とあるカフェにて(二)
我が賢者ピノに誘われて、辿り着いた街のカフェとやらは、年代を重ねた飴色の木目が綺麗な店構えで、カフェ、というより個人的には『喫茶店』と呼びたい雰囲気だった。
「こんなところにヌンティーとやらがあるものなのか?」
思わず口から出た言葉に、ピノがおっとり反応する。
「ヌンティーってそもそもなんでしゅか?」
「お、おお、そこからか。ヌンティーってのはな、午後に食べる……なんかケーキとかお菓子とか、お菓子が盛り盛り持ってある……おやつだ!!」
「違いまし!正解はわからないけれど違うのはわかりまし!!」
相変わらずぐりが良いツッコミをする。
うん。正確には知らなかったからな。我。
ヌンティー……たしかアフタヌーンティーとかいう…おやつだったよな?確か。
「ま、まぁよい。評判が良さげなカフェでサーチしたらこの店だった。どうだ?ピノよ」
「流石スター…魔王様でしゅ。ここは…皆で来たかったお店でしゅよ」
「ん?どういうことだ?」
ピノがはにかんでいる。
この店を知っているのだろうか。
「ここは、学園に通ってた時にたまに来ていたお店でしゅ。学園の皆がここの飲み物やスイーツを食べてリフレッシュしてたでしゅ。…ピノに話しかけてくれた子もよく来ているって聞いて、ほんとにたまーに来てたんでしゅ。でも、一人じゃなくて、皆で来たいな〜っていつも思ってたんでしゅよ」
少し哀しげにも見える潤んだ瞳で語る内容に、我はまたよくわからぬ衝撃を受けた。
ピノ…友達できなかったのか…。
女子ってのはキャッキャしながらなんか甘い物を食べるのが常と、洗濯場のおばちゃんから聞いた記憶がある。
「ピノ……キャッキャできなかったのか…」
「キャッキャ…?」
うむ、いかん。口に出ていたようだ。
ピノがきょとんとして、ぐりが何故かジトーっとした目で見てくる。
見るだけにするな!何かあればツッコんで来い!
むしろ求む!!
(……そこじゃないんでしよ……)
あ、なんか頭に響いてきた気がする!
ぐりよ!いつの間に感応術が使えるようになったのだ!!
あぁ、なんかもっとジト目になった気がする。
ま、まぁよい。仕切り直しだ。
「よし、今日は3人で女子会なるものをしようぞ!」
(魔王しゃま…魔王しゃま…ぐりは今…魔王しゃまの脳内に話しかけて…まし…女子会は女の子だけのパーティーでし…ぐり達は…女子になれないでし…)
とうとう流暢に話しかけてきた!
ぐりはどれだけレベルアップする気だ!?
流石我が側近!
「女子会じゃなくて、普通にお茶会するでし」
「リアルでも喋ってきた!?」
「魔王しゃま何言ってんでしか??」
「んん?さっきのは幻聴だった可能性があるとな!?」
「一回病院行っとくでしか?」
ぐりがさらにジト目になったぞ?
おかしいなぁ。かなりはっきり聞こえた気がしたのだが…。
ま、まぁよい。仕切り直しだ!
…さっきも言ったなこれ。
「とりあえず今までの事は置いといて、スイーツなるものを堪能するか!」
我は意気揚々と少し重めの木製ドアをバーンと開けると、澄んだ高音のドアベルがシャラリと鳴った。
「いらっしゃいませ…ドアの開け閉めはお静かに願いますよ」
にこやかな紳士が何やら長耳の被り物をして出迎えてくれた。
「すまぬ。間違えたようだ」
我はそっとドアを閉めた。
「なんでドアを閉めちゃうんでしゅか!?」
「いや、なんか被り物をしてるんだか??」
「あそこのマスターは被り物をしてるんでしゅよ!それであってるでしゅ!」
「あってるのか…」
うむ。我の感性が古いということだな。
よくわからんが、そう飲み込むことにした。
「魔王しゃま…お洒落なカフェなのでお行儀よくするでしよ」
「ぐりよ…お主には言われたくないのだが??経験値はそこまで変わらぬだろう??」
む、いかん。ちょっと魔王オーラが出てしまうかもしれない。
ちょっとだけだぞ?ちょっとだけ。
「ま、魔王しゃま!圧をかけるのにそれはないでし!とりあえず、カフェに入るのに抑えて欲しいでし!」
はっと気づくとピノにもジト目で見られそうな気配を感じるので慌てて抑える。
我はできる子なのだ。
「あと…今更でしが、お店とか、周りに人が多い時は、昔通りの呼び方するでし。魔王しゃまなんて街中で呼んで…誰が聞いてるかわからないでしからね」
「そうでしゅ!昔通り、スター君とぐりたんって呼ぶでしゅ!」
ぱぁぁ!と花が咲いているエフェクトが見えるような笑顔になるピノを見て、我が今まで彼らを縛っていた事に気付く。
「うむ。今まで通りに呼んでも構わぬ。そのようにしよう」
「えへへ〜スター君、ぐりたん」
それぞれの顔を見ながら名前を呼ぶピノ…ピノちゃんに、それぞれ返事をする。
うを…何故か照れるぞ。ぐぬぬ。
「さ、改めて入るとしよう。今日は奢りだ。沢山飲み食いするがいい」
「スター君!いいんでしゅか!?」
「スターく…ん!お金はどっから盗ってきたでし!?」
「人聞きの悪い事をいうな!!職業の…承継者には先人達の遺産を相続できるのだ!その中の小遣い程度問題ない」
「ふぇぇ…スター君お金持ちだったでしか?」
「む、言って無かったか。だからぐりちゃ…ぐりとピノ…ちゃん…にも給金を渡す予定だぞ」
「え!ぇぇぇええ!?そんな一般常識があったんでしか!?」
「ぐりは我のことを見縊りすぎだと思のだが!?」
店先でぎゃいぎゃい騒いでいた事に気付いた時にはピノちゃんからデコピンを食らっていた。
我…魔王ぞ?なんか額が妙に痛い。
ぐりなんかデコから煙が出てて白眼になっている。
ん?我のデコからも煙が出ているのか。
ピノちゃん…恐るべし。
「もう!お店に迷惑かけるならもういいでしゅ!帰るでしゅ!!」
ほっぺを膨らませてプンスコ怒ってる様は…本当にベビチラの頃から変わらない。
あぁ、あの頃、3人で遊んでいた頃を思い出す。
ここは素直に謝って、お茶会なるものを楽しもう。
そう言うとピノちゃんもぐりも笑顔になった。
久しぶりに…見たかもしれぬな。
そして我は意気揚々とカフェの重厚なる扉を開けるのだった。
「たのも〜う!!」
「だから違うんでしゅってば!!めっ!でしゅよ!!」
ピノよ…二度もデコピンを寸分違わず同じ箇所にできるとは…やるな。
「スター君…そういうとこでしよ」
ぐりはうるさいのだ。




