初体験!冒険者ギルド(四)
「あぁ、すまないね。冒険者登録がまだだったね」
こたけさんが場を仕切り直す。
「あ、はいでち」
「こんぶ嬢、頼めるかな?」
「お任せくださいでち。ギルド長」
「おはぎ君、雷蔵君、それから…えーと」
「つみりんでち」
「…つみりん」
解せぬ顔でつみりんって言うギルド長…ちょっと…面白い。
「つ…君は登録済ですよね?」
あ、誤魔化した。
「彼らのパーティーメンバーでち。今日は付き添いと簡単なクエストができたらと思ってまち」
「なるほど。経験者として導いてあげてほしい。無理はしないようにしてください」
「わかってまーち。きゅるん!」
「おはぎ君」
「ぐぬ!効かぬ…でちと!?」
「君の…ご両親について、よかったら時間のある時にでもお話させてもらえないでしょうか?」
「は、はい!ぼくも…ぼくの知らない両親の事…教えてもらえると嬉しいです!特にお父…父の事を」
「あぁ。勿論だ」
ぼくが言い直した事に気づいていると思う。
くすっとこたけさんとやまとさんは笑い、それぞれぼくらの頭をポンポンと叩いて微笑んで二階の…多分執務室かな?に消えて行った。
大人だ~。かっくいい!
ぼくもあんな風になれるだろうか。
「難しいでちね。系統が違うと思うんでち」
うんうん。雷蔵ちゃん。
心の声に突っ込まないでくれないかなぁ。
「おはぎさんはわかりやすいんでちよ。ニヒヒッ」
雷蔵ちゃんが笑う。
改めて登録しようとしたけれど、なにやら変な音がする。
なんとなーくそうかな、と思いつつ。
怖いもの見たさでそちらの方を見ると、
ギルドの飲食スペースの壁に軽くめり込んだまま、ドーガスさんがめそめそ泣いていた。
「うわぁ…」
ちょっと低めの声が出ちゃった…。
見てはいけないものを見てしまった。
大人の男の人が、鼻水を垂らしながら顔をぐっちゃぐちゃにしてめそめそ泣いてるとこなんて見ても気まずい以外の何者でもない。
雷蔵ちゃんも「あちゃ~」って顔してる。
つみりんは…と見ると、こんぶさんからもらったハンカチをもう一回取り出してニマニマしてるけど、あからさまに該当エリアから視線を外してるので、汚いものは見たくないってことなのかもしれない。
ぼくがそちらを見ているのに気づいたのか、こんぶさんがそっとこちらに来てくれた。
蹲ってめそめそしてるドーガスさんをチラッと見て、盛大に舌打ちした。
え?やっぱり舌打ち??
なんなら「ヂッ」って位濁った音した…。えぇ…。
「…ごめんなさいでち。お掃除はさっさとしないとでち」
「きょんぶちゃん、お掃除だったらつみりんも手伝うでちよ!」
「あら~大丈夫でちよ。あたちもそれなりでちからね」
こんぶさんの言葉につみりんも振り向いたが、二人ともめちゃくちゃにっこりと笑ってる。
でもきょわい。
ぼくと雷蔵ちゃんは思わず抱き合ってぶるぶる震える。
でもこれは止めちゃダメなやつだ。
ぼく知ってる。
奥様とかお母さんとか、なんかこんな雰囲気の時突っつくとヤヴァイ事になるってわかってる。
…奥様はぼくにはいないけど??…うん。逆らっちゃいけない。
「そこの出禁者さん?速やかに周りを片して出ていってもらえまちか?」
「ぐすっ。おぅおぅ…きょんぶちゃん…俺様に冷た過ぎるんじゃないか~ぃ?」
あの人元からあんなしゃべり方なのかな…残念な人だ。
「…いいから出てけって言ってるでち。お耳聞こえてないんでちか~?」
「そりゃぁねぇぜベイビ…」
「お黙りになってとっととお帰りやがれくださいでち。いい加減にしていただきたいでち。仕事中に公衆の面前でしつこく下手くそな口説き方されて嬉しい女なんかいないでち。冒険者ランク?副ギルド長に一太刀でもできるようになってからおっしゃってくださいでち。あ、ちなみに、あたちは邪魔ばっかりする貴方の事はゴミ以下としか思っていないでち。お仕事だから仕方なく対応してただけでち。悪しからず」
「きょんぶちゃん!ヘイッパスッ!」
「つみりん…ありがとうでち。さ、掃除もしないゴミはさっさと片付けるでち」
こんぶさんはつみりんから渡されたほうきでドーガスさんを転がし出した。
え~転がるんだ??重量ありそうなのに。
こんぶさんの力って…???
