表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夢想

作者: なごみん2.0

その日は日曜日だった。

不思議なことに朝からすっきりと目覚め、驚くほど体も軽かった。

実に気分が良かったので、窓を開けて散らかし放題の部屋の片付けを始める。

布団を干し、絨毯を干し、棚を整理して、散らかしたままの道具類を収納していく。

床のごみは分別してごみ袋へまとめ、掃除機をかける。

あまりにも順調に片付いたのでそのまま隣の部屋、風呂場、台所、トイレ、玄関へと勢いのまま手をつけていく。

なんだかんだ3時間ほど作業をしていたらあらかた片付いた。

と同時に空腹を感じた。

とはいえ、そのまま食事を準備するのも"あれ"なので、ピカピカになった風呂場へ直行する。

軽くシャワーを浴びてすっきりすると、パスタが食べたくなってきた。

湯を沸かし、玉ねぎを薄く、人参を細切りに、ベーコンのブロックを取り出し少し太めにカットする。

隣の鍋は既にグラグラに沸いてあるのでパスタを丁寧に放り込む、勿論塩は入れてある。

舞茸をちぎりつつ、順番にオリーブオイルで炒めていく。

茹で上がったパスタを具の方へ移し絡めると、コンソメを半分具の方に入れたら鷹の爪と塩と黒胡椒で味付けしていく。

ニンニクは手持ちがなかったので、チューブのおろしにんにくを入れる。

良い具合だ。

適当な皿に盛るとテーブルへと運ぶ。

サラダでもあれば完璧だったが、「あいにくと新鮮な野菜をストックできるほどマメではないなぁ」と思いきや、昨日ビールと一緒に買ったセロリとポテチを思い出す。

サクサクとセロリを薄切りにしてボウルに入れるとポテトチップスを軽く砕きながら乗せる。

簡単サラダの出来上がりだ。

早速いただくとしよう。

水出しコーヒーを横に置いて手を合わせる。

うーん。うまい!

パスタのちょいピリ辛な感じとオリーブオイルの風味がたまらない。

新鮮なセロリはパリパリのポテチと食感を引き立てあって、それでいて苦みはない。

パスタなので音をたてないように食べているが、あっという間に平らげてしまった。

時間はちょうどお昼を回るくらい。

窓から心地よい光が差し込んで、のんびりとした時間が流れていく。

音楽でも流してもいいかもしれない。

とりあえず洗い物をしているとなんだか眠たくなってきた。

ここはあえてキャンプ用のコットがあるので、取り出してぱぱっと組み立てて寝ころんだ。

うーん。楽しい!

