同居二日目・午後①
同居二日目に、早くも知り合いに目撃された。
漫画でもベタすぎて採用されない展開だろ、これ。
「奇遇ですね、日野先生」
「あ、ああ。そうだね……」
短めの黒髪を揺らして、淡々と山葉さんは挨拶を交わす。
なぜ、クラスメイトが教師と春休みにツーショットなんぞ撮ってるのか。
山葉さんからすればナニコレ珍百系だろう。
「光岡は私の従妹なんだ。今日は遊びに来ていてね」
ちらっとわたしの方を見て、日野が端的に状況を説明する。
里子って言っても信じてくれなさそうだから、ちょっとフェイクを混じえて。
「そうですか」
めっちゃ興味なさそうに山葉さんは聞き流すと、スマホを構えた。
そらそうか。駅構内から出てきたってことは、この街に用事があって訪れたんだろうし。
さっさと済ませたい雰囲気が伝わってくる。深入りされないのはありがたいけど。
「では、撮りますよ」
そのまま滞りなく撮影は済んで、ではまた新学期にと残して山葉さんは去っていった。
1年同じ教室にいたくせに、どんな子だったか全然記憶になかったけどすげードライな子ってことだけは分かった。
ちゃんちゃん。
さて、マンションから出たのは写真を撮るためだけではなかったらしい。
そのまま日野は、買い物に行くからと言って市街地方面へ歩きだした。
わたしは戻ってもいいと言われたけど、住む以上はある程度地理を知っておいたほうがいいかなと思ったので日野に続く。
べつに一人だと寂しいからではない。
「どこまで行くの?」
そびえ建つ下駄履きマンションを通り過ぎつつ、日野に尋ねてみる。
「ここが4丁目だから、3丁目の総合スーパーだね」
地図アプリで見てみると、マンションから徒歩10分くらいと表示された。
……え、結構遠くね?
「車使わないの?」
「昨日ケーキドカ食いしたから、歩いてカロリーを消費したいんだ」
つか、あれは二人用じゃないだろ。
同じくらい食ったわたしにつっこむ権利はないが。
羨ましいほどの砂時計体型なのに、そういうとこは気にするんだ。だからわがままボディを維持できてるんだろうけど。
両端にそびえるけやき通りを歩いていくと、やがて交差点へと差し掛かった。
曲がってまっすぐ進めば着くということで、信号を渡って歩道を進む。
大通り沿いには街路樹と新興住宅地がずらっと続いており、緑鮮やかな景観にわたしは目を奪われていた。
どの家も明るめの塗装が目立ち、重厚なレンガを積んだ門柱が高級感を引き立たている。
また、低木と生け垣を組み合わせた2段植栽が列をなしており、大通りなのに緑地かと勘違いしてしまうレベルで緑化がすごい。
目に優しい色合いは、空気まで爽やかに感じる。
高級住宅街なんだなとわかるほどには整備された街並みだ。
「きれいだろう、ここ」
数々のドラマやCMのロケ地にもなったんだよ、と日野は誇らしげに語り始める。
1000以上の区画に及ぶ、大規模なニュータウン開発を数十年かけて作り上げたらしい。
たしかに、これだけ絵にもなる景観なら多少遠くても気にならない。
もしかして散歩がてらに見せようとしてくれたのだろうか。
「子育てに適した街としても有名なんだよ。地図で見ると分かるけど、小中高通してニュータウン内にあるし、保育所の数も充実している」
「数十年前から分譲始まったんでしょ。そんだけ経ってたらリタイヤ世代で過疎が進んでいるエリアもあるだろうに、高齢化してないの?」
「開発は今現在も進められているからね。年間当たりの開発戸数を抑制しているから、定期的に新規人口も流入しているんだ」
「ふーん……」
地図アプリで見る限り、どの教育施設も住宅街と密接している。
とくに保育園って、騒音トラブルや子供の運動発達を考慮して静かで広い場所に建ってるイメージだけど。
地域住民は気にならないんだろうか。
日野に聞くと、苦虫を噛み潰したような顔で『DBしか入所できない仕組みだからね……』と教えてくれた。
うっわ、露骨。そこでVB産んだら送り迎え超大変じゃん。
高級住宅街ってことは大半がDBを産んでる家庭だろうから、富裕層向けの街づくりを充実させて高所得者を海外に流出させないことも大事なんだろうけど。
うるさくない子供を作れます、なんて触れこんだらみんな乗っかっちゃうのかな。
闇の深い話をしているうちに、目的の総合スーパーに着いた。
春休みということもあり、広大な駐車場はほとんど埋まっている。歩いて来た甲斐があったね。
総合スーパーは5階まであるうえ、出店テナントはそこそこ充実している。
娯楽施設は全く無いから、ベッドタウンってそういうとこなんだろうけど。
店に入り、日野は一階の食品売り場で食材の買い出しに向かった。
「少しかかるから、彰子は好きな階に行ってていいよ。終わったらLINEに連絡入れるね」
「分かった」
山葉さんのときみたいにまた知り合いに出くわすとも限らないし、大人しく従うことにする。
「なんか欲しいお菓子あったら、今のうちに聞いておくよ」
「なんでお菓子限定なんだよ。というか自分で買うよ欲しいものくらい」
「上向かうなら、2階の百均でビニール手袋のおつかいをお願いしたいんだ。その代わりにおごるよ」
おつかいって言い回しに子ども扱い感を覚えるけど、実際わが子におつかい頼むなら中学生くらいからになるよなあ。
某番組は多くの大人が見守ってるから幼児でも成立するわけだし。
「……じゃあ、たべっ○どうぶつで」
「うわ懐かしい。君ってけっこう子供舌だよね」
「うっせ」
私だってたまに食べるよーとフォローする日野に背を向けて、さっさとエスカレーターに乗る。
日野だってお寿司はサビ抜きで食べるくせに。
百均コーナーはエスカレーターをのぼってすぐ隣にあり、頼まれたビニール手袋もすぐに見つかった。
レジに向かおうと雑貨コーナーを突っ切ろうとしたところで、ある商品に目が止まる。
押し花キットだ。手作りのしおりとして残しておけるらしい。
そういえば、何気なく桜の花びらをハンカチに包んだままだったなと思い出す。
あのままであれば当然枯れるだろうし、こういう少女趣味はガラじゃないんだけどたまには作ってみるのもいいか。
春からの新生活で心機一転すると決めたのだから、ささやかなお守りに持ち歩くのもいいだろう。
手に取って、わたしはレジへと向かった。
そういや、桜ってなんかおまじないあったよな。キャッチできたらいいことあるよって。
日野に買い物が終わったことをLINEで送信して、気になったのでググってみる。
えーっと……3枚キャッチすると願い事が叶う? 左手で掴むと幸せになれる?
指二本でつまんで取れると金運アップ? そのまま食べると1年間幸運が持続する?
後半になるにつれてうさんくさいの増えてきたなー。まあジンクスってそういうもんだけど。
だんだん呆れてきたわたしはスクロールしていた指を止めて、ブラウザバックしようとする。
と、気になる一文が目に飛び込んできたので指を離した。
”キャッチした花びらの枚数は、1年のうちに出逢う恋愛対象になる人の数になる”
ほうほう。願い事の最低ラインが3枚と聞いてがっくりしてたけど、恋愛運で考えれば1枚でもプラスに捉えられるのか。
ほんとにこの1年で逢えたら信じてやってもいいけど。
それから日野と合流したわたしは、せっかくだから少し遊んで帰ろうということで最上階のゲーセンへと向かった。




