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僕が死ぬまでの四十九日間。

作者: Es2

 外からの光がまぶしい。蒸し暑い感じがするし、それに少し汗臭い。今の時間は...七時半。上出来。

 今日は何日だろうとカレンダーを寝起きのぼやけた視界で凝視していると、茶色い木の小洒落たドアの奥から声がする。「将也(まさや)、朝だよー!」母親だ。僕は少し喉を絞った声で「はーい」と答える。なんてことない日常だ。すぐにベッドから起き上がり、ドアを開けて階段を下る。寝巻きはヨレヨレで裸足のまま、髪もボサボサで視界はまだボヤけている。最後の一段に足を下ろし、フローリングの光沢がまるで水面のような地面を左足が先に触れる。ひんやりしていて今の蒸し暑い日にはちょうどいい気持ちよさだ。リビングに入るといい匂いがする。もう朝ご飯はできているらしい。「おはよう。」僕が何気ない声で言うと決まって母は「もう遅いわよ。」と答える。それを軽く聞き流しつつ、少し大きめのテーブルの前にある椅子に座り、目の前の目玉焼きとご飯に目を落とす。小さい声で「いただきます。」というと、目玉焼きの黄身だけを箸でくりぬきご飯の上にのせて、箸の先で黄身の薄い膜を破り流れてくる中身をご飯と一緒にかき混ぜる。少し黄色いところと白いところがまばらに見え始めたときに、さっき残していた白身を細かくしながら混ぜていく。そしてよく混ざったところで醤油をかけて一気にかきこむ。やっぱりこの二つには醤油が一番だよなぁ、一番初めに醤油を市販化した人にはノーベル平和賞が五年分ぐらい送られてもいいと思う。いやマジで。

「ごちそうさまでした。」

 食べ終わった後の食器をキッチンに戻すと、再び部屋へと戻る。さて。今日も学校だ。正直死ぬほどめんどくさい。これが小説ならきっと

〜放課後〜

とかいって飛ばしてくれるんだろうなぁ。小説の主人公は羨ましい限りだ。ただそんなことを言っても始まらないし、さっさと用意して行くとするか。僕はリュックに今日の教科を詰め込み、チャックを閉めて制服に着替える。

「これ腰に汗たまるんだよなぁ」と独り言をいいつつ用意は終わり、家を出る。

「行ってきます」多分聞こえてないであろう母にそう声をかけると、玄関を出て自転車に乗る。学校までは自転車でおよそ三十分。結構坂が多いし何より寝起き。疲れない人を見てみたい。

 暫く漕ぎ続けて学校にたどり着くと、横から声が聞こえてきた。

「将也、おはよう。」声をかけてきたのは僕の友達、祐希だ。高校に入ってから一番最初にできた友達で、二年でクラスが変わってもこうやって朝は会うのだ。「おはよう」と僕が答えると二人で教室に向かって歩く。祐希とは途中で別れて教室に入り、皆に挨拶を交わす。何もかもが変哲のない日常。そう。これでいいのだ。

〜放課後〜

 「今日も物理がしんどかった......」友達の祐希(ゆうき)が帰り際そう呟くと僕は思わず苦笑いする。高校二年生になり、僕達は理系クラスに進んだ。そのおかげで物理なんていう忌々しい教科が追加された。ただ、解けたら楽しい教科だし僕は嫌いじゃない。ただ先生はちょっとめんどくさいけどね......。

「んで?帰りにまたゲーセン寄るつもり?」祐希は僕に問いかける。

「もちろん」

「お前も好きだなぁ、音ゲー。」そう。僕は音ゲーマーなのだ。

「まぁ、頑張れよ〜」少し嫌味っぽくそういうと、祐希と僕は別々の道に向かった。

 自転車で十分弱くらいのところにそこそこ大きいゲームセンターがあった。僕はそこで軽く音ゲーをしてから帰るのがほぼ日課になっていた。今日もなにか狙うつもりだ。

 ゲームセンターに着くと、既に数人がゲームの前で並んでいた。「うげっ、割と並んでるなぁ。」とボソッと呟きながら僕も並ぶ。その後、一つの曲を集中的に狙ってはいたものの、中々終わらずに二時間弱が経過してしまっていた。もう諦めるか。最後の一曲、適当に簡単な曲を終わらせて外へ出ると辺りはもう暗い。それもそうだ、携帯の時計を見てみるともう八時過ぎだ。すぐに自転車に乗ると、帰路につく。

