初体験!冒険者ギルド(一)
冒険者ギルドの中を、まるでお上りさんのようにキョロキョロしながら列が進むのをまっていると、もう少しでぼくらの番、と言うところで列が進まなくなってしまった。
何か時間がかかる相談でもしているのかと思ったけれど、前から聞こえて来る会話の声が段々大きくなってきた。
「だからよぉーぅ、きょんぶちゃーん!そろそろ俺様とデートしたっていいじゃーん?」
「ドーガスさん、あなたに名前を呼ぶ許可は出してないでち。デートも却下でち。用がないなら帰ってくださいでち」
「つれないところもたまんなーいぜぇ?ほんとはー、俺様のこと気にしてんでしょーぅ?」
「しつこい人は確実に嫌いでち。お仕事に関係してないなら出てってでち。あと話し方キモイでち」
「ん?今目の前にいるのは俺様じゃーん?別の男の事話すのはマナー違反…だぜーぃ?」
「あたちの優しさも三度まででちよ?」
「でーぇ?どこ行くーぅ?」
すごい。全く動じてない。
ある意味強い。
こんな早朝から元気過ぎないだろうか。
受付のお姉さんに絡んでるのは平均より大きな、多分冒険者だろう。
後ろ姿だから何とも言えないけれど、でも…なんか毛並みが悪くて、不潔そうな感じ。
叩けばホコリがでそうな体だ(物理的に)。
でも冒険者としてある程度は経験があるんだろう。
体のあちこちに古傷がある
受付のお姉さんー受付嬢でいいのかな?ーは、可愛らしいスタンダードグレーの人。すごく塩対応だ。
まぁそうだよね。これから忙しくなる時間帯なのに、あんなに絡まれたら邪魔でしかない。
そういうのがわからないでいたら余計に相手から嫌われちゃうのに…。
これって…テンプレのやつ?テンプレに発展しちゃう?
受付嬢…きょんぶちゃん?を助けてあげたいけれど、どうにか穏便にできないだろうか。
ハラハラして見ていると、「チッッッ!!!」と言う舌打ちと、ひっくーい声で、
「ファンサもらったらさっさと列から離れろよやらかしが!!」
と聞こえた。
…なんだか闇のオーラを感じる。怖くて振り返れない。
恐る恐る隣の雷蔵ちゃんの方に目線を送ると、真っ正面を向いたままカタカタと細かく震えてた。
何か…過去にあったんですかね?つみ…その…アイドル関係の…ヒト?
「ッチ!!!余計な時間はねーんでちよ!あいつどかねーならやって…」
ヤバい!破壊神が降臨してしまう!!
恐怖を振り切ってぼくと雷蔵ちゃんがあわててつみりんに飛び付く。
「はなせー!せめて一太刀ー!!!」
「殿中でござる!殿中でござるーーー!!」
「アイドルでしょー!?つみりん!アイドルは不殺だよーーー!!!」
ぼくらがもだもだしていると、前方からガタンッ!と大きな音と同時に殺気を感じて、思わずそちらを見る。
どうやら受付嬢がイスを蹴って立ち上がったようだ。
「ドーガスさーん?再三お断りしているのに、こんなにご理解いただけないのは残念でち」
にっこりと笑っているのに、醸し出すオーラはブリザードだ。
抱き合ったままぼくらは震えていた。なんとあんなに燃えていたつみりんまで。
ドーガスとか言う冒険者はそれでも何かを勘違いしたような発言を繰り返している。
ある意味強い。なんであの殺気を間近にして何とも思わないんだろうか。
「だからさーぁー?君がーぁ、デートに行かないからだよー。一言行くって言えばさーぁ、俺様だってすぐにどいてやったのにさーぁ?」
勘違いした好意を寄せられなくてもなんかイラッとするなぁ。
「はい、優しいこんぶちゃん終了のお知らせでち♪五秒前!四、三…」
カウントダウンが始まったとたんに、周りの冒険者が騒ぎだした。
「おいおいこんな時間にだれだよ!」
「ドーガスだ!あのバカ!!この街あんまり来てないからこんぶちゃんの事わかってねぇんだ!」
「ヤバい!いいからしゃがめ!!」
「おい!お前らもだ!新人か?いいからしゃがめ!」
ぼくらが呆気に取られていると、近くの先輩冒険者に寄ってたかって腕を引っ張られてしゃがまされた。
「二、一…ゼロッ!!!」
カウントダウンが終了と同時にドーガスが、綺麗に扉の外まで降っとんで行った。
受付嬢の華麗なドロップキックが見事に顎に決まって、それだけじゃなくて飛んでいったんだ。
先輩方ありがとう。立っていたら一緒にぶっ飛ばされてたね。
目の前で見たけど、あんな威力があるとは思わなかった。
というか、ドロップキックも綺麗に足を揃えていて、キックが上品に見えたのは初めてだ。
冒険者ギルドって…恐るべしだね。
「多分違…いやもういいでち…」
つみりんは疲れたようでしおしおになっていた。
登録が終わったらちょっと休憩しようね、つみりん。




