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-6- 6年前の邂逅

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「このままじゃ、時系列がめちゃくちゃになっちゃうよ!」


「だめ、順番通りに……チャンスは一度きりだと思わないと」


「くそ、絶対絶対、許さない!」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「嘘でしょ、これ……『エトプラ2』の世界じゃん……!」


 僕、いや”私”、は唐突に思い出した。


 きっかけになったのは今日の出来事。

 ゆっくりと振り返ってみよう。



 僕は御年7歳。お母様いわく、将来有望な美貌の少年だ。

 ジェット家の次男として生まれて7年経ち8年目に入ったわけだけど……今日はあろうことかドレスを着せられている。

 真っ白なレースに薄いブルーを織り込んだドレスは元々色白な事も相まって、かなりの美少女に擬態できているらしい。しかしお母様、これ厳格なお父様にバレたら怒られませんかね?


 綺麗な服は嫌いじゃなかったから、ひらひらして足元が涼しいなってくらいで特に抵抗は無い。妹のアゼリアがすごく喜んでいるので、妹大好きな兄としてはニコニコなのだ。

 今日は付き合いのある貴族のエメロード家とサフィール家から、それぞれ僕の友達である次男坊達が遊びに来ることになっているし、ちょっと驚かしてやろうとも思っていた。

 すぐにばれてもつまらないし、楚々として出迎え、淑女にも負けないカーテシーを見せつけてやったのだ。


 そうしたら、あいつら。

 すっかり僕が同じ年頃の令嬢だと思い込んでしまった。

 しばらくお行儀よくお茶の時間を過ごして、さて種明かしをしようかと二人に視線を向けたら。


「貴様がこの先、何かに傷つけられることがあったら……僕が絶対助けてやる!」


「ボクだって、この先、君に何があっても君の味方だよ!だから……。」


「僕の許嫁になって!」

「ボクのお嫁さんになって!」


 真っ赤な顔して言うんだぜ。

 だから、僕はとうとう我慢しきれなくて、申し訳ないやらで、淑女を演じるのにあるまじき大口あけて笑ってしまった。


「あはは……!エリオット、ライ、……っはは、全く……どうしてわかんないんだ、僕だよ!」


 うちは公爵家だし、二人の家も侯爵家だし、結構歴史のある偉い貴族だ。僕もたまに言われているからわかる。自分の気に入る女の子が現れたら、誰かに取られる前にプロポーズするのはとても大事なこと。プロポーズまでいかなくても、貴女を良く思っています、ってアピールは最低限すべきだ。

 実際に結婚するのは16歳になってからだけど、婚約は何歳からでもできるからね。いいなぁって思うだけで何もしなかったら、ほかの子に見初められてさっさと婚約しちゃうかもしれないのだ。


 もしほかの子の婚約者になっていたら、奪っちゃえって?

 それもできないことは無いけど……貴族は決まりがいっぱいあるし、一度した約束を覆すっていうのはとても大変なんだ。約束をなしにしても信用を失わないだけの、皆が納得するような理由が必要になる。


 二人は宣言するのもそろっていたけど、ぽかんと口を開けてこっちを見るのも同じタイミングで、僕はますますおかしく思った。

 じわじわと言われたことを理解した二人も、恥ずかしそうに悪態をついてから、どちらからともなく笑い出す。

 そのうちライアットが真面目な顔をして、三人円陣を組むみたいに肩を組んだ。秘密の作戦でも話し始めるみたいに黙ったから、僕とエリオットも申し合わせたみたいに押し黙る。


「ボクらは親友だ。大人になって、結婚しても、立場が変わっても、ボクはずっと二人の味方だよ」


「俺だって、貴様らが傷つくことがあったら、絶対に助けてやる。俺は賢いからな」


「僕も、二人に何があっても……力になるよ。腕力は無くても、魔法は結構得意だし」


 金の髪と緑の瞳の騎士様みたいな、力強く思慮深いライアット。

 薄水色の髪と青紫色の瞳に丸眼鏡、聡明だけどちょっと素直じゃないエリオット。

 そして、鋼色の髪と黒紫の瞳、笑顔だけはピカイチだって言われる僕。


 約束だよ、男の約束だ。

 口々に言って、笑って、夕暮れの光の中を手を振って別れた。



 ……そう、夕暮れに少年3人が手を振り合うスチルがあったんだよ。


『エトワール・ドゥ・プランセス2』っていう乙女ゲームに!