 帰り際に通る橋の上で少し不思議な気持ちを覚え、一瞬自転車を止めて下を見る。しかしすぐに気にしなくなってまた自転車に乗って、今度こそ真っ直ぐ家に向かった。


 遠くで目覚ましの音が聞こえる。今日も今日とて憂鬱な一日が始まる。いつもの朝食を食べると学校の用意をして、学校に向かう。今日も物理でヒーヒー言ってはお亡くなりに。あーあ。ほんとに嫌な日常。毎日毎日ずっと変わらない。しかし今日の放課後は部活があった。僕は部活は好きだった。

 軽音楽部に所属している自分だが、何故か小学校から中学校のとき、「ピアノをやればモテる」という面白くもない冗談を本気にして、本格的に習っていたことがある。しかし僕は昔から飽きやすい性格のうえ、課題が死ぬほど苦手だった。そんなこともあり、一年ちょっとで辞めてしまった。しかし、音楽自体はまだ好きだったこともあって、中学校は違う部活に入ってはいたが、高校に入ると即決でここに入ったのだ。

 僕が部室へと向かっていると横から祐希が合流してきた。実は僕と祐希とは同じ部活に所属している。祐希はピアノではなく、ギターを昔からずっと弾いていたらしい。その甲斐あってか、軽音の中でもギターはトップレベルで上手く、入るや否や先輩らを出し抜いてパートリーダーになってしまったほどだ。

 部活は四時から六時まであり、僕らはそれぞれバンドを組んで、曲をコピーして演奏する。所謂コピーバンドだ。それでもやはり自分達で息を合わせて曲を演奏するのは楽しくて、あっという間に時間が過ぎていた。片付けをすませ、部室を出て学校の駐輪場に向かう。その最中、祐希は突然こんなことを言い出した。

「お前ってさ、死ぬならどんな時に死にたい?」こいつはよくこんな事を聞いてくる。まぁ僕自身こういう話は嫌いじゃないし、むしろよく話す方だ。僕は少し考えてから答えた。

「......誰かに必要とされてるときに死にたいかな。」

 今日も自転車を漕ぎながら橋を渡っていると、昨日のことをふと思い出した。また自転車を降りて、今度は少しゆっくりと下を眺めてみる。「この橋ってこんなに高かったのか。」思わずそう呟くくらいには底は深く、暗い闇に包まれていた。もし僕がここで落ちてしまったら?体は原型を留めないまま潰れ、意識は一瞬で葬り去られ、誰にも見つからずに微生物に分解される時を待つのだろうか。その時僕の感情はどこへ行くのだろうか。皆は僕のことをどう思うのか。昨日よりももっと不思議で、言葉にはとても表しづらい感情が押し寄せてきた。僕はその時、何故か涙を流していた。


 あの日から一週間が経った。寝て起きたときは特に覚えてもいないものなのに、帰り際、あの橋を渡ると必ず、深い暗い谷底に誘われる。自分に死にたいという感情は特になかった。それどころか、むしろやり残していることはいくらでもあった。でも気になったのだ。死というものは人生の終着駅なのか。それとも死という一つの中間点なのか。あの橋を軽く覗いた一週間前から、僕の日常は少しずつ、変化していった。

 学校の中でクラスメイト達の大群を見ると、人間という「生き物」として捉えてしまう。そこに感情も神経も何も無かった。とてもとても不思議な感情だった。何故かこう考えてしまう自分が嫌いになった。ゲームも「有限なもの」として捉えて、あまり楽しめなくなってしまった。今までは帰り際、橋を見ると必ず下を覗き込んでいた。それが今の感情を引き起こしていることがわかっていながら、何も考えずに通り過ぎることが出来なかった。

次の日から、僕はその橋を避けて遠回りしてから帰ることにした。結構遠くはなってしまうが仕方ない。

 それからは特に不思議な感情に苛まれることも無く、またいつものなんて事ない面白くもない日常が戻ってきた。部活がある日は部活をやって、部活がない日はゲーセンで音ゲーをする。勉強は特にできないこともなかったから、より趣味に集中できた。


