ようこそ!ドゥーブル村へ!
途中変な自称商人達に遭遇したけれど、その他は特にトラブルもなく、隣の村、ドゥーブルについた。
ドゥーブルは近隣では比較的大きめの村だ。
ファスタの村も大きさだけでは負けてないと思うけど、敷地が広いだけで、栄えてるかどうかで言えば段違い。
入口からだけでもわかる活気にぼく達はドキドキした。
雷蔵ちゃんと顔を見合わせて、コクリとひとつ頷く。
「せーの」
「「「とうちゃーく!!」」」
「やったね!今日のゴールだ!」
「近場とは言え初めての遠出でちからね!」
「うんうんたのしみでちねぇ!」
タイミングを合わせて皆で足を一歩踏み入れる。
ん~?なんでか声が三人分聞こえる気がする…。
きっと気のせいだよね。気のせい。
「近いとはいえ初めてのところだし興奮するね!」
「そうでちねぇ。雰囲気全然違うでち!」
「え~?初めてなんでちか~?」
「今日は一先ず宿を取って、明日冒険者ギルドに登録しに行こうね」
「そうでちね!お金を稼がないとでち!」
「ご飯はどうするんでちか~?」
「ご飯は宿屋で食べられるって聞いたけど…」
「おはぎさん!!」
「あ!!返事しちゃった…」
「ふふふ~。ここの名物はチモシースープでち!美味し~ものもたーくさん食べるでちよ~」
存在しないものとして扱っていたんだけど、
思わず返事をしちゃった。
幻覚かなにかと思ったけど、雷蔵ちゃんも認識してたみたいだし、これは認めたくないけれど現実みたいだ。
何故かぼく達の目の前にはシナモンカラーの女の子が、えっへんと胸を張ってる。
「一応聞くけど雷蔵ちゃんの知り合い?」
「知らないでち。お店のお客でもみたことないでち。まぁホントに全員かって言われるとわかんないでちが…おはぎさんは?」
「ぼくも知らない子だよー」
ぼく達は顔を見合わせて首をかしげる。
親しげにしてくるけど知らない子。ちょっと怖いよね。
まずは勇気を出して話しかけてみよう。
「あの…君はだあれ?」
「え!?つみりんを知らないのぉ~?」
「つみりん?」
「あ、知ってるじゃないでちか~」
「いや、今自分が言ったからでち」
「え?つみりん自分で言っちゃったでち??」
「はじめまして…だよね?」
「あ!いっけな~いでち!自己紹介してなかったでちね!」
手でぽて、と頭を触ると、小首をかしげ、舌をペロッとだした。
…見たことないポーズだけど…これは!ひょっとしたら『てへぺろ』ってやつじゃないかな!?
初めてみた!
「改めまして~、コエンザイムちゅう10!可愛い天然!みんなの妹!つみりんこと~つみりんでっち!」
なんか色々ポーズ変わっていって、最後決めポーズまでされたけど…どうしたらいいんだろう?
えーと、アイドル?地下アイドルなの?
地下あいどるって何かしらないけど地下に潜ってなんかしてる人?
「つ、つみりんことつみりんって一緒じゃないでちか?」
雷蔵ちゃんがちょっと引きつった笑顔で突っ込む。
勇者だ!
「あ!またやっちゃったでち~!『つみれ』こと、つみりんで~っち!」
ポーズはもういいから。
「どうしたのかな~?迷子になっちゃったのかな?えーとこの村なら憲兵さんかな?えーと…」
やばいのは早く押し付けるに限る。
どの村でも自警団とか憲兵とか治安維持の集まりがあるはず。
本当に迷子の可能性もあるし、お仲間さんに早く戻してあげないと。
キョロキョロしていると、どこかでみたような雰囲気の人がいた。
何となくあの人なら話しかけても大丈夫そうな気がする。
「あの~すみません!この村は…」
「おお~!旅人さん、よく来たね!ここはドゥーブルの村さ!ゆっくりしていくといいよ!」
振り返って話してくれた人をみてびっくりしてしまった。
え?なんでここにいるの?
「…か、かど丸君でちか?」
雷蔵ちゃんが恐る恐る聞くと、向こうもぎょっとしたみたいだ。
「な、何のことかな!?ぼくがかど丸?ぼくは村の案内人なだけだぞ!困った事があったらここの通りを少し行った右側に自警団の詰所があるぞ!そこで聞けばいいぞ!ではさらばっ!!」
すごい慌てて逃げていった…。
あれはファスタ村のかど丸君にしか見えなかったけれど…寄り道してたとはいえ、道程の半分はまっすぐ来てたし、その間かど丸君が近くを歩いてたようにはみえなかった。
お昼休憩した時少し昼寝もしたけど…それでも追い付いてなおかつ抜き去る事ができるのかな。
しかもドゥーブル村の事わかってるみたいだったし、村の奥に逃げていった…。
親戚がいるなんて聞いてないのに。
本人?それともドッペルゲンガーとかいうやつ??
