無私の助け合い
(賢い狼だ、人間が食べられる木の実だってちゃんと分かってる)
恐らく、この森へ狩りに来た人間を観察していたのかもしれない。
互いに顔を合わせて数分が過ぎたが、一向に襲いかかって来る様子もなく、ずっと友好的な態度なので不思議な狼である。
「おまえ、仲間か家族はいないの?」
狼は群れで行動する生き物だ。
しかし、この狼は仲間がいる気配はなく、周囲を見回しても家族すら存在しない。
「……一匹狼ってやつか」
狼をよくよく見ると、全身の毛が真っ白で、森の中でも非常に目立つと思われた。
神々しさすら感じる風貌だが、自然界ではこの毛並みが不利に働くかもしれない。
「目立つから仲間外れにされたのかな? 僕を助けたのは寂しいからとか?」
そんな心の内を見透かしたかのように、狼はブフォン! と一度だけ鼻を鳴らすと、付いて来いという感じで森の中を歩き出した。
ロハンは慌てて狼の後を追う。
そしてしばらく歩くと、大人が入れるような横穴が現れ、狼はその中へ入るようロハンに促した。
(助かった……ここなら安全に休むことができそう)
狼のことを全面的に信用したワケではないが、体の痛みと疲れが酷いため、ロハンはすぐにでも休みたい心境であった。
もう食われてもいいやと思いながら、穴の中へ足を踏み入れると、獣の骨のようなものが地面に落ちていたが、人間の骨は見つからなかったため、ロハンはホッと胸を撫で下ろした。
その安心からか、急に倒れるように眠ってしまう。
――五時間後。
ロハンは慌てて目を覚まし、周囲を確認すると、傍では先ほどの狼が寝息を立てて眠っていた。
「……すっかり眠ちゃった。この狼も全然僕を襲わないし、久しぶりに安心して寝ることができたな〜」
しばらくは、この狼と一緒に暮らすことになるかもしれない。
逃げることも考えたが、すでに外は夜だし、暗闇の中を歩き回るのは無謀とも言えるだろう。
(この狼……ホントに警戒心がないな。僕だけ特別なんだろうか?)
そんなことを考えながら、狼の寝ている表情を見ていると、怖い動物であるはずなのに、なんだか可愛いとすら思えるようになった。
――そして三ヵ月が経過した。
ロハンと狼はすっかり家族となり、毎日の日課である狩りへ一緒に出掛けた。
狼は研ぎ澄まされた嗅覚で、遠くに隠れている獲物を捕捉できる強みがある。
一方で、人間には道具を使いこなす知識があるため、縄張りにいくつか罠を仕掛け、ロハンは捕まえた魚などを食べて生活していた。
お互いに良きパートナーとなり、この三ヵ月間は無難に過ごすことができ、ロハンの脅威となる村の者や原生種に襲われることもなかった。
「よしよし、今日はウサギを一匹と魚を三匹捕まえたよ! 焼いて一緒に食べよう」
ロハンは狼にそう告げると、狼は嬉しそうに一度だけ吠えた。
――だがその時である。
背後でパキリと木の枝が折れるような音がした。
あまりに小さい音だったため、ロハンは気付かずにウサギを肩に抱えて立ち上がろうとしたが、次の瞬間、鋭い痛みが後頭部に走り、そのまま気を失ってしまう。
異変に気付いた狼は、すぐにロハンの近くまで駆け寄ったが、何故か彼の姿は消えていた。
狼はロハンの匂いを頼りに探そうとするも、いくら地面を嗅いでも匂いの痕跡が完全に消えている。
まるでロハンを掴んだまま、その場から空へ飛び去ったような不可解さである。
だが狼は諦めず、必死で周囲の匂いを確認すると、獣のような異質の匂いを感じ取ったため、その痕跡を辿りながら、森の奥へ向かって駆け出した。




