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43.事情説明

 後ろ髪引かれながらも、エンジェライトさんをウンランに任せて村の広場に戻って来た。

 どうやって説明しようかなあと悩んでいると、ジェットさんが「まあ、前振りだけやってやるよ」と言ってくれたの。

 くわっと彼を見つめたら、「必死過ぎだろ……」とぼやかれちゃった。

 だ、だって。仕方ないじゃない。

 多くの人の前で演説したりすることなんて、村の人の前で少しだけやったのが初めてなんだよ。

 元々私は学校で生徒の前で発表する授業もあの手この手で躱してきたほどの女……。みんなの前で手紙を読み上げることでも苦手意識が凄いの。

 はああ。でも、エンジェライトさんを招いたのは私だし。頑張らなきゃ、うん。

 

「ルチル様が良いなら俺たち男衆はいいぜ」

「あたしらも賛成だよ」


 あ、あれ?

 ジェットさん、前振りって言ってなかった?

 喋る前に村の人から先手を打たれて鳩が豆鉄砲を食ったようになっている私に向け、ジェットさんがパチリと片目を瞑る。

 

「あ、あの。今度は長耳族という方の代表がダイアウルフを連れて来ていまして」

「いいって、いいって。仕方ねえよ。以前の村ならさ」


 赤ら鼻でてかてかした壮年の男の人が陽気に割って入って来た。

 あ、うん。いいかな、もう。

 

 一体、ジェットさんは村人に何を言ったんだろう? 気になるけど、何だか聞いてはいけない予感がして、お屋敷にトンボ帰りすることになったわ。


「早かったな」


 ウンランとエンジェライトさんはテラスで座って待っていた。

 私とエミリーに向け右手をあげたウンランと会釈で迎えるエンジェライトさん。

 

「う、うん。村の人たちは特に反対しないって」

「そうか。良かったじゃないか」

「そうよね。うん」

「浮かない顔だな。長耳に何か思うところがあるのか?」

「ううん。そうじゃなくて、本当にいいのかな」

「問題ない。汝とエミリー以外は納得済みだろうからな」


 納得? 何を納得したんだろう?

 見かねたのか「私が申し上げるのは……」と前置きしてからエンジェライトさんが解説してくれたわ。

 

「そこの」

「ウンランだ」

「有翼のウンランから聞いていると思いますが、我らは竜人以上に人間を恐れていました。何者も寄せ付けぬ障壁の中で力をつけたのだろう彼らは障壁の外に進出し始めました」


 ふんと鼻を鳴らし自分の名を告げるウンランに対し、穏やかな口調で淡々と語るエンジェライトさん。

 二人とも見た目年齢は同じくらいなのだけど、落ち着き方がまるで違う。

 ウンランはクールな感じに見えるけど、内面はレオほどじゃないけど割に熱くなる方なんだって最近分かって来たわ。

 案外人情を大切にするというかそんな感じ。

 エンジェライトさんはこれまでのところ、ギベオン王子のように穏やかで柔和な雰囲気を持つ。

 見た目に関してはクールなウンラン以上に近寄りがたい感じなのにね。造形が整い過ぎていて、何だか彫刻でも見ているかのようなのだもの。

 無機質な? そんな印象を受けるの。

 そう言えば、ギベオン王子は元気にしているのかな? 王子のことだから植物園で変わらず鉢と睨めっこしていたり、優雅にティータイムを楽しんだりしていそう。

 いたずらな弟にたまにちょっかいかけられて上品に笑うの。

 つい最近のことなのに何だか凄く懐かしく思える。ホームシック? うーん、今のところ王都を懐かしむ気持ちよりルルーシュ僻地で明日はどうしようとばかり考えているかな。

 

 エンジェライトさんは報告書を読むようにウンランからも聞いていた有翼族と長耳族の拠点(ルルーシュ僻地のことを戦略拠点だと思っていたのね)を無力化する作戦について述べる。

 

「そんな折、有翼族から作戦より手を引くと連絡があったのです。長耳は焦りました。人間と有翼が手を組み長耳を攻め滅ぼさんとしているのではないかと」

「有翼は現状を長耳に伝えた。その上で手を引いたのだ」


 エンジェライトさんの言葉に対しウンランが口を挟む。

 小さく首を振ったエンジェライトさんは更に続ける。

 

「そこで、偵察を兼ねて人間の村へ出向いたのです。一匹で瞬く間にやられてしまい、状況を見ることも叶わなくなることを考慮し群れで」

「そうだったんですね……とても怖かったです」

「申し訳ありませんでした。私たちも切羽詰まっておりましたので……。どうしても人間と有翼が組んで長耳を攻める懸念が解けず」

「立場は理解いたしました。もうそのことに対し禍根はありません」

「感謝いたします。その後も遠巻きにダイアウルフを通じて村の様子を見ていたのです。すると、突如要塞化され水路もでき……インプを通じて有翼とも会話いたしました」

「ダイアウルフやその他のモンスターが襲ってくるかもしれなかったので、急ぎ城壁を築いたんです」

「存じてます。私たちの懸念が完全に晴れたのは人間の戦士たちの様子を見てからです。彼らは誰しもが驚き、すぐに帰って行きました」


 そう言うことだったのね。

 騎士団の方々が城壁を築くように指示していたのなら、驚くこともないし、拠点が完成したので続々と軍が集まって来るはずが、即帰って行った。

 食糧もいつもと変わらぬ量だ。

 だから、拠点などではないと判断したのね。

 

「何もない只の村のままでしたら、以後接触を断つつもりでした。しかし、短期間にここまで村を発展させた指導者がいる村ならば、有翼と同じくお互いに交易した方がお互いにとって益になると判断し、伺わせていただいたのです」

「そうだったのですね。交易は大歓迎です。見ての通り、村という狭い地域だけでは資源に乏しいですし、王国から行商人が来ることもありませんので」

「寛大なお心に重ね重ね感謝いたします。お詫びの印として物資をお届けさせていただきます。その後、定期的に商人を派遣してもよろしいですか?」

「是非、お願いいたします!」


 物資の無償提供を断ろうかと思ったけど、受け取らなかったら受け取らなかったで問題が起きるかなと思ったの。

 彼らの謝罪を受け入れないとも取れちゃうし。

 どのようなものを贈ってくれるのか楽しみ。


「オレたちも何か持ってきた方がよかっただろうか……」


 ウンランの独り言……聞こえているってば。

 

「ウンランたちはインプで見張っていてくれてるし、ウンランが村にいて助けてくれてるじゃない。とても助かっているわ」

「そうか。オレはここにとどまるつもりだ。村の発展に貢献することを約束する」


 全くもう。

 ぶすっとした顔で言うなんて素直じゃないんだから。

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・タイトル

ピラー・リベンジワールド~最強スキル「吸収」で死の運命を覆し家族全員を救い完全勝利するまで~

・あらすじ

家族を失った主人公が8年前に舞い戻り、一度目の経験をいかして今度は、、というお話しです。といっても暗い感じじゃありません。現代もののファンタジーです

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