ようこそ!ドゥーブル村へ!(二)
その後ぼく達はつみりんことつみれちゃ「つみりん!!」…つみりんの案内で早速宿屋に向かうことにした。
「つみれちゃん…」
「つみりんでちよ~」
「ぼくの心の中の声にツッコミをいれないでほしいなぁ」
「つみりんのこと、ちゃんとつみりん♪って呼んでくれるようになるまで、定期的につみりんを刷り込んでいこうと思ってるだけでち」
「ぇえ~?…が、頑張るよ」
「つみりん…覚えたでち」
「最終的には、L・O・V・Eラブリーつみりん♪までマスターして…」
「ごめん、そこまではムリ」
「え~?精霊か…えふん!!精霊はフゥワッフゥワッて言いながら応援してくれるのにぃ~」
「つみりんって呼ぶから勘弁してください」
「もぅ!仕方ないでちねぇ~許してあげまち♪」
うう…わかってるけれど可愛い。上目遣いで見上げて来られるとちょっと恥ずかしい…。
上目遣い…これも何かの技なのかもしれない。
精霊使いに上目使い。なんて恐ろしいんだろう。
「えっとぉ、お宿にそのまま向かってるけど大丈夫でちか?」
「あ、うん。冒険者として登録しないとだけど、ひとまずは明日でいいかなって」
「そうでちね。今日は…なんだか精神的に疲れたから、早目に休んでその分明日頑張るでち!…それでも大丈夫でちか?」
「ん~問題ないと思うでち!お宿にも人が増えることは早目に伝えておいた方が親切でちからね~」
つみりんが案内してくれた宿は、賑やかな宿屋が集まる区画の少し外れにある、少し小さめの宿屋だった。
「あ、良かったでち。普通だったでち」
雷蔵ちゃんが胸を撫で下ろす。
「普通じゃなかったらなんなんでちか~?」
つみりんが少し眉間にシワを寄せて雷蔵ちゃんを見る。
うんうん。雷蔵ちゃん、わかるよ。
すごく、こう、つみりん好みのメルヒェンな宿屋さんだったらどうしようってちょっと思ってたんだよね。
「つみりん、眉間のシワは癖になるからやめようね」
ぼくがそう言うと、つみりんは目を見開いてあわてて手で眉間を揉んでいた。
まだ若いから大丈夫だろうけどね。
宿屋さんの脇にはお花が植えられていて、ちょっと古いけれど、ちゃんと手入れがされているのがわかる。
「良さげな宿屋さんだね~」
「ふっふ~ん!でちょ~?ここはご飯も美味しいし、場所が少し外れなせいか割りと良心的なお値段なんでち!つみりん、そういうとこ探すの得意なんでちよ~」
「へ~!すごいね!勘が働くの?」
「精霊さんにちょちょっとお願いしたら調べてもらえまちよ~?」
「…精霊使いすご!」
諜報活動もできるんじゃないの?精霊さんも見えないんだもん。
…つみりん…何気にハイスペック…恐ろしい子。
「た~のも~でち!」
大声で言いながら入口を開けるつみりん。
え?道場破りなの?ぼくが世間知らずなだけで普通の声掛けなの!?
驚いて見ていると、宿屋の奥から男の子が出てきた。
「つみりんちゃ~ん…ウチは道場じゃなくてただの宿屋でしよ?毎回たのもー!って入ってこなくていいんでしったら」
出てきた男の子は宿屋の人らしい。
つみりんにはずいぶん気安い感じだけれど、そこはつみりんの距離感の取り方とかキャラクターで親しくなったんだろうなと推測する。
しかし…ブルーダイヤモンドかな?中々珍しい毛色をした美少年だ。
「ん?お客さんでしか?」
僕らに気づいた男の子はにっこりと笑いながら話しかけてくる。
おお、すごい!やっぱり美形だ!
