~side雷蔵~
「ごぉら~!!ら~い~ぞ~うっ!!また逃げたな~!!」
のどかなファスタの村におやじの声が響く。
「へっへ~んだ!らいぞーは簡単に捕まらないんでち!いい加減学ぶでち!」
あっかんべーをしながら雷蔵が逃げて、それを、大声あげて追いかけるおやじの姿はもうこの村の風物詩といってもいいんじゃないかな。
ファスタの村はのんびりした人達が多いんでち。
ほとんどが農家とか牧場を営んでいて、村には雑貨屋、食堂兼宿屋が一軒ずつあるだけ。
雷蔵はその雑貨屋に生まれた男の子でち。
雷蔵って名前なんだけど、自分でいうと「らいぞー」って
言うのがクセでち。
よくいるスタンダードグレーの両親の元に生まれ、可愛がられて育ったという自覚もあるでち。
将来雑貨屋を継ぐ事も別に嫌じゃないでち。
なのになんでおやじから逃げるか、と言うと…。
ん~…習性?でちかね?
多分生まれ持った職業のせいでち。
普通これくらい小さな村だと、職業は村人、農家、畜産、とかが多くて、たまに木こり、狩人、商人とか、『必要とされる』職業が与えられる事が多いんでち。
まぁ、与えられた職業に就いても就かなくても問題はなくて、それに「適性がある」位に考えればいいみたいでち。大体は与えられた職業がイコール「好きな事」になる傾向が強いから、職業を活かせるお仕事に就く人が多いでちね。
で、何故か雷蔵の職業は「盗賊」でちた。
最初、おやじは一瞬、職業が犯罪に向いてるって絶望したらしいんでちが、たまーに村に寄ってく冒険者さんに、戦うこともそうだけど、斥候とか、宝箱の鍵開けとか向いてるから、冒険者になれるって、場合によっては町の便利屋さん?鍵開けレスキュー?なんてお仕事してる人もいて、本当の盗賊になる人はそうそういないって聞いて安心してたでち。
結局は本人の資質と使いようなんでちって。
それを聞いてからは普通に接してくれてたんでちが…
その内雷蔵が我慢できなくなったでち。
腕がむずむずするんでちよね。多分雷蔵は職業との相性がめっちゃくちゃいいんだと思うんでち。
お家の中の鍵を開けまくったり、お家にいなさいって言われてるのに、おやじの目を掻い潜って脱走したり。
雷蔵だって犯罪者になる気はないし、善悪の区別がつくから、やってることはたいした事ではないけど、職業に関わるスキルを使えるときがめっちゃくちゃ楽しいんでち。
毎回追いかけてくるおやじには少し申し訳ないんだけど、特に裏をかいて脱走できたりしたときなんか、ものっすごくテンションがあがるんでち。ニヒ。
…常にどこかに逃げたいって願望があるのも、ひょっとしたら職業からくるものなのかもしれないでち。
皆は仲良くしてくれるのに、そんなことを思ってる雷蔵が、雷蔵は…少し…キライでち。
浮いてるといえば、勝手に浮いてる仲間だと思ってるのがおはぎさんでち。
おはぎさんもこの村では珍しく、職業が剣士。
本人を見てると、穏やかな性格で、闘うことなんてできないんじゃないかって思いまち。
でも、この前一歳の誕生日の時に、うちの雑貨屋でずーっと売れ残ってた長剣を、おやじと雷蔵からプレゼントしたら、しっぽぶんぶん振って喜んで、直ぐに素振りするってお店を飛び出してったのは面白かったでち。
おはぎさん、ダッシュだけでいうと雷蔵より早いんでちよ。
普段割りと大人っぽいって思ってたけど、あんなおはぎさん初めて見たでち。
おはぎさんの両親は元々旅人で、たまたまこの村にいる時に、お母さんがおはぎさんを生んだんでち。
何か…しないといけないことがあるらしくて、お父さんは一所にいられないのようで、まだベビチラのおはぎさんとお母さんを置いて出てったそうでち。
お母さんも、おはぎさんが離乳して、みんなと同じチモシーを食べられるようになったらお父さんを追いかけて旅に出てったそうでち。
まだよちよちが抜けてないおはぎさんがいたら追い付かないって…養育費と共におはぎさんは置いていかれたんでち。
たまたま一人暮らしのおばあさんがいたから、お互い一人よりは安全だってことで、おはぎさんはそのお家に引き取られたでち。
その後は村中総出でおはぎさんを育てたようなもんだっておやじがいってたでち。
しなきゃいけない事ってなんでちかね?
可愛い子供を置いてまでしなきゃいけないことなんでちかね??
雷蔵は、その話をきいた時めっちゃくちゃぷんぷんおこになったでち。
おやじは、怒る位なら、おはぎさんに寄り添ってやれって言ったでち。
雷蔵を見くびるなって話でち。そんなことを聞く前から雷蔵達はお友達なんでちから!
かど丸達とか他にもお友達はいたけれど、おはぎさんはその境遇からか、皆より少しお兄さんな感じでちた。
気遣い屋さんで、遠慮がちで、優しくて。皆おはぎさんが大好きなんでち。
剣士ってわかってからは、そこにかっくいー!が入ったでち。
こんな田舎で、剣士なんてそれこそ活かせるお仕事はない。
それでも腐らず、手に入れた剣を毎日振ってるおはぎさんは、ほんとにかっくいー。
お友達で、憧れの存在なんでち。
恥ずかしいから言えないけど。くしくし。
照れるとついくしくししちゃいまちね。くしくし。
おはぎさんは…雷蔵とは…大違いでちね。
おはぎさんは…ほんとにこの村にいていいんでちかね。
いつか…お父さん達みたいに旅に出たり…しちゃうんでちかね。
本人はここの生まれだから、この村が好きだからずっといるって言ってるけど…
雷蔵の勘が、おはぎさんはいずれ大きな世界にでていくって言ってまち。雷蔵の勘は当たるんでちよ。
もし…もし旅に出ることになっても、雷蔵は笑顔で見送ってあげるんでち。一番の親友だから、いっぱい餞別あげて、快く…送り出してあげまち。
そんで、ここがおはぎさんの村だから、きっといつか帰ってきて土産話を聞かせてくれって言うんでち。
そう、心に決めてるんでち。
だから、おはぎさんがいる間、おはぎさんの姿を目に焼き付けておくんでち。
ニヒヒ…その時が…来なければいいなってちょっと思ったりもしてまちけどね。ニヒ…。
そんなある日、いつもと同じように雷蔵が脱出して、おはぎさんにおやじの相手を任せて隠れてた時。
何か…おやじがおはぎさんに話をして、いつになく、おはぎさんの目がきゅるるんと見開いて嬉しそうにしたのを見た時。
雷蔵は思ったんでち。
時が…来ちゃったかもしれないって。
あ~あ。雷蔵も役に立てるような職業だったらな。
跡取りじゃなかったらな。
ねぇ、おはぎさん。
雷蔵、ちゃんと笑うからね。
帰る場所は、雷蔵がきっと用意しておくから、
一番の親友でずーっとずーっといさせてね。
雷蔵はずーっとずーっとおはぎさんを応援してまちからね。ニヒヒ。