 橋を渡らなくなって二週間が経った頃、学生の誰もが敵と認識する極悪非道な行事、テストというものが近づいてきた。今日で一週間前らしい。一日目から数Ⅱと物理とかいうもはや殺しにかかってるようなスケジュールだった。流石の僕も勉強に本腰を入れ始めないと、進学が危うい。僕はテストの点数自体はそれほど悪くは無いとは言え、課題をとにかく出さないせいで、成績はお世辞にもよいとは言えないものなのだ。だからその分、テストで点数を稼がないと後がない。僕はゲーセンを封印し、暫くは勉強に明け暮れる事にした。放課後は学校備え付けの自習室に篭って、家に帰ってからも勉強する。それを過ごすというように自分の中で決めた。日常がまた大きく変わる。

次の日も、その次の日も、また次の日も、僕は机に向かっていた。もうとっくに、橋の事なんか気にもしていなかった。


 テスト当日。今回のテストは期末テストなのでいつもよりも期間が長い。テストだけで一週間とか、気が狂わない人の方がいないに決まってる。ただ、今日の教科は理系科目。まだできないことはないだろう。しかし、二日目、三日目、と、日に日に文系科目が増えていく。僕は文系科目が嫌いだ。見ているだけで吐き気がする。少し憂鬱な気持ちで肩を落とすと、教室のチャイムが鳴り響く。テストが始まる。ここ一週間缶詰した成果を出す時だ。僕は机に置いてあるテストに目を通し、筆を動かした。


 一週間のテストが終わり、なにか魂が抜けたように気が楽になった。こんなもの、早く無くなればいいのに。とりあえず手応えはあった。今回も赤点は無いだろう。安堵の息を漏らすと、祐希が教室にやってきた。「どうした?」祐希にそう聞かれ僕は「死ぬほど疲れたんだよ。」と返す。

「実際死んでるわけじゃないのに?」

「ほぼ死んだようなもんだよ。」

「テストの点数で死ぬのはいつも俺だけどな。」

「ドンマイ。」顔が思わずほころぶ。

祐希は本当に話してるだけで面白い。僕は少しご機嫌斜めな顔をしている祐希を尻目に、教室を後にした。明日からはテスト返しだ。


 今日は金曜日。テストが終わっていつもの日常に戻るかと思いきや、特段そうでもない。今日からじっくり二週間かけてテスト返しがある。少し期待を込めながら、ベッドを降りてまたいつもの朝食を食べる。用意を済ませて自転車を漕ぎ始めると、少し体が軽いように感じた。そんなに楽しみにしてるのか、僕。自分の単純さに少し呆れながらも、自転車のペダルを回していた。いつもの重さよりも一段重くして、気持ち少し速度を上げながら。


 テスト返しが始まって二週間と少しが経った。結果は思った以上に出来がよく、課題は出さずとも成績は割と上々だと思う。学校の先生からは「いつも提出物出さないどこかの誰かさんはいつになったら出すのかなー??」なんて嫌味を言われたりもしたが、まぁ勝手に思っておけばいいさ。

帰り際、僕は気分が良くここ最近自分を縛っていたものも忘れて久しぶりに橋を渡るルートに進む。辺りはまだ少し明るく、渡り始めたときに微かに脳裏にあの日のことが蘇ったが、下を覗く気にはならなかった。チェーンと歯車が摩擦を起こし、小さく軋む音を立てて自転車は進む。僕は橋の縛りを乗り越えたのだ。そう思って、よりペダルを漕ぐ足は早くなる。今日はとても気分がいい。足を回す速さは変わらないまま、僕は家に戻っていた。

 家に帰ると、母が声をかけてくる。

「おかえり。」

「ただいま。」

「テスト、どうだった?」母は不安そうな顔でそう問いかけてきた。僕はこの質問が世界で一番嫌いだった。

「まぁ、良くも悪くもって感じ」いつもこう答えるしかない。余計なことを言うと何を言われるかわからない。

「あらそう?ならいいけど......」母はそういうと洗濯物を取り込むために洗濯機のある部屋へ向かった。

ふと時計をみるとまだ午後六時を過ぎたころだった。まだ夕飯までは時間があると踏んで、僕は自分の部屋に上がるや否や、テストのやり直しを始めた。一時間ほど経ったところで、あまりの暑さに手を止める。カレンダーを見ると、今日の日付は六月の二十九日。まだ夏は始まったばかりだというのに部屋はかなり蒸し暑く、扇風機だけではとても生きてられそうになかった。しかし僕の部屋にクーラーなんて言う便利な装置はない。なので、少し涼みに行くことにした。母に「外に涼みに出る」と伝えると、「暗くなるから気を付けてね。」と言われた。それを聞いて外を見ると、辺りはもう暗く、車も自転車もみなライトをつけて走っていた。

