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チンチラクエスト  作者: 鈴葉
33/41

とあるカフェにて(六)

「さ、遠慮せず」

そう言ってぐりさんは残りのパフェを平らげにかかる。

「ハーフサイズだったらおかわりもありでしかねぇ…いや…ん〜…」

待って、今恐ろしい事が聞こえたけど、この大盛りなパフェを食べておいておかわりも!?

どれだけ入るんでちか??

「あ、ポッセさん、食べきれないならぐりが…」

「結構でち!自分で食べられまち!」

あたちのパフェがまだ残っているのを見て、ぐりさんが目を輝かせて言ってきたので、慌てて食べだす。

おかしい。小さいとは言えサービスのシフォンケーキも食べたはずなのに…何故かするする入ってくのはマスターの腕なのか…それとも…この雰囲気なのか。

ふと見ると、ぐりさんが涙目になっている。

あ、割と本気で言ってたんでちね。

そもそも食べ残してしまったとしても、女性が手をつけたものを食べるとか…家族や恋人じゃないと普通しないと思うんでちが…。

この感じだと本当にもう少し食べたかっただけみたいでちね。

思わず笑ってしまうと、自分が表情に出してたことに気づいたのか慌てて取り繕っている。

何故だろう。

この人達といると、力が抜けてしまうでち。

素の自分でいられるような気がするんでちよねぇ。

彼らが自然体でいるからなのだろうか。

「ご馳走様でち」

すっかり空になったパフェの器を見て、また涙目になるぐりさんをスルーして、改めてコーヒーを一口。

柔らかな苦味と温もりがパフェで甘く、冷たくなった口の中を程よく洗い流してくれる。

余韻に浸っていると、いつの間にかぐりさんの前には先程サービスでいただいた小さめにカットされたシフォンケーキとたっぷりの生クリームが乗せられたお皿が置かれていた。

「あ、甘いものは別腹でしから!!」

思わずジト目で見やると、ぐりさんが慌てて言い訳するが、その前に食べていたのも甘いものでちからね?意外と食べるんでちね。この人。

「ポッセさん」

「なんでちか?」

「どうぞぐりのことは呼び捨てにしてくだしい」

「え?」

「ピノちゃんのお友達ならぐり達もお友達でし。平民なのもあるでしからね。『さん』付けしないでいいでしよ」

え…困ったでち。言われてみればあたち、今までに男性を呼び捨てにしたことなんてそうそうないでち。

が、頑張って呼んでみるでちかね。

あ、でもピノちゃんはぐりたんって読んでた…。

え?ぐりたんはちょっと近すぎるかちら?

とりあえず言ってみないとでちね。

え?呼び捨て?それともたん付け!?えーと、えーと…。

「ぐ、ぐり…ちゃん」

噛んだー!!!

噛んだしちゃん付けしちゃったし!

羞恥に悶えてるとぐりさんが目を丸くした後、ニヤッと笑う。

「これで友達でしね。『ポッセちゃん』」

お返しされたー!!!

恥ずかしい!

耳が真っ赤になってそうだけれど、必死に動揺を見せないように何喰わぬ顔でコーヒーを飲むけれど、手に取ったソーサーとコーヒーカップがカチャカチャと音を立ててしまう。

手が震えるのを止めきれなかった。

「ぶっはっ!!」

耐えきれないようにぐりさん…ぐり…もういい!あなたなんかぐりちゃんでいいでち!

ぐりちゃんが吹き出した。

もういいでち!笑いたければ笑うがいいでち!

