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チンチラクエスト  作者: 鈴葉
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テンプレートってなんだっけ?(一)

なんだかんだといいつつも、ぼくは剣を振り続ける毎日だった。

最近は雷蔵ちゃんも、ナイフを手に入れて相手をしてくれるようになった。

雷蔵ちゃんのお父さんも、僕との稽古ならと、お店を抜け出しても文句を言わず送り出してくれるようだ。

いつもの稽古場は村を一望できる小さな丘。

雷蔵ちゃん命名『ファスタヒルズ』。

「なんかいい感じだからでち」って言ってたけど、そんな大層な場所じゃないと思うんだよ?

なんでか『ヒルズ』ってつくとすっごいおっきいとこだと思っちゃうのは何故なんだろ?

模擬戦をして、あらためてわかったけれど、雷蔵ちゃんはすばしっこくて、相手としては中々の強敵だった。

逆に雷蔵ちゃんからすると、やはり剣のリーチの長さは間合いを取るのが難しいらしく、お互いに弱点を克服するには相性がいい相手だと思う。

だけど、雷蔵ちゃんの気迫のせいだろうか。

たまに毛が逆立つような感覚を覚えることがある。

それだけの殺気と言うかオーラ?を放つ雷蔵ちゃんはすごいと思う。そう伝えたら、

「いやぁ~?それきっと、静電気でちよ?ニヒヒ」

と笑った。

「静電気…かなぁ?なんかそれだけじゃない感じがするけど…」

「そんなの気のせいでち!毛のせいでちよ!おはぎさん」

「ん?気?毛?」

「毛のせい毛のせい~♪なんせらいぞーたちはもふもふの毛だらけでちからね~♪」

そう。もふもふの塊と言っても過言ではない。

密になったビロードのような手触りは撫でるとなんとも言えず、思わずチラ吸いをしたくなってしまうほどだ。

…チラ吸いってなんだろう?

あぁ、いけない。

また雷蔵ちゃんが可愛く見える…あのもふもふに…顔を埋めて…思いっきり深呼吸を…

「しないですよ!?」

思わず漏れてしまった心の声に、雷蔵ちゃんはびっくりして耳をピーンと立ててお手々もキュッと胸元へ収納して目を見開いていた。

「どうしたんでちか?おはぎさん」

「あぁ…いやその…なんか、いけない道に行きそうで…その…なんでもない」

「変なおはぎさんでちね?ちょっと休憩するでち」

「うんうん、休憩しよ~」

二人して草むらの上に座り込む。

この後も稽古して、

稽古の後は村の共同浴場に行って一緒に砂浴びをする。

最近のルーティンだ。

砂浴びに行くと、ぼくは豪快に浴びて真っ白になって誰かわからなくなっていつも笑われる。

砂がつくとくすぐったくなって、くしくしもするけど、わっしゃわっしゃしちゃうみたいで、それも笑われる。

「普段大人っぽくて穏やかなのに」って。

どうしてもこうなっちゃうけど、いいんだ。

お母さんが言ってた。お父さんとそっくりだって。

お父さんの記憶は僕にはないけれど、似てるって言われて嬉しかった。

村の中には親に捨てられて可哀想な子と言う人もいたけれど、お父さんには使命があると、お母さんは繰り返し繰り返し、ぼくがお父さんのことを理解できるように語ってくれた。