 僕は外に出ると、どこに行くわけでもなく、ダラダラとそこらじゅうを歩き回っていた。外は蒸し暑いが、日光がなくなっているおかげか部屋よりかは少しマシに感じられる。風も程よく涼しく、頭もよく冷えていた。しばらく歩いていると、例の橋の前にいつの間にか来ていた。少し興味がわき、僕は橋を渡ることにした。風が吹く。髪が揺れる。心も揺らされる気分になった。渡っている途中で、僕は突然祐希との会話を思い出した。

『お前ってさ、死ぬならどんな時に死にたい?』

『......誰かに必要とされてるときに死にたいかな。』

僕は誰かに必要とされているのだろうか。そんなことを考える。確かに、家族には必要と思われているかもしれない。でもそういうことじゃなく、『友達』からは必要とされているのだろうか?少しおこがましいかもしれないが、僕は誰かに人生に刻まれるような生き方がしたいのだ。その僕が刻まれた人生の持ち主である人こそが本当の『友達』なんじゃないか。

しかしそれを確かめる術は?数多くの人間にはわからない。いや、わからないわけじゃない。できない。したくないんだ。誰もが近くにあり、そして誰もが遠ざけているもの。

死。

どこかの宗教が「死は救済」だのなんだの語っていたのを思い出すが、今思えばあながち間違っていないような気もする。

 気が付けば、体が自然と前のめりになっていた。僕は無意識だった。前からもたれかかり、おなかに触れた柵が支点となって体が前に傾く。視線は目まぐるしく変わり、やがて橋の下に固定される。こうなればどうしようもない。頭の中で、今まで生きてきた記憶が鮮明に思いめぐらされる。初めての親との大喧嘩や中学校入学初日でできた友達の顔、祐希との出会いなど、すべてが頭の中をまるで急流のように駆け巡る。これが走馬灯らしい。割と落ち着いている自分に驚く間も記憶はどんどん流れていく。やがて、初めてこの橋の下を覗いた日を思い出した。確かあの時の日付は......

『今日は何日だろうとカレンダーを寝起きのぼやけた視界で凝視していると』五月十一日。

そうだ。寝ぼけて中々見づらかったが、もうそんなにも経っていたのか。

やがて地面が僕の頭に近づく。葬式にはいくらの人が来るんだろう。皆は僕のために泣いてくれるかな。それとも、ここで肉塊のまま発見されずに分解される時を待つだけなのかな。来世ではもうちょっと課題が得意になっているといいなぁ。

意外と死ぬまでの時間は長く感じられる。もし自分があの日からのことを小説にするとしたら、題名はきっとこんなもんだろう。


『僕が死ぬまでの四十九日間。』

まずはこの小説を読んでくださってありがとうございます。僕はこういった短編小説を書くのは本作が初めてで、これまでは趣味にも及ばない程度で原稿用紙2枚くらいのSSを書いて友達に読ませる、みたいなことしかしてこなかったので、これを書いてるときは少し本物の作家気分になっていて楽しかったです(笑)

この小説は、自分が思いついたことをそのままつらつらと述べていただけなので、非常に読みにくい話になっているかもしれません、ごめんなさい!!

僕自身、こういう将也みたいな「誰かの記憶に残りたい」と思うようなことは時々あって、書きながら自分と将也を重ね合わせて、自分が書いた設定なのに「わかる~!」と共感してしまうようなことがありました(笑)

死にたいとは僕も思いませんが、死後の世界がどうなっているのかはとても興味がありますね,,,,,,

いつか月旅行みたいに気軽に観光できる世の中とかにならないですかね(笑)

まぁとにかく疲れました、僕はもう寝ます。皆さん、おやすみなさい。

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