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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第八章 次元の狭間、再び
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近道

「……どういう意味だ?」

俺はメフィストに聞いた。

「そのままの意味ですよ、ダイスの出た目の数だけ年齢が若返ります。つまりは近道ですな。貴方も0歳になるまで、残り16もの世界を渡り歩くのは疲れるでしょう」

その時、近くの机の上に置かれていた小瓶(こびん)がカタカタと揺れ動いた。

「……? なんだあれ?」

「ああ、お気になさらないでください。庭にいた昆虫を捕まえましたので、あの小瓶に入れたのです」

メフィストはそう言うと、小瓶を手に取って机の抽斗(ひきだし)の中へ仕舞(しま)った。

「さて、お話の続きをしましょう。そのダイスを振りますか? 振りませんか?」

「幻異界の核へ早く辿(たど)り着けるなら、そりゃ振りたいよな」

「よろしい。では準備(いた)しますので、こちらの部屋へ来てください」

俺はメフィストの案内により、古書店の奥にあった部屋の中へ足を踏み入れる。

部屋の壁には無数の文字が書かれており、それが何を意味するのかまったく分からない。

だが、その文字が部屋の中央にある魔法陣(まほうじん)のような絵に向かって書かれていたので、恐らく何かしらの儀式を行う部屋なのだろう。

「そちら椅子へどうぞお掛けください。私が幻異法儀(げんいほうぎ)()り行いますので、お手にあるダイスが光った時に、中央にある魔法陣に向かって投げてくだされば成就(じょうじゅ)致します」


――だがその時、遠くから女性の声が聞こえたような気がした。


【だ……めだ……絶対に……ダイスを……振る……な……!】


俺はその声の主が何を言っているのか理解できず、空耳(そらみみ)として聞き流してしまう。

「それでは始めますよ。準備はよろしいですか?」

「ダイスが光ったら魔法陣の中へ投げるんだろ、馬鹿でもできる」

そう言われたメフィストは、杖のようなものを振りながら怪しい呪文を唱え始めた。

手に持っていたダイスを確認すると、1~6の算用文字が刻まれている。

最高で6歳、若返ることが可能なのだろう……1が出れば大したショートカットはできないようだが、それでも1回分の手間が省けるのは確かである。


――そんなことを考えていると、急にダイスが(まばゆ)い光を放ち始める。

俺はすぐにダイスを振り、中央の魔法陣に向かって投げ入れた。


コロコロとダイスは魔法陣の中を転がり、動きを止めて出た目は「6」を指した。


「おおお! なんと運がよろしい! 6歳分のショートカットが可能となりましたぞ」

「次は何歳からのスタートになるんだ?」

「10歳ですな。16歳から11歳までの世界に転生する必要は、これでなくなりました」

すると、魔法陣に6つの(つぼ)のようなものが突然現れた。

「この壺は……なんだ?」

「ああ、お気になさらないでくださいまし。儀式の過程(かてい)で生まれた産物ですよ。これは廃棄処分(はいきしょぶん)致しますので」

メフィストは壺の1つを手に取り、近くにあった円柱型のガラスケースを開けて、その中にある台座に持っていた壺を置いた。

そしてガラスケースを閉じると、上部にあるボタンをいくつか押して何やら操作する。


ガィィィン! ギーギーギー! ズガガガッ、ズガガガッ!


ガラスケースの中で騒がしい機械音が聞こえると、置かれていた壺が急に高速回転して、次第に表面には亀裂(きれつ)が入り始める。


「ぎいいいいいぃぃぃやあああぁぁぁ――っ!」

「助けてくれぇぇぇ――っ!」


壺の中から叫び声が聞こえたような気もするが、そんなことを考える間もなく、ガラスケースの中で壺がガシャン! という音と共に破裂(はれつ)して割れると、ケースの中身が真っ赤な血で染まった。

「……これは?」

「壺の中にいた善き者と悪しき者を処理したのですよ。この作業を後5回繰り返します」

そう言うと、メフィストは淡々(たんたん)とした様子で壺をガラスケースの中に入れ、同じ作業を5回ほど繰り返した。

「さてさて、終わりましたな。これで余計な戦いを避けられましたぞ。では古書店の出口までご案内しますので、私に付いて来てくださいまし」

メフィストが軽やかな足取りで部屋を出たため、俺はその背中を追って魔法陣の部屋を後にした。


――暗い廊下を進んで古書店の出口が見えると、メフィストが扉を開けて待っているのが見える。


「次の世界では、10歳の年齢で生き残りを目指します。ご武運をお祈りしておりますぞ」

「なあ、ダイスを振ったのは俺にとってメリットがあったのか? それともデメリットだったのか?」

「分かっているとは思いますが、6歳分ショートカットすれば、それだけ幻異界の核へ辿り着くのは容易となります。それが遅いか早いかの違いです。ただ……」

メフィストは口角を上げて、ニヤリと微笑んだ。

「RPGのゲームで例えるなら、レベル1の状態でラスボスのいるダンジョンに足を踏み入れるようなものですな。それが何を意味するのか、貴方はこれから思い知ることになるでしょう」


そう言うと、メフィストは俺の背中を手で押して、古書店の外へと出した。

振り返れば古書店の姿は消えており、代わりに目の前に巨大な光の門のようなものが現れる。

(行くしかないか……)

俺は覚悟を決め、荒れ果てた道を進みながら光の門を目指した。


一方で古書店では、メフィストが机の抽斗を開けて、中から先ほどの小瓶を取り出していた。

「やれやれ……チョコマカと次元の狭間を動き回る貴方が悪いのですよ。まったくもって鬱陶(うっとう)しい。確か、名を七奈美と言いましたよね? しばらく、この小瓶の中で大人しくしておきなさい」


――カラカラと小瓶を指先で揺らすと、再びメフィストは抽斗の中へ乱暴に仕舞った。

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