そして、そのまま眠りに落ちた。

薄く開けた窓から、心地よい風が入ってくる。

普段ならここで夕方まで眠ってしまって、無駄な一日を過ごしたと落胆するところだが、今日は30分ほどで目が覚めた。

眠気もない。

今は13時のちょっと前。

なんだか最高に気分がよくて、写真でも撮りに行きたくなった。

車かなぁ、バイクかなぁと考えたが、自転車で行くことにした。

干していた布団と絨毯を取り込みもとの場所に設置、水出しコーヒーの残りを水筒に詰め、小腹がすいたら食べようと、鮭のおにぎりを3つ作って保冷袋に入れた。

カメラバックの上には隙間があるのでおにぎりはそこ、水筒はサブで持っている古いニコンの80mm-200mmに一本退いてもらいなんとか納める。

今日はお留守番だ。

自転車はハンガーから下ろし、適正空気圧まで入れる。

荷物をもって玄関を出たら近所の道の駅まで出発だ。


道の駅に着くと隣の公園が紅葉で真っ赤な事に気がついた。

早速オリンパスと一脚を取り出し撮影を始める。

レンズはあえて42mm-150mmのズームレンズを使う事にした。

数枚撮ったが、途中で三脚へと切り替えてさらに撮影を続ける。

感度を上げれば問題ないのだが、12年の付き合いになるこのカメラはノイズキャンセルが少し弱い。

たまには三脚でじっくり撮るのも良いだろう。

心なしか、いつもより良い写真が多い気がする。

ふと、目線の先にベンチに座る若い女性が写った。

ちょっと遠かったので、ズームしつつ一枚。

絵になるなぁ。

何となく眺めていると、横に置いていた一眼レフを持ち上げ、眺めながら小首を傾げている。

気になることでもあるのかな?と思っていると、目があった。

軽く会釈して目をそらそうかと思ったが、思わず自分のカメラを指差して、「わからない?」のポーズをとっていた。

女性はしばらく動かなかったが、突然すごい勢いで頷くと小走りに駆けてきた。

ダークブルーのスキニージーンズに白っぽいハイネック、ブラウンのショートジャケットを着て、赤系のブーツをはいている。

思わず、自分の格好が変ではないかと焦る。

近づいてきた女性は若かった。

細身で黒髪のショートカット、あどけない感じの顔立ちに透き通った目、やや小柄で高校生のようでもある。

不謹慎だが、胸元の控えめというかほぼ主張してない感じがその印象を強めてもいる。

可愛いなとうっかり思ってしまった。

よく見るとややたれ目なのも好印象だ。

と同時に高校生なら、こちらが変質者扱いされてもおかしくないなと思った。

下手をすると一回りは違うだろうと考えて目をそらす。

話を聞くと、ISO感度の意味がよく分からなかったようだ。

どの設定にしても画像はきれいだし、ネットでは色々書いてあってどう参考にして良いのか分からなかったらしい。

僕はバックからサブの古いニコンを取り出すと感度の設定というのは、昔はフィルムによって決まっていたと説明した。

それはつまり、感度をあげれば暗いところでもシャッター速度が短くできて撮りやすいがノイズが入りやすいこと。

そしてつまり、逆に感度を下げればノイズの少ないクリアな映像が得やすいということ。

昔はフィルムの特性として、あらかじめ自分の撮影シーンに合わせてフィルムを選ぶ必要があったこと。

一概にどの感度が良いと言うものではなく、必要に応じて使い分ける必要があって、風合いによっても変わってくる、なんて自分でもよく分かっていないことを説明した。

彼女は、真剣な眼差しで聞いており、その横顔は結構大人びて見える。

設定画面を指差しながら説明していると結構伝わったようで安心する。

それにしても理解が早い。僕なら5~6回聞き返しているだろう、それも同じ所を繰り返し繰り返し。

僕はふと、彼女の写真を見てみたくなった。

相手は最新のソニーα7、画素数も機能も太刀打ちできないだろう、でも知りたくなった。

その事を思いきって伝えてみると、快く見せてくれた。しかもどの写真を見ても良いと言う。

僕にはそんな勇気はないが、全て見ても良いと言われた手前、僕の写真も全て見せることになった。

現代のカメラはすごい。受け取って操作してみてまず感じたのはそれだ。

モニターは大きく鮮明だ、撮った写真のフォーカスやブレまですぐに分かりそうだ。

そして、ピンボケも手振れもないのに、きっちりと狙ったところにピントが合っている。

被写界深度も良い具合だ。

そして何よりすごかったのは、美しい魅力的な写真が次々に表れることだった。

構図だろうか、設定だろうか。

とにかくすごい写真である、圧倒されてしまい良い言葉が出ない。

参ったなぁと思いながら隣を見やると、目を輝かせて食い入るように写真を見つめる彼女がいた。

何がそんなに良かったのか。

君の方が良いんだけどなぁ。

もしかしたら、レトロ感が良かったのかもしれないな。

なんて思っていると、本当に何枚か気に入ってくれてたらしい。

嬉しそうにこちらへ見せてくる。

確かに、僕も気に入っていた写真ではある。

だが、彼女の写真に比べたらと思い、こっちの方が良いよーと彼女の写真を誉めた。

そうして、しばらく互いの写真を誉め合っているうちにLINEで写真を送り合うことになった。

まさかこんなことでLINEアドレスを手に入れることになろうとは。

トップには「kana」と書いてあり背景は真夏のビーチとトロピカルジュースがきれいに写っていた。

定番だが綺麗で素敵な写真だなと素直に思った。僕のカメラではこの透明感は出ないかもしれない。PLでならもしや。

そういえばと、まだ名乗ってなかった事を思いだして名乗る。

彼女も自己紹介をしてくれた。

前田香奈。

年齢は20代、僕とは10歳くらい離れている。

こんなに可愛いのに今まで彼氏がいたことがないらしい。

どうも熱中するとそっちに飛んでいってしまい、相手が呆れてしまうそうだ。

一度我慢して一日付き合った人も居たそうだが、目線が飛んでいってしまっていたようで、今は疎遠な友人であるとのこと。

そんな話のなか、始め見たときは高校生だと思った事を話すと、少し唇を尖らせながら、あまり若く見られ過ぎるのも嬉しくないんですよと怒られてしまった。

年齢が少しだけ近かった事もあり、その表情はさっきよりも数段可愛かった。

時間は15時、ぼちぼち小腹が空いてきた。

隣でカメラをとっかえひっかえしながら、写真を見ている彼女にお腹空かない?と尋ねると。

がばっと振り向き「すきました」と言った。

その真剣な目に少し驚く写真を確認していたからなのか、本当にお腹が空いていたからなのかは分からない、後者だとすればきっと野性動物のそれに違いないな、なんて思っていると。

