~side????~
ある一室に、その男は一人で立っていた、
部屋の中は暗く、たまに外の稲光が一瞬照らすのみ。
岩山を穿って作られた巨城の最上階。
調度類は豪華であるものの、どことなく古ぼけた印象を持つ。
「ふ、ふふっ、ふははははは!」
男は自分の置かれた環境をすぐに理解したようだった。
「クックックックッ!クハハハハハハハ!!!」
城の中に男の笑い声と稲妻の轟く音が響く。
「面白い!面白いぞ~!!そうか、このオレサマが!ふ、ふははははははは!!」
ひとしきり笑った後で、周りを見回すが、誰もいない。
城の内部が寂れているのは自分が目覚めるまで誰もいなかったのであろうと予想する。
「よし、これからは自分のことは『我』としよう。しかし…一人じゃなにもできんな。側近が必要だ」
男は思案して、自分がどのような能力を持っているか改めて確認する。
脳内にできるものが次々と浮かんでくる。
「お?なんか色々できそうだな~、と、なると召還!側近!!」
普通はそんな曖昧な側近なんて召還がうまくいくわけがないのだが、この男の能力がなぜかそれを可能にした。
ふざけた話である。
世の中の魔道士には噴飯ものである。
部屋の闇の中に薄青い光が魔方陣を描き、そこには呼び出されたモノがいた…。
「さぁ!目覚めよ!汝を我が側近とする!!」
その男がちいさな手を精一杯伸ばして、そのモノを迎えいれる。
「あぁ、やはりこの姿だといまいち格好がつかないなぁ…」
と、手をにぎにぎしながらぶつくさぼやいてると、
召還されたモノはゆっくり目を開き、
召還した主を認める。
「お呼びでしか……」
「おお!目覚めたか!我が側近よ!!クハハハハハハハ!」
「むにゃ…おやすなさい」
「いや寝ないで!?召還されたのよ!?理解して!?」
「突然呼び出されたこっちの身にもなってほしいでし…なんでしかここ…暗くて…眠…」
「いや、だから寝んといて!?」
呼び出されたモノは目をくしくし擦りながらようやく周りを見回し、そして、自分の置かれた場所がどこなのか理解できずに混乱した。
「う~?なんでしかここ?暗いし…雷うるしゃいでしよ?」
「ここは我が城である!!そなたを我が側近として召還した!!って言う空気を読め!!雷は我が出してる演出だ!!」
「…あ~なるほど~…?側近て…めんどくしゃいものをやらせましねぇ」
「もう!いいじゃないか!楽しいぞ?我と一緒にちょっと世界征服しようぞ?」
「あ~まぁ…んーと、えーと?その感じは…魔王しゃまでしか?」
「そうだ!我は魔王だ!」
「あ~…はいはい。今日は魔王しゃまって体なんでしね?」
「違うぞ!ぐり!我は本当に魔王になったのだ!!いつものごっこ遊びとは違うぞ!何故かチートな能力があることもわかるし、オレサマの中に何かが宿った気がするんだ!それが囁くんだよ!『魔王として遊べ』って!!」
「そんなテンプレートな…何に取り憑かれたんでしか?スターくん」
ぐりがジト目で自称魔王を睨む。
「違うよ!…いや、違うぞ!悪いモノじゃない!だって前から知ってるみたいな…懐かしい?親しい?魂みたいな感じで…オレ…ちょっと嬉しいんだ。なんか…一体感が…」
ちょっとはにかみながら語るスターは、普段なら微笑ましい光景だろうが、しかしこの稲光がビカビカしているシチュエーションだと、こうも邪悪に映るのかと、ぐりは寝ぼけた頭で思った。
「さっきの、召還?されたことで、『側近』をやらなくちゃいけないみたいでし…なんの強制力なんでしかね…仕方ないでしね。何したらいいかわかんないでしが…やるしかなさそうでしね。魔王しゃまの暴走を止める人も必要でしね…」
最後の呟きは魔王スターには聞こえなかったようだ。
「おお!ぐりよ!我を助けてくれるか!世界征服しようぞ!…あとな、側近だったらぐりの職業の『侍』も役に立つんじゃないのかと思ってな?」
