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MEMOVERUS ~幻異界転生~  作者: 中島 弓夜
第七章 八重野奈波 17歳
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生と死

「どうした……?」


奈波は急に叫び出す海斗を見て動揺(どうよう)してしまう。


「だから言ったんだよ、彼を助ける必要があるって。でも、もう手遅れかな」

炎に包まれた廊下の奥から須崎が現れた。

見ると、両手に黒い肉塊(にくかい)のようなものがブラ下がっている。

「奈波ちゃん、今回で穂積海斗は50回目の死を迎えることになるよ。正確に言うと【死にかけ】だけどね」

「どういう意味?」

「彼の命が絶たれる瞬間に、過去を書き換えてるのさ。そのまま殺してしまうと、また22歳からやり直しになるからね。そんなことは絶対にさせない。この世界で永遠に苦しませるのが僕たちの目的だ」

「50回も彼の過去を書き換えるだと……そんな力がおまえたちに備わっているとは思えない。ハッタリだ!」

「いや、それが違うんだよ。この世界は特別に、幻異界の核からの影響を強くしているんだ。『刻殺し間』も13地点ほど存在している」

「何っ!?」

「信じられないだろうが事実なのでね」


奈波は驚きでしばらく言葉を失った。

『刻殺しの間』は、善き者、悪しき者でなくとも過去を書き換えられる場なので、創造された世界に1つでも存在することさえ(まれ)である。

その刻殺しの間が13もあるとすれば、過去は書き換え放題だと言えるかもしれない。

ずっと抱いていた違和感の正体が分かると、動揺していた奈波は努めて冷静になり、須崎と再び会話を始めた。

「海斗に何をしたんだ?」

「さっき言った通り、彼が死ぬ直前で過去を書き換えているのさ。君という思念体は、奈波ちゃんの体に入ったばかりだから知らないだろうけど、彼は地獄のような苦しみの中、49回もの疑似的(ぎじてき)な転生を繰り返している。それは、メモヴェルスにもしっかり記録されているよ。だから彼がイーテルヴィータを確定した時、走馬灯(そうまとう)のように49回もの【死の記憶】が蘇ったんだ」

須崎は手に持っていた黒い肉塊を奈波に見せる。


――それは、海斗の母親と妹の首だった。


「今回は彼の目の前で家族を殺してあげたよ。記念すべき50回目にしては、生易しい方法かもしれないけれどね」

「貴様……っ! 今までどんなトラウマを彼に植え付けたんだ!」

「そうだな~、原生種を寄生させて30年ほど苦しませたり、皮を()いで吊るしたり、キツイ薬物で廃人にしたりとか色々ね。人の子の想像する拷問は、一通り試してみたと思う」

……奈波は、予想を(はる)かに超えた彼らの残虐性(ざんぎゃくせい)に絶句してしまう。


「うわあああ、ぐっ、ぐえええぇぇぇ」


見ると、倒れていた海斗は口から泡を吹いて苦しみ出した。

「海斗……大丈夫か、海斗っ!」

「ああ~、もう彼はダメだね。狂い死ぬ兆候(ちょうこう)が出ている。精神と肉体は絶妙に(つな)がっているから、過去のトラウマに耐えられなかったんだろう。君は過去を書き換えても、またメモヴェルスの欠片を探しに行くんだろ? 彼のためにも止めてあげなよ。見ての通り、イーテルヴィータを確定したら、人として使い物にならなくなる。放っておくのが賢い手段さ」

「くっ……!」

奈波は言い返すことができないでいた。

「では、過去を書き換えてあげよう。八重野奈波として、彼と幸せな人生を送るんだな。その交渉(こうしょう)には応じてあげるよ、僕は優しいからね」


――そう言うと、須崎はパチンと指を鳴らした。

すると、周囲の光景がグニャリと(ゆが)み始め、奈波の意識が霧の中へ迷い込んだように遠ざかる。

奈波はしばらく気を失ったような感覚になり、5分ほど経過して目を覚ました時は、自分が学校の教室にいることに気が付いた。


「ちょっと~、聞いてるの奈波? 大学は何処を受けるか聞いてるんだけど」

顔を上げると、目の前に千里が立っていた。

「えっ……だ、大学?」

「奈波は1年生の時から成績良かったもんね。やっぱり東大にチャレンジするとか?」


……何処かで聞いたようなセリフなので、奈波は過去へ戻ったことを悟った。

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