何かお持ちなんですか?と聞いてきた。

僕は、ちょっと気恥ずかしさを感じながら、おにぎりならと差し出してみた。

食べる?何の変哲もないおにぎりだけど。と聞いてみると嬉しそうに一つを取り、アルミホイルを剥がして頬張った。

一瞬、そのまま動きを止めたので不味かったかな?と思ったら。

鮭だぁ、と嬉しそうに笑った。

途方もなく可愛い。

人生においてこれ程幸せなことがかつてあっただろうか。

今まさに絶頂期であると言っても過言ではないかもしれない。

その幸せを噛み締めつつ、僕も一口頬張る。

と、視線を感じた。どうもこちらの具が気になるようだ。

残念ながら鮭しか作って来なかったと伝えると、いいのいいの。と渡した分を嬉しそうに食べてしまった。

何となくその流れで水出しコーヒーをカップにいれて渡すと、それも嬉しそうに飲んでくれた。

今日はぽかぽか陽気で良かったなぁと思う。気温が低かったら水出しコーヒーは申し訳なかったところだ。

おにぎりはあと一つ、差し出したらはんぶんこにしてくれたので、一緒に食べた。

なんだかとっても幸せである。今度おかかと昆布を覚えよう。

昆布は水で戻して出汁と砂糖と醤油で煮込めば出来るだろうか、おかかは想像できん、ネットで調べよう。

そのあとも写真を撮ったり見せ合ったりした。

気がついたら10歳も年下の彼女に僕は惹かれていたのかもしれない。

何枚かカメラを構えている彼女を自分のカメラに写し込んだ。


日が傾いてきた頃、公園の中は写真が撮りにくくなるくらいには暗くなってきた。

とはいっても、彼女のソニーはまだまだいけそうだったが暗くなる前に帰ろうということになった。

撮った写真を見たかったのも少しある。

せっかくなので最後に並んでツーショットを撮ることにした。

セルフタイマーで撮れば良いのだが有線のレリーズに興味を持った彼女のために、レリーズで一枚。

有線だったので距離は近かったが、楽しい写真になった。

カメラを片付けて帰る準備をした後、自転車を押しながら彼女の車まで行く。

スズキのアルトラパンそれが彼女の車。

少し大人しめだなと思いきや、ラパンSSの5速だった。

さりげなく下げてある車高は気がつかなければノーマルに見えるかもしれない。

ちょっと除くと黄色のバネが見える。

極端に固くしてるようには見えないので、さりげなくスポーツにしてあるようだ。

ホイールは純正っぽく見える社外。

いや、カプチーノの軽量ホイールかも。

タイヤはネオバ。

LINEで写真を送って下さいねーと言いつつ車に乗り込むと、手をふりながらするすると走り去っていった。

見送った後、なごり惜しかったが僕も自転車にまたがって帰ることにした。

良い写真が撮れていることを期待しつつペダルを踏み込んでいく。

彼女の写真を見たい。そんな思いもあったかもしれない。

そんな思いを乗せて自転車はぐんぐん速度を上げていった。



時間は17時30分

西日が差し込む部屋で目が覚めた。

気が付かないうちに眠ってしまっていたようだが、記憶がうまく噛み合わない。

散らかったままの部屋

ボサボサの頭。

部屋の隅に置いてあるカメラとバック。

洗い物が残ったままの台所。

ふと、スマホが目に入ったのでLINEを開く。

トークを探してももちろん「前田香奈」は出てこない。

カメラを取り出してプレビューを見るが、今日の写真は一枚もない。

全くもってただの一枚も。

そして、気がついた。

なんと言う事はない、ただ一日中寝ていただけのことである。

夢だったのか。

夢だった。。。のか。

あんなにわくわくした思いも、照れくさかったあの瞬間も。

目が回る。

なんだか無性に腹が立ってきて三脚とカメラをセットする、セルフタイマーを使えば良いところをレリーズを繋いで。


シャッターを切った。


そこにはピントのぼけた冴えないおじさんが一人写っていた。

こんにちは、なごみん2.0です。


このような「クソ」みたいな話を読んでいただき誠にありがとうございます。

クソみたいなどと過激な発言をしたのは、僕自身落ちがひどいよぅ(泣)と思ったからです。

※中年独身者には悲痛な話かなぁなんて。。。。へへへ。

まぁ割とありきたりな落ちの読みやすい話だったと思います。

多分読んでて、途中で気づかれた方も多いんではないでしょうか。

まぁ、短編なので許してくださいまし。


個人的に気になることはある程度潰せたと思うのですが、いくつか。

女性の年齢を知ってから、急激に惹かれている感じがうまく伝わるといいなぁと思ったこと。

服に関しては全くの無知なので、ダサくなってなければいいなぁと思ったこと。

あえて男の容姿については細かく書かずに、感情移入というか自身に投影してしまうというか、えーっと。。。そういったものを意識しました。

それと、これが一番大きいのですが、タイトルを「夢想」ではなく、「敗北」にするかどうかは、今でも迷っています。

何と申しましょうか、ある条件である年齢に達すると、このストーリーが刺さっていい感じにダメージが入ると思うので、拙いながらもそこを狙ってみたのです。

敗北(笑)

ご安心ください、僕にもクリティカルです。



さてこんなお話ですが、勢いでうっかり投稿してしまう流れになりました。

楽しんでいただけたら幸いです。

今後も、不定期に気が向いたら上げていけたらなー、なんて考えてます。


それでは失礼いたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