「きょ、許可されてないのに淑女をちゃん付けで呼ぶものじゃないでち!」

「ぐりもちゃん付けの許可はしてないんでしがねぇ」

「ぐっ!!」

「ぶふふ」

「もぅいいでち!!あなたはぐりちゃん、あたちはポッセちゃん!これでお互い様でち!」

「これはこれは…ありがたき幸せでし」

お互いに視線があって、2人とも吹き出してしまった。

友達かぁ。今まで考えられなかった関係性になんだかくすぐったくなってきたでち。

「改めて、お友達になったポッセちゃんに相談があるでし」

「…なんでちか?」

あぁ、やだなぁ。そういう事なんでちか。

貴族であるあたちに伝手が欲しかったとか…そういう事だったんでちかね。

一気にテンションが下がり、警戒心が高まるあたちに、ぐりちゃんは慌てて手と首を振る。

「あ!違うでし!多分考えてるのとは違うと思うでし!…むしろ逆?になるかもでしが…」

「逆?どういう意味でち?」

ぐりちゃんがごそりと身につけていたらしいカバン(小さくて毛に埋もれてて見えなかった)から、魔道具らしきものを取り出して起動させる。

小さめの魔道具とは言え…カバン容量を考えると大きさがおかしい。

「それ…マジックバッグ…しかも結界??」

マジックバッグはダンジョンでドロップするか、ごく僅かいる作成できる人に依頼するかしかないため、かなり高額で取引されている代物。

高位ランクの実力者か、よほどの支払能力がある人でないと所持は難しいはず…。

「マスターを巻き込みたくないでしからね。ここからの話は、他言無用でお願いするでし。ぐり達の会話は周りに漏れないようにしたでし」

ぐりちゃんの空気感が変わった。

近くなったり遠くなったり。

距離感が掴めず混乱しながらも頷く。

何かが警鐘を鳴らしているけれど、一方で、好奇心が話を聞けと囁く。

「ぐり達のところに…就職しないでしか?」

「……は?」

「いや、だから、ぐり達と一緒に働かないでしか?」

「…いや、だから、はぁあ!?!?」

え?就職の話?え?スカウト??

「こんな大仰にしてそんな話でちか!?」

「あ〜そうなるでしよねぇ。でも大仰になっちゃうんでしよ」

「は!まさか何か違法企業?ブラックだとか!?ダメでち!しゃちくにはならないでち!!」

「ポ、ポッセちゃん?急に何言い出したでしか?」

あ、あら?自分でもよくわからない単語が出てきたのはなにかちら?

「あ〜…まぁ当たらずとも遠からずなんでしが…。今ぐりと、ピノちゃんは、スター君に仕えてるでし」

「あたちにも仲間になれと?」

「早い話、そうでしね」

「いくら仕事先を探してても、世間に顔向けできないような事はしないでち」

「…でしよねぇ。ポッセちゃんはスター君をどう思うでしか?」

「え…元気な子でちねと…」

「子…」

あ、ぐりちゃん崩れ落ちちゃった。

いやまぁ何か隠してはいると思うんでちが、人柄だけを見るとやんちゃな男の子というか。

「多分…何かすごい力を秘めてると思いまち。でも…話してると…無邪気でやんちゃな男の子というか…。あ、でも面倒見がいい…のかちら?豪快だけど、気の良い人でちね」

「ん〜大体正解でし。スター君は本当にいいやつで、小さい頃ぐり達は本当にスター君に助けてもらってたんでし。ぐりは、ピノちゃんも、幼馴染として、スター君が困ってたら何を置いても助けたいんでし」

「それは…いい関係だと思いまちが…あたちと何の関係があるんでち?」

「スター君は…職業(ジョブ)が問題なんでし…」

「職業?」

「魔王」

「まっ!!」

大声を上げそうになり、慌てて自分の口を抑えるけれど、結界が張られている事を思い出した。

そうか…このためだったんでちね。

「そんな…あんなパフェをクリームだらけになって食べる人が魔王??」

「うぅ…そうなんでし。スター君は無邪気なまま、ある日『魔王』という職業を授かって、力と財力等を継承したんでし」

「最近辺境のどこかで魔王が出現したって…まさか…」

「あの村の人達には申し訳ないことをしたでし…。後でとりあえず損傷したところを直しに行ったでし」

「直したんでちね…」

「直接謝罪は何かあるといけないからできなかったんでしが…スター君…魔王しゃまも悪意あってのことじゃないんでし…ただ空に大輪の花火を上げたくて…間違って大量の雷を落としちゃったんでし…」

「その間違い酷いでちね!?」

「無邪気に間違えただけなんでしよ…」

ある意味…悪意ある魔王様より酷いんじゃないんでちかね?

「ポッセちゃん…意外と冷静でしね」

「あ…」

本当だ。驚いたことは驚いたけれど、本来ならすぐにでも逃げて、国に報告すべき案件なのに。

余りに現実離れし過ぎてて受け止めきれていないのかもしれない。

何より…この人達…悪い人じゃないってのは短時間だけれど、一緒に過ごした時間でわかってしまった。

「…あたちは…」

「ポッセちゃん、勿論断ってくれていいでし。無理を言ってるのは承知でし。でも、ぐりは、ぐり達は、魔王しゃま…スター君を、そして世界を救いたいんでし」

「世界を??」

「スター君は職業としてたまたま魔王を授かっただけ。現時点では力を持て余しているだけでし。でも

いつか覚醒するかもしれない。その時にぐり達は彼を止めたいんでし。スター君を世界の敵にしたくないんでし!!でも…ぐり達だけでは火力が足りない…ポッセちゃんは完全にではないにしても彼を止める力がある。一緒に彼を…世界を救って欲しいんでし!…勿論福利厚生ばっちり、高給なのは保証するでし!…させるでし!なんせ過去の魔王の遺産を全部相続してるでしからね。なんなら国を立ち上げてもいいくらいでしからね」

