テンプレートってなんだっけ?(二)
「らいぞーちゃん!大丈夫!?」
「らいぞーは平気でち!今はまず少しでも安全なところへ逃げるでちよ!高い木に囲まれたあそこは危ないでち!」
ぼくらは藪の間や木々の隙間を抜けて村の広場までたどり着いた。なるほど、近道だ。
ちょっと毛並みが乱れるけど。
くしくししたいけど今はそれどころじゃない。
見上げると、相変わらず魔王が無邪気な笑みを浮かべている。
やっていることは凶悪なだけに、いっそう不気味に思えた。
ぼくらに何ができるのか。考えろ、考えるんだ!
「なんだなんだ?せーっかく我が盛大なる花火を打ち上げてやってるのに反応が悪いぞ??くぁ~っはっはっはっはっ!」
攻撃されていい反応なんてできるもんか!
魔王が尚も話続けようとしてるその時、どこか遠くの方からチタタタタッと足音と声が、かなりの速度で近付いてくるように聞こえた。
「ま~~~~お~~~~う~~~~しゃ~~~~ま~~~~!!!!」
魔王が声が聞こえる方向を向く。
「おお!我が側近ぐりよ!!遅かったな!お主が来ぬから我が見事な花火を打ち上げ…ぶげらっ!?」
上機嫌だった魔王は、突如横から現れた(ぼくらにはそう見えた)スタンダードグレー(恐らく「側近のぐり」とか言う者だろう)の跳び蹴りを、顔面に受けて吹っ飛んで行った。
映像から消えてったので、多分だけど。
「皆しゃん!すみませんでし!お詫びはいずれ必ずしまし!」
ぐり?って人はあわててお辞儀をして魔王が吹っ飛んで行った方向に向かって怒鳴った。
「魔王しゃま!あれは花火じゃなくて雷撃でし!!打ち上げてないでし!落としてまし!無関係な村を攻撃してどうすんでしか!!」
「いやでもだってな?勇者の残…「っとうっ!!」むぎる!?」
魔王が何か言い訳してそうな雰囲気だったが、ぐりが力を貯めて跳んで行ったので、また蹴られるか踏まれるかしたのだろう。
まだまだ二人の言い争いは続いていたが、途中で唐突に映像が消えた。
同時に、村の上空に渦巻いていた雷雲もあっという間に逆再生するように消えていき、雨上がりのようなスッキリとした空気に変わる。
悪夢でも見たのかと思いたかったけれど、雷が落ちた影響で、あちこちにぶすぶすと煙があがっていた事が、現実であると突きつけてきた。
ぼくらは、村の人達も毛並みがボワボワから、ボワッ、モフモフ、モフ、と段々落ち着いてきて、我に返った者からくしくし、カジカジと毛繕いをしだす。
ぼくもわちゃちゃちゃちゃっと毛繕いをして、改めて村を見回す。
幸か不幸か、見る限りでは、被害を受けたのが広場や丘上の稽古場、背の高い樹木位で、人や家屋等には損害がなさそうだった。
「何だったんだろう…」
さっきの…ぐりって…何かがひっかかるような?…。
ホッと一息をついたところに雷蔵ちゃんが声をかけてくれる。
「魔王っておっそろしかったでちね~おはぎさん」
「うんうん。怖かったよね~。最後…側近に蹴られてたけどね。…雷蔵ちゃん…ありがとうね。雷蔵ちゃんのお陰で助かったよ…それで…その…」
「気にしないでいいでち!こういう時は助け合いでち!普段はおはぎさんに助けてもらってるんでちから!」
「あの…」
「…?何でち?」
首をかしげてこちらをみつつ、てやんでいと小さいおててで鼻を擦る雷蔵ちゃんは、目がきゅるきゅるしてて、大変可愛らしい。でも…。
「雷蔵ちゃん…雷蔵ちゃんが青白く光ってて…なんか…パリパリ音がしてるけど…大丈夫?」
周りが落ち着いて来ている中、雷蔵ちゃんだけは全身の毛が逆立っていて、尻尾もボワボワしていて蒲の穂のようになっている。小さい稲光のようなものが、毛のそこここでパリパリしている。
稽古中にも似たような感じになっていた事があるけれど、ここまで酷くはなかった。
静電気なんてモノじゃない。
「まるで電気ネズ…」
おっと!それ以上は言ってはいけない!大企業に怒られるからね。
…ん?ダイキギョウって何?デンキネ○ミって何!?
ぼくらの姿に似た黄色い何かの姿がよぎる。
はて、なんだこの記憶?
ぼくが勝手に混乱している中、雷蔵ちゃんがなんてことないように言う。
「あぁ~、これでちね。雷を溜め込んじゃったみたいでち!」
「え゛…大丈夫じゃなくない?」
「ニヒヒ。実はらいぞーは雷属性持ちなんでち。多少の雷くらいどんとこいでち!」
「そうだったの!?かっくいいね!!」
知らなかった。あれは多少の雷じゃなかったと思うけど、雷耐性があるってことかな?すごい強みだと思う。
ぼくは思わず雷蔵ちゃんに近寄ろうとするけど、「そこまで!」と止められてしまった。
「今少しずつ放電してまちから、危ないでちよ?」
ビリッ!
「う゛!!ら、雷蔵ちゃん…そう言うのはもう少し早く言おうね」
ちょっぴりビリビリを食らっちゃった…。
「あ~ごめんでち。ま、まぁちょっと静電気の強いやつ位でちから!」
「それ割りと痛いよね?実際痛かったからね?」
ニヒヒと笑って誤魔化す雷蔵ちゃんをぼくは涙目で睨む。
でもまぁ、確かに耐えられないようなものではなかったので許してあげる。
めちゃくちゃ痛かったけど。
それにしても、名は体を表すと言うけれど、雷属性を持っていた事に驚いた。
隠してるわけでもないけど、別に言うようなことでもなかったからだそうだ。
雷も多少は操れる程って謙遜してるけど、それだけでも大層な事だと思う。
その対応も含めて、普段は子供っぽい雷蔵ちゃんが、急に大人に見えた。すごくかっくいい!!
本当なら、雷蔵ちゃんはもっと強くなれるんじゃないだろうか。
今は自己流でしかないと言っていたけれど、ちゃんと学べば…。学ぶ…。
「…ぼくも…強くならなきゃ」
さっきの出来事を振り替えると、悔しくてたまらない。
何も役に立てなかった。
いざと言う時、雷蔵ちゃんに助けてもらえなければ、逃げることさえできなかった。
なんとなく剣士の職業があることで、村を守るのは自分だと勝手に思っていたのに、こんな体たらくで恥ずかしい。
もっと強くなりたい。村の皆をちゃんと守れる位に。
魔王がチラッと言っていた勇者。
勇者みたいな人だったらあんなことにならなかったんだろうか。
たまたま今回は助かったけれど、いつまた襲われるかわからない。
でも、強くなる為には、自己流じゃダメだ。
もっと鍛えなければ。
基礎から学んだ方がいいかもしれない。
でも、それには…。
決断の時が来たのかもしれない。
まだ少しパリパリしてる雷蔵ちゃんを見て、村の皆を見て、一つ深呼吸をする。
「…おはぎさん、どうしたんでち?いつもよりお顔がキリッとしてまち」
「あのね、雷蔵ちゃん…」
親友である彼に、ぼくの気持ちをきちんと伝えようと思った。