり苦しそう。まあ、それくらい苦しんでくれなきゃ、妹の復讐(ふくしゅう)にはならないのよね」

「あ、あなたは誰ですか? どうしてこんなことをするの?」

「そりゃ知らないわよねぇ……まだイーテルヴィータを確定してないんだし。でも、そんなこと関係ないわ。あなたが覚えていようがいまいが、妹を殺した事実は変わらないんだから」

「何を言っているのか分から……」


ヒュン!


ロハンの言葉を(さえぎ)るように、風を切り裂く音が耳元で聞こえた。

そして次の瞬間、ロハンの右腕がボトリと地面に落ちる。

「ふぎぃ!」

右腕を切り落とされたロハンは、あまりの痛みで口から泡を吹いて気絶しそうになる。

「あ〜ら、痛かったかしら? これから四肢(しし)の一本一本を切り落として、芋虫(いもむし)のようにしてあげるわ。その後、原生種を大量に寄生させてあ・げ・る」

「た、助けて……」


ヒュン!


再び、風を切り裂くような音が聞こえると、今度はロハンの左腕がボトリと地面に落ちる。

この激痛により、ついにロハンは気を失ってしまう。

「また気を失ってみっともないわね。少しは気概(きがい)のあるところを見せなさいよ、男の子でしょうに」

……だがロハンから返事はない。

こうしている間にも、ロハンの肩から大量の血が流れ出ており、いずれ出血多量により死ぬことになるだろう。

「さ〜て、あなたのイーテルヴィータを閉じてあげるわ。ここまで頑張ったのに残念ねぇ。さっきは長く苦しませるつもりだったけど、気が変わったから、さっさと死んでもらいましょうか」


――その時である。


ロハンを助けに来た狼が、女性の腕に思い切り噛み付いた。

「いった~い!」

だが女性は顔色一つ変えず、狼を頭上に持ち上げると、そのまま投げ飛ばして壁に激突させた。

狼は今の衝撃で肋骨(ろっこつ)が折れたのか、吐く息に「ヒューヒュー」と空気が漏れるような音が混じる。

「この子と一緒にいた狼ね。悪いけど、噛み付こうが蹴りを入れようが、私にはノーダメなのよ。黙ってこの子が死ぬのをそこで見ていなさい」

そんな言葉に対して反抗するかのように、狼はフラツキながら立ち上がる。

「まったく……これだから動物は大っ嫌いよ!」


ヒュン!


またしても風を切り裂くような音が聞こえたが、狼の手前でその音が()き消されてしまう。

「……あれ?」

女性は不可解そうな表情を浮かべ、自分が放った糸の先端を確認すると、その先端を(つか)んだ人間の存在に気が付いた。


「やれやれ、物騒だな。こんなものを飛ばして生き物を切り刻むとは、悪趣味(あくしゅみ)にもほどがあるぜ」


見ると、筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の入れ墨だらけの男が、女性の目の前に立っている。

「……あんた誰よ、邪魔しないで!」

「そうは行かないな。子供と動物を甚振(いたぶ)るのを黙って見てられるか」

「じゃあ、あんたが先に死にな!」

女性は自分の腕を胸元まで引き寄せると、力を溜めているかのように手を握り締め、次の瞬間、手の平から無数の糸を吐き出した。

その糸が男の腕に巻き付いたが、男は慌てる素振りも見せずに仁王立ちしている。

「あのよ、おまえさんが物理的な攻撃が効かないなら、俺だって効かないんだよ。こんなフニャフニャな糸なんざ、簡単に解けちまうぜ」

「なにっ!?」

巻き付いていた糸を鷲掴(わしづか)みした男は、その糸で女性の体ごとクルクルと空中で振り回した後、そのまま投げ飛ばして壁に激突させた。

そして「グワっ!」という叫び声が遠くから聞こえる。


「……これで、この狼とお相子(あいこ)だな。まあ、おまえさんがノーダメなのは分かってるがよ」

瓦礫(がれき)の中から女性は立ち上がると、鋭い目つきで男を(にら)んだ。

「あんた……こっち側の存在だね。名を言いな!」

「名などない。まあ、強いて言うなら『旅人を(いや)す者』と呼ばれている。それだけ言えば、いくら(さっ)しの悪いおまえでも分かるだろう」


――女性は男の話を聞いて、たじろくように二、三歩後ろへ下がった。


「あ、あんた……なんでこいつの手助けなんかするのさ! 完全な戒律違反(かいりついはん)でしょ!」

「その戒律を定めているのは俺たちだ。おまえに指図される筋合(すじあ)いはない」

「きき……きいいいいいぃぃぃぃぃ! 悔しい悔しいくやっしいいいいいぃぃぃぃぃ! こんなこと絶対に認めないんだから!」

女性はヒステリックに叫ぶと、急に跳び上がって天井に張り付いた。

「今日はその子供を見逃してあげるけど、必ず私の手で殺してやる! イーテルヴィータを確定した後にこう言いな!」

女性はギリギリと歯軋(はぎし)りした後にこう言った。


「私は悪しき者の刺客、マラーニャの姉、ヴェノーニャだってね!」

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