色んな冒険の話はワクワクしたし、いつかお役目を終えたら迎えに来てくれるって。

だからぼくは村にいるつもりだった。

ここはいいところだ。

両親共にいなくなってぼくはひとりぼっちになった。

そうしたら同じひとりぼっちだっておばあさんが、まだ小さいぼくの手を取って、一緒に暮らそうと言ってくれた。

村中皆で育ててくれた。

両親のことをあれこれ言う人もいたけれど、それもぼくを心配してくれてのことだ。今ならそれも理解できる。

使命を果たす旅にはぼくは足手まといになる。

だから泣く泣くこの村にぼくを残していった。

可能な限りのお金や物品も置いていったみたいで、おかげでおばあさんと僕、二人暮らしてこれた。

「幸せ…なんだな…」

ふと、呟く。

「らいぞーもでちよ~」

ふとした呟きに、雷蔵ちゃんはごくごく軽く返してくれる。

そう言うところがいいな。

ニヒヒと顔を見合わせて笑う。

雷蔵ちゃんとの出会いも本当に幸せだ。

少し喉が乾いたのでそこら辺に一人生えした生チモシーをブチッとちぎって口に放り込む。

生もたまには悪くない。

水気があって、お腹にもたまる。

軽いおやつにちょうどいい。

見てると雷蔵ちゃんもブチブチちぎってはむしゃむしゃ食べていた。

雷蔵ちゃん食べ過ぎてたまにお腹壊してるけど大丈夫かな。

いつまでもこうしていたい。

だけど、雷蔵ちゃんのお父さんと話をして、気づいてしまった。

ぼくは村を出てもいい。両親を探したっていいんだ。

ぼく自身の冒険の旅に出たっていいんだ。

わくわく。

旅に出たいという願望が、心の奥底にあったなんて。

もし、出るならトレーニングが必要だ。旅に出られる位強くならなきゃ。

誰かに師事した方がいいかも。

少し大きな街に出てみるのもいい。

武器は雷蔵ちゃんのお父さんからもらった長剣があるけど、防具も必要だし、お金が足りないなぁ。

最近雷蔵ちゃんのところでお手伝いをさせてもらってるから少しお給料はもらえてるけど。

雷蔵ちゃんは楽ができてるけど小遣い減らされたって笑ってたけど。もっと頑張らなきゃなぁ。

夢だ。きっと夢。でも、実現できるかも知れない夢。

やっぱり、わくわく。

そんな取り留めもないことを考えながら、のんびりと雲一つない青空を眺めてた。

そんなぼくを雷蔵ちゃんが少し寂しそうに見てることには気付かなかった。

「おはぎさん、らいぞーね…」

雷蔵ちゃんが何かを言おうとした時、急に空の一点にぽんっと黒い雲が現れた。

その黒雲はぐるぐると渦を描き、みるみる大きくなっていく。

思わず耳がピンッと立つ。

「雷蔵ちゃん、あれ、なんだろ…」

「おはぎさん…何か変でちね…らいぞーは…やな予感がするてち」

「奇遇だね。珍しくぼくもそう思う」

大空に広がる現象にはちっぽけなぼくらは無力だ。

ぼくらはなす術もなく見上げることしかできなかった。

雲の合間にはピシッパシッと稲妻が走り、あっという間に村の上空は黒雲に覆われてしまった。

見ると村人達も不安気にそこここで空を見上げている。

ぼくらは無意識に剣とナイフに手をかけていた。

鳥肌が止まらない。

ただでさえふわふわな僕らの体は全身の毛が立ってもっふもふになっていた。

雷蔵ちゃんを見ると真ん丸だ。

きっとぼくも同じだろう。

和むわ~。

「いや和まないよ!!」

「おはぎさんなにふざけてるでちか!!」

「ふざけてないんだよ~なんか…ぼくおかしい時があるんだよ~!!」

しっかりしろ!自分!

雷蔵ちゃんとぎゃいぎゃいしていると、黒雲の向こうに、マントをつけたスタンダードグレーの男が映る。

すげぇ。CGみたいだ。

シージーがなにか知らないけど。

「くっはっはっはっはっはっはっはっ!げふっげほっゴホッ」

突然映った人は高笑いをして、噎せた。

大丈夫だろうか。

「ん゛ん゛っ!気を取り直して、諸君!我は魔王である!我は世界を征服することにした!!」

これは戦闘不可避!?そっか~ボスが最初に来るパターンかぁ~。まぁテンプレと言えばテンプレかな。

え?どういうこと?他のパターンとかあるもの?そんなに魔王に遭遇するもの?と言うかテンプレってなんだっけ?

テンプレート?お決まりってこと?

魔王襲来がお決まりってあってたまるか!

「せいふく?」

「僕かっくいーのがいい!」

「あたちかわい~のがいい!!」

ピックロとポコリがのんきに叫ぶ。

そうじゃないと思うんだけど…なんか気が抜けるなぁ。

「おぉ!制服か!セーラー服とかブレザーどっちがいい?学ランも短ランやボンタンも用意できるぞ!」

相互交流できるんだ…。どういう理屈だろう。

「…たんらんぼんたん?なに言ってるかわかんないぞ?」

「ボンタンアメの、親戚?」

「きっとおいしいでち!」

「じぇねれーしょんぎゃっぷってやつなのか?ちょっと我ショック」

あれ?この魔王怖がらなくてもいいのかな?

調子が狂うなぁ。

「ええい!調子が狂う!!」

あ、同じこと考えてたみたいだ。気が合いますね。

「とにかく!てきと…いや、選らばれしこの村に、魔王就任の挨拶のため、大きな花火を見せてやろうと来てやったのだ!どうだ!嬉しかろう!!」

今適当って言おうとした。あの魔王。

適当で来ないで欲しい。かなりの迷惑だ。

ぼくは思わずジト目になったが、仕方がないと思う。

「ぼ、ぼくは全然ビビってないぞ!」

かど丸は腰がひけつつも叫ぶ。

うんうん。ビビるよね。相手魔王だし、なんかでっかいし。

突然閃光が走ったと思ったら、ガラガラドッシャーンと轟音がして、村の広場に煙が上がる。

「そら!花火だ!我の力を見よ!!ふは、ふはは、ふはははははははは!!んげっふ!ゴフッゴホッ」

大きな雷で恐怖に戦き…たかったのに締まらないな!あの魔王は!

幸い怪我をした人はいないみたいだ。

でもいつどうなるかわからない。

そして…今のぼくらじゃ絶対に勝てない。

ぼくは…どうすべきなのか。

そして、情けない事に散々ツッコんでいるのに、体は全く動けなかった。

もっふもふの丸いまま。泣きそうだ。

剣士とはこんなものじゃない。勇気が、力が欲しいのに!!

動け!動けよ!ぼくの足!!

魔王がニヤリとしてこちらを見た気がした途端、

突然横から衝撃が。

「おはぎさん!なにボーッとしてんでちか!!」

ぼくにタックルをかましてきた雷蔵ちゃんが叫ぶ。

「逃げるでち!次はここらに飛んでくるでち!!らいぞーの秘密の脱走経路教えてあげるから着いてくるでち!!」

そう言って僕の手を掴んで走り出した。

「ごめん!雷蔵ちゃん!ありがとう!もう大丈夫!走れるから村に降りよう!」

雷蔵ちゃんの渾身のタックルで少し正気に戻った

僕たちは手足を使い全速力で飛ぶように村へ駆け出した。

背後にはまた雷の落ちた轟音が聞こえた。

間一髪だった。

ふざけた態度なのに、魔王はやはり魔王なのか…。

ぼくらは対抗する術を持たない。

絶体絶命のピンチだと思った。



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