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チンチラクエスト  作者: 鈴葉
28/41

とあるカフェにて(一)

王都の近くにある街のとあるカフェにて。

窓際のいつもの席に座ってため息を一つ。

ちらりと傍らの窓から街並みを見ると、誰もが楽しそうに生活しているような気がして、自分だけが取り残されたような気になってしまう。

不思議でちね。

学園に通い始めた頃は、カフェに一人で来ることに興奮して、全てが煌めいて見えてた。

その世界の中心は自分だった。

これから自分の力で生きていける。

自由になれると思っていた。

それなのに…。

またため息一つ。

「コーヒーのおかわりいかがですか?」

いつの間にかカフェのマスターが静かに微笑んで傍らに立っていた。

「いただきますでち」

ここ、『うさチラカフェ』のマスターのポトフさんは、いつも穏やかでち。

「ここのたんぽぽコーヒーを飲んでから、他のお店に行けなくなっちゃったでち」

「おや、嬉しい事を仰っていただけますね。今は…他のお客様もいらっしゃらないですし…少々お待ちを」

と、カウンターの奥に一度引っ込んで、銀盆の上にオレンジ色の何かを載せて戻ってきた。

「どうぞ。サービスです。試作品ですが、シフォンケーキです。他の方には内緒ですよ」

お茶目にウインクをしながら出してくれたケーキは、見た目からして軟らかそう。

オレンジ色のふんわりとしたシフォンケーキに、白いクリームが添えられて、上に飾られたハーブの緑がまた彩りを良くしている。

ご厚意に甘えていただくと、どちらも自然な甘さで、思わずうっとりしてしまう。

ここに香ばしく焙煎されたたんぽぽコーヒーを合わせると…得も言われぬ幸福に包まれる。

「マリアージュってこういうことでちかね…これ…優しい甘さでちが…人参でち?」

「ふふっ。カボチャです。いいのが入ったんですよ。同居人が余り好みじゃないようだったんで心配したんですが、お口に合って良かった」

「カボチャ…余り食べたことなかったでちけど…こんなスイーツにもなるんでちね!美味しいでち!!」

「良かった。ようやく笑顔になってくれましたね、ポッセさん」

渋いバイオレットのマスターがニッコリと微笑む。

静かに人気のあるマスターを独り占めしてるなんて知られたら、常連のマダム達に怒られちゃうでちね。

いつもと違うマスターとのやり取りに、ちょっとだけ優越感に浸る。

マスターはいつからこのカフェをしているかわからないけれど、かなり長くここで営業しているようだ。

何故かお耳が長い帽子というか被り物を常に身につけている。

どうやら「うさ耳帽子」というものらしい。

うさ耳とは?と聞いてみると、少し遠い目をして語ってくれた事がある。

なんでもこの大陸には自分達のような『チンチラ』しかいないけれど、どこか遠くの大陸には『ウサギ』という種族がいて、そのウサギさんの耳が長いそうだ。

割とチンチラと似てるところもあるらしい。

「チンチラ以外にも、色んな種族が存在していることを知ってほしいのですよ」

そう、マスターは少し寂しそうに笑っていた。

そして、少し陰があったマスターの表情にマダム達が悲鳴を上げていた。

確かに渋い素敵なおじ様だけど、あたくちの…じゃない()()()の好みじゃないかな。

あ、思い出しちゃった…。

そう。目下の悩み事はこの先どうするか。

あたくちは…元々イノーシ伯爵の三女。

貴族の娘に生まれたからには、政略結婚の駒になるのがほとんどだけれど、あたちには我慢できなかった。

自分の人生は自分で決めたい。

幸い職業が「魔導士」という上級職だったので、王立学園に通う事となった。

これもある意味国の囲い込みではあるけれど、それでも、自分の人生が結婚だけじゃなくて、自分で仕事をして生きていける選択肢も出てきた事が嬉しかった。

それでもお父様は、第二王子の在学期間と重なるということで、どうにか見初められるよう厳命してきてげんなりしたので限界突破でゲンコツ喰らわす!YO!チェケラッ!

じゃなくて。

うう…疲れてるんでちかね。

わたちらしくないでち。

はぁ。

学園に入りさえしたらどうにかなると思ってた。

魔導士なんだもの。

割と学園でも無双できると思ってたのに、甘かった。

そこにはスキップして入学してきていた才女がいたのだ。

魔導士よりも上の最上級職業の『賢者』が。

魔導士なんて霞んでしまった。

天才というのだろうか。

わたちが努力してなんとかできる魔法を、息をするように放ってみせた。

賢いだけじゃない。孤児だという彼女はそれでも明るくて、可愛いし、どこかうっかりした天然さんで、そりゃあモテた。

どこの物語の主人公だろう。

まぁ貴族女性からはちょっと敬遠されてたけれど。

それもまたテンプレでちよね。

何度挑戦しても彼女には成績も魔法の腕も叶わなくて。

少し教わりたいと願ってみたけれど、あれはダメでち。

ついていけないでち。

『こう、う〜んと集めて、こうなれ〜って思いながら、ば〜ってやるでしゅ!そしたらガーン!ってジュワワッてなるでしゅよ〜』

可愛らしくニコニコ笑って教えてくれたけれど、一事が万事その調子。

理  解  不  能

ごめんなさいでち。白旗を上げたでち。

頭の構成自体が違うんだと思いしらされたでち。

勿論、件の第二王子も彼女にメロメロになってたでち。

……まぁ面倒な権力者(おバカさん)に好かれて大変だったので、羨ましいとは全く思えなかったでちが。

もう少し女性の扱いと一般常識?王族教育をもっと教えるべきだったんじゃないかと…。

卒業を迎えた今、一応宮廷魔導士としてスカウトはされているけれど、それも彼女の身代わりとして。

プライドが傷つくでち。

そう。賢者である彼女は突然姿を消してしまった。

第二王子が求婚したからじゃないかって噂もあるでち。

彼女がいなくなって初めて彼女の影に隠れてたあたちに注目されたようだったでち。

婚約の申し込みや、仕事のスカウトも急に増えた。

あれだけ一人でも生きていけるようにと息巻いてたのに。

いざ、注目されたら…誰でも良かったなんてわかってしまったら…急に全てが虚しくなったでち…。

彼女と競い合ってた時の方が楽しかった。

結局…あたちがやりたかった事はなんだったのか。

未来(さき)を考える事が、少し憂鬱になってしまった。

贅沢な悩みだと思う。

政略結婚も相手を選べる立場になった。

就職も魔導士としてはかなり上の立場も目指せるようになった。

なのに、何故か。

せっかくのマスターのサービスも、全ての憂いを晴らしてくれることは無かった。

ため息を一つ。

遠くから、マスターがそっと見守ってくれていることに気づけてはいなかった。





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