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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第七章 八重野奈波 17歳
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幸せな記憶とトラウマの記憶

(なんてことだ……このままでは海斗が何度も死んでしまう!)

奈波はメモヴェルスの欠片を探すため、教室から出て行こうとした。

「ちょ、ちょっと奈波? 何処へ行くのよ?」

千里の言葉を無視して、奈波は戸を開けて教室から出ると、階段を駆け下りて学校の一階を目指した。

(今見ている光景は完全な幻だ……裏側で何度も過去の書き換えが行われているはず。なんでもっと早くに気が付かなかったんだろう)

奈波は悔しさで唇を強く噛んだ。

また須崎の言う通り、メモヴェルスの欠片を手に入れても、イーテルヴィータを確定すれば海斗が精神を病んで死んでしまう可能性が高いため、その解決策すら思い当たらないのが悔しさに拍車を掛けた。

……だが悩んでいる時間はない。

こうしている間にも、海斗は何度も殺されているかもしれないからだ。

奈波は校舎から出て近くの駅へ向かうと、電車に乗って海斗の自宅を目指した。

(確か、最後にメモヴェルスの欠片を落としたのはあそこだ。須崎やソルトニスが手に持って移動させなければ、まだ落ちているはず)

そして、奈波は電車を降りて海斗の自宅へ向かうと、その手前の道で一枚のカードが落ちていることに気が付いた。

「あった!」

奈波はすぐにカードを拾い、それがメモヴェルスの欠片であるかを確認する。

「良かった……どうやら本物らしい」


――しかし、問題はこの後である。


このままメモヴェルスを海斗に触れさせれば、確実に彼の命を奪ってしまうだろう。

すでに呪物と化したこのカードを、何かしらの方法で浄化する必要があった。


(そうだ! 須崎は『刻殺しの間』が、この世界に13箇所も存在すると言ってたな。この東京にもあるかもしれない)

奈波はメモヴェルスのカードを頭上に(かか)げると、「メモヴェルスよ、刻殺しの間の在処(ありか)を指し示せ!」と唱える。

すると一筋の光がカードから放たれ、光が指し示した方向に向かって奈波は走り出した。


……思いの外近くにあったのか、10分ほど走ると空間の歪みのようなものが目の前に現れ、恐らくその中が刻殺し間だと思われた。

奈波は空間の歪みに触れると、絵画の色が剥がれ落ちるように周囲の景色が変わり、気が付くと円形状の部屋の中で奈波は立っていた。

手前には人骨で作られた台座が置かれており、その上にメモヴェルスのカードを乗せる(くぼ)みがある。

「まさに刻殺しの間だ。最後に見たのはいつの頃だろう……30年くらい前かな? まあ、この世界に【時間】など存在していないのも同然だが」

そんなことを言いながら、奈波は自嘲気味(じちょうぎみ)に笑って見せた。

そして懐からメモヴェルスのカードを取り出すと、その台座の窪みにカードを乗せる。

数秒後、機械音と共に何枚かのモニターが目の前に現れ、台座には入力用のキーボードも姿を現した。

「未だにこの装置は、アナログなのかデジタルなのかサッパリ分からないな。操作方法を知っているのがせめてもの救いではあるが」

奈波はキーを入力して、メモヴェルスに記録された海斗のデータを詳しく見てみる。

モニターを通して過去の記憶を探ると、彼が様々な拷問を受け、凄惨(せいさん)な死に方を繰り返したのが分かった。


(酷い……)


奈波はしばらく言葉を失ったが、すぐに頭を切り替え、キーを入力しながら海斗を救う方法を導き出そうとする。

(そうだ、トラウマとなった記憶を幸せな記憶に上書きして消去してしまおう。この頃に最も幸せと感じた瞬間を探せば、トラウマを克服できるかもしれない)

だが、人生経験も浅い高校生という年代で、幸せだった記憶を探すのは難しい。

それでも奈波は(あきら)めず、確定した未来の中から、この頃に海斗が最も幸せだった瞬間を探ろうとする。

この世は『未来』が確定したものとされ、『過去』は不確実なものとして改変が可能のため、刻殺しの間では個人の未来を覗き見ることができた。


――そしてしばらくモニターを操作していると、海斗の年齢が47歳になった頃の様子が映し出され、どうやら友人と一緒に居酒屋で飲んでいるらしく、互いに思い出話に花を咲かせていた。


「おまえさ、人生の中で一番幸せだった思い出ってあるか?」

「……なんだよ、それ」

「まあ、おまえは高校のアイドルだった奈波ちゃんと結婚したくらいだ、幸せな思い出なんて腐るほどあるんだろうな」

「それは……確かにそうだが」

「くぅ~、()けるねぇ。彼女をどうやって口説いたんだよ?」

「う~ん、口説いたって感じじゃないけど、たまたま会った時に図書館で勉強しようって誘ったんだ。彼女も国立の大学を受験するって言ってたから」

「運がいいな。あの須崎をフッたって噂の彼女だぜ、よく誘いに乗ってくれたよな」

「俺も驚いたよ。家内の人気は前から知ってたからね。心臓が喉から飛び出るくらい、勇気を振り絞って誘ったんだよな」

そう言うと、海斗は嬉しそうに焼酎を一口だけ飲んだ。


「……思えば、あれが俺の人生の分岐点だったような気がする。家内がOKと言ってくれた時は、天にも昇るような気分だったな。あれだけの幸せを感じた瞬間は、二度とないと思えるほどに」

奈波はその話を聞き、この世界で海斗と初めて会った時を思い出した。


(そうか……あの時!)

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