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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第八章 次元の狭間、再び
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運命のダイス

この『次元の狭間』では、原初の者たちが創造した世界が無限に存在し、まるで絵の具を混ぜ合わせた泥濘(ぬかるみ)のように、互いに混じり合いながら胎動(たいどう)している。


遠くには中世時代の巨大な都市が空に浮かび、その中では全身を青銅の鎧で包んだ兵士たちが、武器を手に持って殺し合っていた。

また隣の世界では、灰色の砂が積もった砂漠が広がり、10メートルを超えるであろう(さそり)の大群が、水の湧く集落に住まう人々を(むさぼ)り食っていた。

他にも地中深く埋もれた世界では、原生種に寄生された人々が世を支配しており、死臭漂う中で生き残った者たちが、銃を片手に藻掻(もが)きながら戦いへ身を投じていた。


――そんな凄惨(せいさん)な光景を目にしても、単なる一つの世界、一つの人生として恒久(こうきゅう)に処理され続けるのが、この次元の狭間における普遍(ふへん)である。


「……ああ、また戻って来たのか」

この光景を見るのは二度目だと俺は思った。

メモヴェルスの欠片には触れていないのに、穂積海斗として17歳になったことは不思議と覚えている。

そしてここが次元の狭間であることも、何故か覚えていた。

「この先に、メフィストのいる古書店があるはず」

俺は眼前に広がる荒野に足を踏み入れると、道なりに進みながらメフィストのいる古書店を目指した。


――しばらく歩いていると、目の前に巨大な十字架を背負った男が、こちらへ向かって歩いて来るのが見えた。


その十字架は人間の肉塊(にくかい)で形作られており、(したた)る血がその男の服を真っ赤に染めている。

「奴らは私を見捨てた……奴らは私を見捨てたのだ……」

すれ違う時、その男の口からそんな言葉が聞こえた。

何があったのかは分からないが、俺が声を掛けても反応がないため、恐らくこの次元の狭間を永遠に彷徨(さまよ)っている者なのだろう。

その男が浮かべる苦悶(くもん)の表情……まるでこの世の(ごう)をすべて受け入れたかのような形相(ぎょうそう)である。

(……ここは地獄なのか?)

次元の狭間とは名ばかりで、人間の想像し得る「地獄」とは、まさにこんな場所なのかもしれない。


……そんなことを考えながら、俺は更に道なりに荒野を進むと、殺伐(さつばつ)とした光景の中にポツンと建っている、古書店らしき建物が現れた。

ギィィィと音を立てながら古書店の扉を開けると、店の奥で書籍を整理するメフィストの姿が見える。

「……おい」

俺は忙しそうにしているメフィストに声を掛けた。

「おやおや、いらっしゃいませ。ちょっとお待ちください、書籍の整理が終わりませんので」

「こんなところに客が来るワケがないだろ。忙しそうなフリをするなよ」

「そんな身も(ふた)もないこと言わないでくださいな。本当に忙しいのですよ。そこで本でも読んで待っていてください」

メフィストに言われ、俺は渋々近くにあった書籍の一つを手に取り、パラパラと(めく)って読み始めた。

「天の使いが禁忌(きんき)を犯した原罪について……その事例の一つとなるアザゼルの反乱とは……産み落とされたネフェリムが姿を変えた経緯(いきさつ)……これってなんの話だ?」

読み進めてもまったく内容が分からず、俺はパタンと本を閉じて、別の商品を手に取った。

「天の使いたちは名を持たない。彼らは言葉として残せるような名を持っておらず、例えば【ミカエル】などは、人の子らが独断(どくだん)で創作したものである。天の使いたちは互いに抽象的(ちゅうしょうてき)な表現で呼び合う。ガブリエルであれば『神の言葉を伝える者』、ラファエルであれば『旅人を(いや)す者』、そして争乱を起こしたルシフェルであれば『光を運ぶ者』などがこれらに該当(がいとう)する……どうやらこいつも神話に関係した本のようだな」

俺はしばらく本を読んでいると、メフィストが書籍の整理を終えたのか、パンパンと手の(ほこり)を払い落としながら、こちらに向かって歩いて来た。

「やれやれ、ようやく終わりましたよ」

「……遅いよ」

「怒らないでくださいまし。それにしても、その本をよく読めますね。人の子が理解できるような言葉で書いてないのに」

「そうなのか? ちゃんと日本語で書いてあるような気がするけど」

「そんな気がするだけですよ。まあ、転生を繰り返している貴方が、まともな人間であるかは別の話になりますがね」

「嫌味を言うな」

俺は書籍を元にあった場所に戻した。

「さてはて、今日はどういったご用件ですかな?」

「こっちが聞きたい」

「ははは、それはごもっともな話で。私の酔狂(すいきょう)に付き合って欲しいため、また貴方をここへお呼びいたしました」

そう言うと、メフィストは宝石を収納するような西洋風の小箱を取り出す。

「……これはなんだ?」

「いいから、開けてくださいまし」

俺はメフィストに言われた通り、小箱を開けて中身を確認する。

その中には深紅(しんく)のダイスが一つ転がっていた。

「ダイスだな……ボードゲームでもするのか?」

「いえいえ、そんなお遊び事ではありません。貴方にとっては極めて重要なツールになります」

メフィストは小箱からダイスを取り出すと、俺の手の平の上にそっと置いた。


「このダイスの出た目の数だけ、貴方の年齢が若返るのですから」

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