善き者
倒れている海斗へ近付いたフギオールは、胸ぐらを掴んで身体を持ち上げた。
そして平手で何度も海斗の頬を引っ叩き、意識を失う一歩手前まで激しく痛め付ける。
「貴様も過去の栄光を追い求めず、永遠の眠りに就いたらどうだ。 こうして痛め付けるのもいい加減に飽きたわ!」
フギオールは手を離して海斗を地面へ落とすと、その巨大な足で海斗の頭を踏み付けた。
「返す言葉もないか……では早々に葬ってやろう。この幻異界の空気を吸うだけでも吐き気を催すからな」
――ドォオン!
海斗は最後の力を振り絞り、ホルスターからリボルバーを引き抜いてフギオールの足を撃った。
……少しだけよろけたフギオールだが、致命の一撃にはならず、掠り傷程度しかダメージを与えることができない。
一方で頭から足を離したことで隙が生まれ、海斗はビルの外へ逃げることができた。
(……この銃でさえあの男にはまったく効かない。それに巨大な原生種よりも力が強いとか冗談キツイぜ)
海斗は痛む腹を押さえながら必死で街の中を逃げたが、すぐにフギオールに行く手を阻まれてしまう。
「くそっ!」
「観念せい穂積海斗。我は貴様が18歳の世に生きる幻異界を支配する者。抵抗するだけ無駄であると分からないのか」
「じゃあ4回は転生に成功したってことだよな?」
「……何が言いたい」
「簡単には諦めないって意味だよ!」
海斗はリボルバーを撃ちながら建物の陰に隠れる。
だがフギオールは銃による攻撃にも怯むことなく、その場に仁王立ちして海斗の行方を冷静に追っていた。
「ふんっ!」
フギオールは近くにあった巨大なオブジェをその手に掴み、隠れている海斗へ向かって放り投げる。
オブジェが頭上から落ちて来たため、海斗は慌てて飛び退いて避けようとする。
幸いなことにオブジェが建物の隙間に引っ掛かり、押し潰されることはなかった。
(なんて怪力だよ……ミゼラムのように原生種を使うもんだと思ってたけど、あいつには必要なさそうだ)
フギオールは不服そうな顔をしながら海斗の近くに歩み寄る。
「我に物理的な攻撃は一切効かぬ。日本刀だろうと銃だろうと傷一つ負わせることができない。それでも戦うと言うなら、お望み通り五体を引き裂いてやろう」
そう言うとフギオールは海斗の隠れている場所の壁を拳で破壊する。
壁に背を向けて隠れていた海斗は、その衝撃で数メートル吹き飛ばされ、完全に動けなくなってしまう。
容赦のないフギオールは気を失っている海斗の首を掴み、ギリギリと締め付ける。
「……さあ死ぬが良い」
海斗はフギオールの締め付けで朦朧とした意識となり、次第に視界が暗闇に包まれる。
……もう駄目かと海斗は思ったが、空を見上げて太陽を見ると不可思議な光景を目にする。
それは太陽の中にある巨大な眼球がこちらを睨んでいたのだ。
(あいつは……なんだ?)
するとフギオールは異変に気が付き、海斗と同じく太陽を見上げて驚愕する。
「あ……あ……あ……あれは善き者の刺客かっ!」
フギオールは突然手を離したため、海斗は咳き込みながら意識を取り戻す。
「違う……違うのだ! 我は決して戒律違反をしておらぬ……力を……力を奪うな!」
フギオールの慌てぶりは尋常でなく、すぐにでもこの場から逃げ去る様子である。
だが遅かったのか、太陽の中に現れた眼球は強烈は光を放ち、その光はフギオールをすっぽりと包み込んだ。
ブォォォ―――ォォォ―――ォォォ―――ンンン!
周囲にハウリングのような騒音が響き渡り、海斗は思わず耳を塞ぐ。
その音がしばらく続くと、目の前にいたフギオールの体がどんどん萎み、ついには海斗よりも遥かに小さくなった。