雷蔵ちゃんもなんだかあわあわしてる。
「んえぶぅっ!は、はい…そうです。しばらく泊まれますか?」
つみりんに脇腹を小突かれて我に返った。
ありがとうつみりん。ちょっと痛かったけど。
「ん~二人一緒のお部屋でしか?それとも個室?」
「一緒で大丈夫でち!」
答えたのは雷蔵ちゃん…じゃなくてつみりんだった。
「え…つみりん女の子だよね?」
「つみりんのお部屋は広いから大丈夫でち!ないと思うでちけど、何かあれば精霊さんが跡形もなくあれやこれやしてくれまち。…あとこの二人…逃がしちゃなんねぇでち…」
最後の方はボソッと呟いてたのであまり聞こえなかったけど、ちょっと不穏な光が目に宿っていた…つみりんきょわい。
「えーと、一部屋なら空いてるでしよ!なんか…つみりんと同室にしたらお客さん達のが危険な気がしてきたでし…」
よくぞわかってくれた!もうこれだけで心の友と呼んでもいいかもしんない。
「部屋が空いてて助かったでち!らいぞーはらいぞーでち」
「あ、ぼくはおはぎです!雷蔵ちゃんと同室でお願いします!」
「かしこまりましたでし。もずくはもずくでし!もずくって呼んでほしいでし。あと、姉さんもいるから後で挨拶するでしよ。まずは受付してウチの説明をするでし」
「待って待って!つみりんと別だったらお宿代どうするんでち!?」
「宿代?」
首をかしげるもずくくんにぼくらの事情を説明する。
「なんだ~そんなことなら一先ず一泊分だけ払ってくれればいいでし!部屋はキープしておくから、明日から頑張ってくれればいいでしよ!」
にっこりと笑う美少年。
天使?天使ですか?
ぼくらは二人して何度も感謝を告げた。
「最悪つみりんの宿代に上乗せするから大丈夫でし!」
「なーーーん!?」
「つみりんはそこそこの腕があるでしからね!信用してるでしよ!」
これまた笑顔で言われた…。
天使だけど商売人だった。
「あ、ご飯は今夜から?」
「あ、そうです。お願いできますか?」
「姉さーん!夜はお二人追加でーし!」
「はーいでち!」
食堂らしき部屋の奥に向かってもずく君が叫ぶと、宿屋の裏口と思われる方向から返事が聞こえた。
「お客さんでちか?」
帳場の奥から現れたもずく君のお姉さんは、スタンダードグレーの美少女だった。
すごい!美形姉弟だ!
「はじめまちて~ひじきでち。ウチのお宿へようこそ!ひじきって呼んでほしいでち」
つみりんも可愛いけど、お姉さんは美人さんだ。
「姉さん!どこ行ってたでしか!?」
「え?ちょっと具材が足りないかな~って思って、裏庭に…」
「どこか出掛けるならもずくが行くって行ってるでし!姉さんは外に出ちゃダメでし!」
すごい剣幕で怒るもずく君にぼくらは呆気にとられてしまった。
「どうしたの?もずく君なんでそんなに??」
「…姉さんは…極度の方向音痴なんでし…ちょっと買い物に出たら…2日帰れなかった事もあったんでし」
「もずくったら大袈裟でち!次の日のお昼には帰れたでちよ?」
「なんでそこの商店街に買い出しに行って、隣村からの辻馬車に乗せてもらって帰ってくるのかわかんないでし!!姉さんは割りとルックスもいいからほんと気を付けてほしいんでしよ…」
思い出したせいなのかもずく君がなんだかげっそりしてる。
確かにこんな美形のお姉さんが帰ってこないと心配になっちゃうよね。うんうん。
「もずくは心配性でちね。ひじきも弱いわけじゃないんでちよ?」
んん?一瞬殺気を感じてひじきちゃんの方を見たけれど、そこにはにっこりと微笑む彼女がいるだけで、鋭い殺気の気配は無くなっていた。
この宿屋は中々侮れないかもしれない。
ごくりと唾を飲み込むと、ふんわりといい匂いが漂ってきた。
今度は違う意味でごくりと唾を飲み込む。
雷蔵ちゃん、よだれ出てる。
「お、美味しそうな匂いがするでちね…お腹鳴っちゃいそうでち!」
雷蔵ちゃんが匂いに釣られて食堂を覗き込む。
「あ!いっけない!スープを火にかけてたままだったでち!お客さん達!荷物片付けて落ち着いたら食堂へどうぞ?ひじき特製スープがありまちよ♪」
ひじきちゃんは慌てて駆け込んで行くのを見送って、改めてもずく君から説明を受ける。
ここは珍しくお風呂があるらしい。
まずはひとっ風呂浴びてからご飯を頂こう。
何だかんだと幸先のいいスタートを切れたんじゃないだろうか。




