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チンチラクエスト  作者: 鈴葉
30/41

とあるカフェにて(三)

あたちの憂鬱と、マスターの気遣いを一気にぶち壊す喧騒が聞こえる。

この静けさが気に入って雰囲気に浸っていたのに、気分もぶち壊しだ。

とはいえ、ここはマダムだけではなく、学園の生徒や観光客も割と気軽に入れるカフェなので、賑やかな時がほとんど。

だから余計に貴重なまったり空間が一気に霧散してしまった。

あたちの憂鬱と共に。

浸れる環境があるから遠慮なく物憂げにできるわけで、内容ははっきり聞こえないにせよ、何やら愉快そうに言い合う声が聞こえてくると、アンニュイな気持ちより軽くイラつく方が上回ってくる。

人の気持ちとは不思議なものである。

シャラリと軽いドアベルの音と共に複数の人影がさした。

「いらっしゃいませ…ドアの開け閉めはお静かに願いますよ」

「すまぬ。間違えたようだ」

にこやかなマスターが迎えると、間髪入れずバタンと閉まった。

失礼極まりないでち。

マスターはそれでもにこやかに、カップのお手入れを再開させた。

1年に数度は似たような事があるので慣れているのだろう。

学園の新入生や観光客等、この店に前情報無く入ってくると、一瞬びっくりするようだから。

そういう人は大体入ってこない。

気まずいからだろう。

あたちは外のことを気にしないよう、残ったコーヒーをいただく。

ずびしっ!!

一口、香ばしい苦味と少しの酸味にどうにか自分を取り戻そうとしていると、外から異音がした。

思わず口に含んだものを噴き出しそうになるのを必死でこらえる。

立て続けに何度か音がして、一瞬の静けさの後に、またしても扉が勢いよく開かれる。

「たのも〜う!!」

「嘘でちょ!?」

なんて挨拶で入ってくるの!?

と、思うと同時に、

ずびしっ!!

ドアを開けたスタンダードグレーの人物は、容赦なくデコピンを喰らわせられ額から煙を出しながら床に沈む。

なんか…女の子にめってされてる。

見ているだけならすごく弱そうなのに…なぜだろう。

あたちは無意識に傍らに置いた杖を、そっと手繰り寄せていた。

街中のカフェで魔法をぶっ放…放つつもりはないけれど、何か異様な気配に皮膚が泡立つ感じがする。

デコピンで床に沈んだ人物は全然気配がわからなかった。

強さだけじゃなく、何もかも。

普通じゃない。普通の人はここまで気配が希薄にならない。

魔力なり、何かしらのオーラは発せられるはずなのに。

もしかしたら…本当に、杖の出番が来るかもしれない。

街を…カフェを、マスター達を守らなければ。

あたちは少しだけ杖を握る手に力を込めた。

「スター君…そういうとこでしよ」

気の抜けた声でもう一人、スタンダードグレーの男の子が入ってきた。

彼はスター君と呼ばれた人物を呆れたように一瞥し、ふっとこっちに目をやった。

瞬間、とてつもない悪寒がした。

あたちは何気ない感じを装っていたのに、警戒がバレたのだろうか。

向こうも普通に会話をしながらも、連れの二人を庇うようにあたちとの間に立ち、一瞬、ほんの一瞬だったけれども、殺気を叩きつけてきた。

ダメだ。強い。

あたちが攻撃魔法が放てるとしても、叶わない。

変な汗が肌を伝う。

「ぐりはうるさいのだ」

床に沈んでいたスター君とかいう人物が、一気に殺気を散らした。

「あぁ…ついうっかり。反応しちゃったでし」

「ぐりだってそういうところだぞ?」

「スター君に言われたくないでし!」

…目の前でなんか茶番が始まったんですけど??

ずびしっびしっ!!

目にも止まらぬ早業で二人をデコピンで沈めた第三の人物の登場であたちは目を見開いた。

「二人とも!ご迷惑おかけしちゃだめでしゅ!めっでしゅ!!早くお店の中に入るでしゅよ」

ぷんすこ可愛らしくほっぺを膨らませているのは、今あちこちで捜索されている賢者の彼女だった。

そしてあたちと目が合った彼女もまた驚いたように丸い目を更にまん丸にした。

「ポッセちゃん!!」

あれ?あたち達お友達だったかちら?

あぁ、でも教わりに行った時にちゃん付けで呼ばせてほしいと言っていた。

なんでもいいから彼女の技を吸収したくて必死で頷いてた。確か。

「お、お久しぶり…ピノ…さ…ちゃん」

ピノさんと、呼ぼうとしたけれど、一気に涙の膜が張りそうな気配がしたので、ちゃん付けで呼ぶ。

たちまち満面の笑みになって、連れの普通じゃない男子二人をひょいっと掴んで引きずりつつ近づいて来る。

待って、せめてそれらは置いてって!?

「ポッセちゃん!また会えるなんて嬉しいでしゅ!」

「あたちも…まさかまた…会えるなんて思ってなかったでち…」

引きつる笑顔。頑張れ、あたちの表情筋!

これでも貴族なんだから、何でもないと装え!

「お友達ですか?よろしかったですね」

マスターがいつもの気遣いで、お冷やをことりと人数分置いていった。

マスター!その気遣いは今間違ってまちから!

ピノさ…ちゃんはいそいそと男子二人を向かい側の椅子に放り投げ、あたちの隣にはにかみながら座った。

…あぁもう!なんなんでち!そのお顔は!

あたちのため息の源のくせに!

何やら色々と語りたそうなキラキラした目で見つめられ…もう今日は先の事で悩む間も無くなるなと、一方で凹み、一方で苦笑した。

なんやかやで彼女のこれに弱いのだ。みんな。

勿論あたちも。

メニューを広げて見せ、あたちはたんぽぽコーヒーをおかわりしようとして、たまにはと、どんぐりコーヒーを頼む。

たんぽぽより、少しナッツのコクと甘さがあり、普段ブラックで飲んでいるあたちにはその甘みが不要だと思って余り飲まないのだけれど、今日はなんだかたっぷり甘いミルクコーヒーにしたかった。

ため息を一つ。

最初のため息とは全然別のため息が出てきた。



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