「スター…じゃない、魔王しゃま…ぐりのことも考えて…」
「やっぱ戦うってなったら剣と魔法だからな!我は魔法がバンバン使えるから、剣は任せたぞ!!」
ちょっと感動しかけたぐりの涙は即引っ込んだ。
「刀と剣の違いもわかってないんでしよね…ぐぬぬ」
「またそんな素人にはよくわからん定義をだしてきて。いや~!!しかし!!色々できるぞ!遊べるぞ!楽しくなりそうだな!!クハハハハハハハ!!」
「その笑い方ってどうしたんでし?」
「魔王だからな!」
「それ把握したでし。とりあえずうるしゃいから雷落とさないで、普通に灯りを点けてほしいでし。有能な魔王しゃまなら簡単でしよね?」
「む?そうか!我は有能だからな!勿論そんなのは簡単な話だ!」
スター、魔王はさっと手を振ると、途端に雷はやみ、城中の灯りが点る。
本当に簡単に、自分の要望をかなえた事に目を見張る。
ぐりはため息をついてドヤ顔の魔王を見た。
この全能なるお調子者を放置していたらヤバいかもしれない。自分が手綱を取らなければ。
「それで?まずは何で遊ぶんでしか?」
なるべく人様に迷惑をかけない方向でいて欲しい。
ぐりが切に願うけれど、万能感に溢れる魔王には通じなかった。
「まずは、仲間だな!側近が一人では足りぬ。せっかくだから強そうな感じにしたいだろう?四天王とか、八部衆とか十二神将とかなんとか坂48とか…」
「魔王しゃま!!増やしすぎでし!!まずは付き合ってくれるかどうかでしよ?四天王から目指すべきでし…」
「お!そうか!四天王が一人!ぐりよ!!」
「あ~ぐりも入ってるんでしね」
「当たり前だろう!最低限あと二人は必要だな!」
「四天王に魔王しゃまをいれないでくだしい…」
「お?そうか?そうだな!女の子もいてほしいな!悪の幹部のNo.2はだいたい女の子だからな!」
「魔王しゃま?どこの知識でし?」
「『ニチアサ』ってやつはそうらしいぞ?」
「ニチアサ…?なんでしか?」
「我もよく知らぬ!が、面白そうではないか!」
「はぁ…まぁ…で、仲間を集めたら皆でごっこ遊びでもしましか?」
「何を言う!勇者を叩くに決まってるだろう!」
「勇者!?勇者なんて…生まれたとは聞いたことがないでし…」
「ぐり、我が魔王として目覚めた以上、勇者も存在しているはずなのだ。いや、むしろ存在していないといけない。勿論まだ目覚めていない可能性はあるがな。そやつはいずれ、我の邪魔になる。仲間を探しつつ、勇者をみつけたら排除するのだ!」
「排除…まさか…魔王しゃま…勇者を…殺めるおつもりでしか?」
ゴクリ、と喉を鳴らすぐりに、魔王はにったりと目を細めて言った。
「ぐり…お前は恐ろしい事を言うな」
「いや、魔王しゃまがそれっぽいこと言ったでし!!」
「まぁその時によるかな。…まだ何も考えておらぬ!」
えっへんと胸を張った魔王にぐりは脱力感を拭えなかった。
「とにかく、我が誕生したことを世界に知らしめ、盛大に祝ってもらおうではないか!!まずは、どこかの村で大きな花火でもあげるか!!いくぞ!ぐり!」
乗り気ではないのだが、どうやら魔王は転移も使えるようだ。
ぐにゃり、と歪む視界。
本当に有能だなぁ、と感心する。
魔王に召還されたことにより、役割が決まってしまったようだし、それから逃れることもできなさそうだ。
普段ならもう頭のひとつでもひっぱたいて終わるのに、なにやら反抗しつつも、魔王の望む通りに動いてしまうようだ。
なるべく…被害が少ないように動けたら…
その願いはどこまで叶うだろうか。
今回の遊びはいつもより長引きそうだと覚悟する。
「ぐりは…ボケの方だと思ってたんでしがね…ま、しばらくはお付き合いしまし。魔王しゃま」
何度目かのため息をつく、ぐりの前で、魔王の笑い声が響く。
悪役をする時に練習していた笑い方で。