「国を!?」

「…最悪それもありかなと思ってるでし。各国の把握していない土地があればそこに国を興して国内だけで魔王として君臨してもらうでも…。誰も…ぐり達以外は評価してくれない仕事でし。世界を救えたということもひょっとしたら日常を過ごす人達にはなんにも伝わらないかもしれない。場合によっては魔王軍の一員だったと言われてしまうかもしれない。でも、彼を…ひいては世界を救うためにらポッセちゃんの力が必要なんでし!()()()()()()()()()()()()()!!」

ガンッと音を立てて頭を下げたぐりちゃん。テーブルとおでこの間から煙が出ている。

ピノちゃんのデコピンと同じレベルなのかちら…絶対痛い。

断るべきだ…普通ならそう。

けれど、面白い。そう思う自分がいる。

なんて魅力的な事を、擽られる事を言うのだろうか。

勇者じゃないのに、魔王の側にいて暴走を止める。勇者じゃないのに、世界を救うなんて…。

そんな発想があったなんて!

これが物語だったら悪と正義は完全に別れていて、悪者は悪者だった。

周りの人達も全員等しく。

でも、今、眼の前にある物語は、そうじゃない。

先がわからないこの物語の出演者にあたちはなれるのかもしれない。

…家の方針とは違った道を歩むあたちを両親は怒るでちょうね。

でも、このヘンテコな物語に、登場人物達に魅了されてしまったようだ。

「人前には出られないでち。もしくは正体を隠すのでもいいでちか?」

「当たり前でし!できればぐり達はいつか普通の生活に戻れるようにしたいんでし!」

魔王しゃまが出たがりだから厳しいところもあるんでしが…と呟いているぐりちゃん。

うん。大変そうでち。

「いいでち!魔王様のマナー教育を頑張るでち!」

「受けてくれるんでしね!ポッセちゃん!!…ん?マナー?そうじゃなくて!!」

「ふふ、わかってるでちよ」

ぐりちゃんがほっとした顔をして魔道具をしまう。

「パフェ、月一回は食べたいでちね〜」

「月一回…福利厚生でなんとか…」

「バターン!話は聞かせてもらった!マスター!月一回必ずここに来るからすぺしゃるパフェを提供してもらえないだろうか!!手付を払ってもいい!」

「具材はその時によって変わってもよろしければご用意致しますよ」

「よし!手付を払うか!!」

「それは結構…いえ、では次回一回分だけ先払いで予約という形でいかがでしょうか?」

「うむ!」

マスター割と商魂逞しいでち。

あとスター君…いえ、魔王様、結界張ってたけど聞こえてたのかどうなのかちら。

「ポッセちゃん」

気付くと隣にピノちゃんが座っていた。

「月一回デートしてくれるんでしゅか?」

なにかちら。このあざと可愛いの。

「ピノちゃん、これからポッセちゃんも一緒に動いてくれるんでしよ。皆でパフェを食べに来るでし。…ぐり達の志を理解してくれたでし」

ピノちゃんが目を見開くと、瞬く間にうるうるとさせる。

「ポッセちゃん…ありがとうでしゅ…ピノ…嬉しいでしゅ!女子会するでしゅ!お買い物も一緒に行くでしゅ!それから、それから…」

「はいはい。長い付き合いになりそうでしからね。それは後でゆっくりと」

「おお!ポッセ!「ポッセちゃん!」…ちゃん!我がまお…むぐむぐぐぐっ!?ぬおっ!?」

呼び捨てにしようとしてピノちゃんに睨まれてちゃん呼びにする魔王様。

新鮮でちね。

そしてまたぐりちゃんに紙ナプキンを口に突っ込まれて、ピノちゃんからデコピンを喰らってる魔王様…。

本当に魔王様なのかちら?

ピノちゃん達は…この日常を守りたいんでちね。

いいでち。誰も評価してくれなくても。

()()()()()()()()事を見つけた。

やりがいがあり過ぎる。

いずれ訪れる本当の覚醒の時、まっさきに魔王様を止めてあげる。

あたちなら…ピノちゃんとならきっとできる。

そんなドキドキするような事なんて今後あるはずがない。

お父様、お母様…ごめんなさい。

ポッセは…世界を救う為に、修羅の道を選んだかもしれませんでち。

でもきっと…一番自分らしくある事ができると思うんでち。

いつか、胸を張ってご報告に行きます。

そうなれるよう頑張るでち。

あなた達の自慢の娘でいられるように。

3人は変わらずわちゃわちゃしている。

この中にあたち…きちんと入れるかちら?

ううん。迎え入れてくれる。彼らならば。

願わくばこの日常が少しでも長く続いては欲しいけれど。

すっかり冷たくなってしまったコーヒーを一気に飲み干す。

冴えた頭でこれからのことについて思いを馳せた。





















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