やっぱりめそめそ泣きながら表まで文字通り掃き出されたドーガスさんは道の脇ポイッとされた。
ドーガスさんはドーガスさんである意味すごいと思う。
ぼくらは呆然とそれを見てたけれど、つみりんに引っ張られ、何事もなかったように受付してくれるこんぶさんに緊張しながら、冒険者登録を済ませた。
なんか…ボーッとしてる内にいつの間にか身分証明書にもなるギルドカードを手に入れていた。
も、もっと感動するかと思ってたのに、その前の出来事があれこれ凄すぎてろくに反応できなかった…。
記念すべき日だったのにな。
はぁ。それはそれで仕方ないか。
隣で雷蔵ちゃんもため息をついていた。
わかるよ。多分同じ理由だ。
男二人、顔を見合わせて情けなく笑った。
こんぶさんにお礼を言って、いつの間にか片付けられてた飲食スペースの椅子に腰掛け、改めてギルドカードを見る。
自分の名前と、ランクがわかりやすくなっている。
ぼくらのカードには小さい黒い石が埋め込まれていた。
「クラス:黒耀」
なんかかっくいい。雷蔵ちゃんとはしゃいでたら、つみりんから冷静な一言が。
「一番脆い石でちからね。皆そこからスタートでち。さっきのきょんぶちゃんのお話聞いてなかったでちか?」
う…聞いてたけど、でもなんか黒ってカッコいいじゃないか。
中二心くすぐられるというか。
冒険者ランクは全部石の名前が元になっているらしい。
一番下が黒耀。それから琥珀、水晶、翠玉、蒼玉、紅玉、金剛、虹金剛と続く。
基本的に金剛クラスが最上位になるそうだ。
別名『ダイヤモンド級』。
これに憧れて目指している冒険者は多い。
ぼくらの村でも立ち寄った冒険者さん達が、「いつかダイヤモンド級になりたい」と話していたのを覚えている。
『虹金剛』はなりたくてなれるものではないそうだ。
強さは勿論、人格や成し遂げた功績なども含め、国王や、各方面の重鎮から推薦され、認められた者にしか与えられない称号。
お父さんとお母さんが、それに一番近いと言われていた冒険者だったなんて…。
実感がなくてすぐには信じられないけれど、でも本当だったらすごく嬉しい。
ぼくも少しでも強くなりたい。
村を守れるように。そして、お父さんに追い付けるように。
早くこたけさん達にお話が聞けるといいな。
忙しそうだけれど。
「雷蔵ちゃん齧っちゃダメだよ?」
「こういうの見るとつい…でも堅くて無理だったでち!ニヒッ」
「…男の子ってさぁ~」
「え~?つみりんも齧りたくなんないでちか?」
「…ちょっとだけしちゃったでち」
「でちよね~!もうこれは仕方ないやつでちよ!ニヒヒッ」
ひとまず登録も終わって、早速クエストをこなそうという話しになった。
いや、しないといけない。いきなりつみりんに借金はキツイ。
幸い常時あるの採取クエストがあったので、三人で頑張ればひとまずしのげるだろう。
うんうん。これもテンプレだね。
近場だし、お金もないから、装備は今のままでよし。
最悪つみりんが守ってくれるって。
うう…ぼくらよりか弱そうなつみりんに守ってもらう…いや、実際強いんだ。ランク翠玉だって。仕方ないけれど、早く強くなりたい。
「さて…覚悟を決めて…行くでちよ!」
「ええ!?そんなに覚悟を決めないといけないの!?」
「あ…違うんでち。これは…つみりんの問題だから…気にしないで欲しいでち!ちゃんと守ってあげるから安心するでちよ~?きゅるるん!」
「え?あ、はい」
突然アイドルムーブメントを入れないでいただきたい。対応をどうしたらいいかわからなくなるから。
こんぶさんに挨拶をして、ギルドを出る。
近場だし、と言うことで今日は屋台のサンドイッチを買って出かけることにした。
初めてのクエストだ!討伐とかじゃないけど、安全大事!
命大事に!普段はイケイケゴーゴーなんだけど、リアルとなると途端にやり込み派になるよね~。
ご安全に行くぞ~!!
ふと、脳裏をヘルメットを被ったぼくらと同じ色合いの動物が指を指している絵柄がよぎった。
なんだったんだろうか。