「もぉ~!どうしたんでちか~?早く宿を探さないと、いいお宿は埋まっちゃうでちよ~!」
両手を腰に当ててぷんすこしてるつみれちゃ「つみりん!!」…つみりんは可愛いけど、やはり得体が知れない。
「えーと、迷子なら仲間を探してあげるよ?」
なるべく穏やかに話しかけたんだけど、つみ…つみりんは首を嫌々と振る。
「つみりんは、仲間を探す旅に出てたんでち。魔王が復活する今、倒せる可能性のある人達を探してたんでち~」
「つみりん!?魔王の事しってるんでちか!?」
雷蔵ちゃんがつみりんに詰め寄る。
「つみりんは知ってる情報は少ないんでちよ~。いずれ詳しくわかる人に出会えたり、情報は入ってくるはずでち。二人は、ようやく見つけた可能性のある人達なんでち~!なのでぇ~つみりんも仲間にしてください!」
案外真剣な様子に嘘を言っている感じもなく、余計にどうしていいかわからなくなってきちゃった。
ぼくが困ってると、雷蔵ちゃんはごくりとつばを飲み込んでつみりんに話しかけた。
「ら、らいぞー達は…あの魔王を倒せるでちか…?」
「まだ今の段階ではつみりんもわからないでちよ~?でも、一番の可能性を感じまち~!」
「今、ぼくらは弱いと思うんだけど、それでも?」
「伸び代はた~っくさんあるでち~!将来はどうなるのか、これから選択していく中で変わって行くでち~。仲間も増やしていかないと可能性は低いままでちよ~?」
「それは…つみりんを、仲間にしたら可能性は高くなるのかな?」
「…ちょっとだけでちけどね。つみりんは、カワイイ事がお仕事なんでちけど」
それ仕事かなぁ?
「職業は精霊使いなんでち。自分の魔力をほとんど消費しないで、精霊にお手伝いしてもらえる力でち~。普通の魔法使いが力を使えない状況でも精霊さんがいれば発動できるんでち!」
「な、なんだかわからないけどすごいでち!例えばどんな事ができるんでちか!?」
「え~と、破壊とか、物を壊したりとか、形を崩したりとか、砂に還したりとか~」
「「それ破壊だけ!!」」
「え~!?あとはつまんないけど、遠くの人に声を届けたり~、精霊さんの目を借りて遠くを少しみられたり~でちかね~」
「「そっちのがすごいから!!」」
やなことに気付いちゃったなぁ。
この子が入ってくれると確かにバランスが格段に良くなるんだ。
多分遠距離中距離を任せられそう。
ぼくも雷蔵ちゃんもどちらかと言うと前線、近接戦が得意だと思う。まだ戦ったことないけど。
ある意味…全然魔王の事知らない人に、ひょっとしたら魔王と戦うかもしれないけれど、一緒に戦ってっていきなり重い覚悟をお願いするよりは…ある程度事情を、わかってそうな…なさそうな…いや、わかっていそうなつみりんの方がいいのかな。
雷蔵ちゃんに目線を送るけど、待って!任せたって顔しないで!雷蔵ちゃん!!
「ちなみに宿はどこに行くでち?お金はあるんでちか?」
「「あっ!?」」
しまった!順番を間違えてた!
冒険者ギルドに登録して、しばらく路銀を稼ぎながら少しレベルアップを目指そうと思ってたけど、
そういえば数日滞在するならある程度の支払いが必要だ…。
いきなり宿代で持ち金の大半が無くなるのは怖い。
どうしようかと悩んでると、つみりんがいい笑顔で言った。
「つみりんね~今日も一稼ぎしてきたとこなんでち~。泊まってるお宿も親切な姉弟がやってるとこで、チモシースープがウマウマでち!お部屋広めだから泊めてあげてもいいでちよ~?」
ぐ、ぐぬぬ!
なんてお誘いだ!
…なんと言うかいい子なんだよね。
笑顔もさ、比べたら昼間の商人なんかホントに胡散臭さ全開だった。
つみりんの笑顔はピュアなんだもん。
ちょっとあざといけれど。
何か狙いがあるかと思ったけど…。
念のため雷蔵ちゃんに小声で聞いてみる。
「つみりん…悪い子じゃなさそうな感じがするけど…どうかな?」
「らいぞーも…そう思うでち。めちゃくちゃありがたい話し過ぎて怪しいんでちが…らいぞー達を騙したとして、つみりんにはメリットがないんでちよね。盗めそうなものもご飯位でち。それに悔しいけど、今のらいぞー達より強いでちよこの子…外から帰ってきたところなら、何かしたいなら村の外でとっくにやられてたでち。らいぞーに気配も感じられなかったのはちょっとショックでち」
だよね~。天然かどうかはわかんないけれど、この子強い。少なくともぼくらはよりは確実に。
実戦も経験してるし、ここらの魔獣は弱いとはいえ、一人でいままで無事だったんだ。
このまま逃げる事もできるけれど…。
うん。折角だ!
「つ、つみりん、相性もあると思うから、一先ずお試しでパーティーを組んでみてもいい?あと、こっちも宿代は払うからお邪魔…してもいいかな?ぼくらはこの村初めてで…勝手がわからなくて」
女の子にこんなお願いをするのはちょっと恥ずかしくて、うつむきながら言った。
思わずてやんでいっと手が動いちゃうし耳も赤くなっちゃってると思う。
つみりんの返事を待ってたけど、静かだったから思わず顔をあげた。
「つみりん?」
つみりんは目をまん丸にして、ちょっとうるうるさせて両手を口に当てていた。
「大丈夫でちか?」
雷蔵ちゃんも慌てて彼女に寄り添う。
「ご、ごめんでち。つみね、つみ、初めて仲間ができたんだな~って思ったら、なんか、嬉しくなっちゃったでち~!このまま誰一人見つからなかったらどうしようかと思ってたでち~!」
少し目の端に涙を浮かべながらにっこりと笑う彼女は、本当に純真無垢だった。
なんだろ。疑った罪悪感にバシバシ苛まれるんですが。
「えーと、これから、よろしくね。ぼくはおはぎだよ」
「らいぞーも仲間でち!よろしくでち!宿で色々教えてほしいでち」
「うん!おはぎさんと、雷蔵ちゃんでちね
!よろしくでち~」
いきなりのメンバー加入で慌てちゃったけれど、結果的に良かった…のかどうなのかは、また明日以降考えよう。
今日はもう早く休みたい。
チモシースープが美味しい宿に行こう!
後は頑張って!明日のぼく!!




