東京と大阪
(とりあえず、二人と会話を合わせよう。大阪へ来たのなら好都合だ、メモヴェルスの欠片を探すことができるし)
奈波は二人と一緒に大阪旅行を楽しむことにした。
そしてメモヴェルスの欠片を探すため、周囲の歩行者に意識を向けながら大阪の街を散策する。
(う~ん、東京へ出張に来たサラリーマンは何処に勤めてたんだろ? 大阪の中心街でメモヴェルスの光に触れた人を見掛けないし、違う地域に落ちているのかな)
奈波は大阪の地理に詳しくないため、千里にこれから何処へ行くのか聞いてみる。
「ねえ千里、これから何処へ行くの?」
「せっかく来たんだし、吉本新喜劇でも観ようか。それから、アメリカ村とかも行ってみたいな」
「あんまし大阪に詳しくないんだけど、かなりの都会だし、高校生3人がブラブラ歩いても大丈夫なの?」
「何それ、物騒だってこと?」
「うん、まあ……」
「それなら安心しといて、あそこにマッチョな男の人が立ってるでしょ」
奈波は千里が指差した方向を見ると、サングラスをした体格の良い男性が、建物の陰からこちらを睨んでいた。
「だ、誰よ?」
「私のお父さんが警察の偉い人だから、腕っぷしのいい人を呼んでくれたんだよ。ボディガードってやつ」
「それは凄いな……」
「さっきも道頓堀の橋の上で30代くらいのオジサンに声を掛けられたけど、あの人に捕まって軽くボコられたみたい」
千里の言う「軽く」の程度は分からないが、ボディガードがいれば確かに安心ではある。
しかし、常に監視されているため、不審な動きをすると怪しまれそうだ。
(これだと、二人と一緒にメモヴェルスの欠片を探すのは無理そう。でも繁華街で見つからないし、大阪の郊外へ行く必要があるから困ったな……)
奈波はしばらく考えたが、やはり二人から離れて単独行動することに決めた。
(二人とも、ゴメン!)
心の中でそう謝ると、奈波は二人の目を盗んで反対の方向へと歩き出した。
そして、人混みに紛れながら小さな路地へ足を踏み入れ、物陰へ隠れて二人をやり過ごそうとする。
(よし……撒いたみたいだ)
奈波は周囲を確認しながら表通りへ出ると、近くにある地下鉄を目指して歩き出そうとしたが、急に誰かに腕を掴まれてしまう。
「どうしました? 一人で行動するのは危ないですよ」
見ると、先ほど見たボディガードである。
「あ、あの……ちょっとこっちに用があったんです」
「ダメダメ、そんなことしちゃ。もしお嬢さんの友達に何かあったら、私の責任になります。二人と一緒に行動してください」
ボディガードの男は、奈波の手を引いて二人が歩いている場所まで戻ろうとした。
「ぐわっ!」
――だがその時、男の頭部から鋭い刃物のようなものが突き出し、凄惨な光景を見た歩行者は次々と悲鳴を上げ、一目散にその場から逃げ出した。
そしてボディガードの男は地面へ倒れ、二度と起き上がることなく絶命する。
「……やれやれ、連中の酔狂に付き合わされるのは御免被る」
背後で声がしたため奈波は振り返ると、そこには二本のレイピアを手にしたソルトニスが立っていた。
「おまえは……確かソルトニスと名乗った刺客だな」
「左様でございます。どうですか進捗は? メモヴェルスの欠片は見つかりましたかな?」
「おまえが隠したんだろ! これから探すところだ」
「そうですか。では、面倒なので種明かしをしましょう」
ソルトニスは、懐からメモヴェルスの欠片である一枚のカードを取り出す。
「それは……メモヴェルスの欠片じゃないか! おまえが持っていたのか」
「その通り。これで見つからない理由が分かったでしょう、私が隠し持っていたからですよ」
ソルトニスはギャハハハと耳をつんざくような笑い声を上げ、奈波は思わず手で両耳を塞いでしまう。
「おや、これは失礼。私の声は10km先まで聞こえるほどの音圧ですからね。さぞかし煩かったでしょう」
「それを返してくれ。善き者も悪しき者も、メモヴェルスの欠片を所持することは戒律違反だったはずだ」
「左様。我々がメモヴェルスの欠片を手にするのは立派な戒律違反です。では、お返しいたしましょう」
ソルトニスは、手に持っていたメモヴェルスのカードを奈波に渡す。
「ずいぶんとすんなり渡すんだな。おまえの企みが読めない」
「企みだなんて……そんな大袈裟な。単に時間稼ぎがしたかっただけですよ。貴方がすぐに穂積海斗とコンタクトして、イーテルヴィータを確定するのは困りますからね」
「時間稼ぎだと?」
「ええ。お陰様で穂積海斗が死んだ回数が49回に増えましたぞ」
「49……? 前から聞きたかったが、この回数に意味はあるのか?」
「もうすぐ思い知りますよ。では、貴方を東京へ転送しますから、すぐにでも穂積海斗と会ってくださいまし」
ソルトニスは、目を閉じて呪文のようなものを叫ぶと、周囲の光景がグニャリと歪んで奈波は軽いめまいを起こす。
(大阪へ飛んだ時と同じだ……こいつがやったんだな!)
奈波は軽く頭を振って正気を取り戻すと、歪んだ景色は治まり、いつの間にか海斗の自宅前で立っていることに気が付いた。
「えっ……!」
見ると、海斗の家は炎で包まれている。
驚いたことに、家の中から叫び声のようなものが聞こえたため、おそらく人が残っている可能性が高いと思われた。
奈波は一瞬狼狽えたが、すぐに頭を切り替え、炎の中に飛び込んで家の中を探そうとする。
「誰か! 誰かいますかっ!」
大きな声で呼んだが、返事はない。
ハンカチで口を押さえながら廊下を進むと、床に海斗らしき男が倒れているのが見えた。
「海斗っ!」
奈波は気を失って倒れている海斗を抱き起こし、何度も名前を呼んだが、一向に目を開ける気配はない。
「そ、そうだ! イーテルヴィータを確定すれば、超人的な力を取り戻して助かるかもしれない!」
すぐに懐からメモヴェルスのカードを取り出すと、海斗の手の平に置いてしばらく様子を見る。
そして1分後、閉じていた海斗の目がゆっくりと開いた。
「おい、しっかりするんだ! すぐにここから逃げるぞ!」
――しかし。
「うわああああああああああ―――っ!!」
海斗は目を覚ました途端、狂人のような叫び声を上げた。