 そして冒頭へ戻る。

 私は……いや、この世界では男子として生きてるわけだし、僕は、でいいのかな?細かい事を気にしてる場合じゃないけど。

 僕は二人を見送った後にすぐ自分の部屋へと取って返し、今しがた思い出したばかりの事でいっぱいになった頭を整理しにかかった。






 以前の”私”は、令和の日本に生きている成人女性だったと思う。

 年齢や周りの人間の事は思い出せないが、トラックにはねられて死んだ覚えもないし、お願い事を引き換えに何かと契約もしていないし、どこか別世界へ行きたいと強く望むほど不遇の産まれでも無かった、はずだ。


 はっきり覚えているのは、”最後の記憶で乙女ゲームをプレイしていた”こと。

 それが『エトワール・ドゥ・プランセス2』、通称『エトプラ2』。


 タイトルがフランス語にかぶれていることからもわかるように、きらびやかな貴族が存在する、ちょっと中世ヨーロッパ風世界観のファンタジーが下敷きになった乙女ゲームだ。

 あ、乙女ゲームっていうのは、主人公の女の子がイケメンの男の子たちと恋愛するシミュレーションゲームの事ね。


 タイトルからもわかるように、『エトワール・ドゥ・プランセス2』は、『エトワール・ドゥ・プランセス』(わかりにくいから、ここから先は『エトプラ1』とする)の続編だ。


『エトプラ1』の主人公はかわいい平民の女の子……というか、この世界に突然転移しちゃった女の子。平成に発売されたソフトだから、平成時点での日本の常識を持った女の子ってことになるかな。(デフォルトネームはセナ。ここは人によって自分の名前に変えたり、気に入った名前に変えたりするけど……私はデフォルトネームのままプレイする派だった)


 13歳になれば全王国民が受けると言われる王立学園を受験して、剣か魔法の才能(ここは選択できる)を見出され見事合格、イケメンだらけの学園生活を送る恋愛シミュレーションゲームだ。攻略対象のイケメンと最後までイベントをクリアするか、1年間学園生活を過ごせばエンディングを迎える。

 ルート次第ではその後しばらく遊べる場合もあるけど、だいたいはゲーム内の1年間を過ごせば終わり。攻略できたイケメンがいれば最後に告白イベントがあり、告白を受けるか受けないかも選択できる。


 1年間に4回ある試験の判定が結構厳しいので、イケメンと遊んでばかりでは成績が落ちて評価が下がる。バランスよく試験に対応した能力を上げ、イベントのフラグを踏み、ペットを世話して、休日には意中のイケメンとデートをしたりアイテム作りの内職をしたりと、乙女ゲーにしてはやる事が多く中々骨のあるゲームである。

 さらに、最初に騎士学校に入るか魔法学校に入るかで出会いやすいキャラクターが変わるし、入らなかった学園の方のキャラクターも攻略できるため、関係性を変えて何周もクリアしたくなる仕様なのだ。

 ほかにも特徴的な仕様はいくつかあるんだけど、長くなるのでここでは割愛しておく。


 ちなみに”私”はミニゲームとして仕込まれている魚つりとアイテム作りに毎回夢中になって、中盤で寄り道してしまうのが常だった。アイテム図鑑は2周目以降も持ち越しできるから、毎回集め直す必要は無いんだけど。

 図鑑を全部埋めると、王国専属魔術師としての道が開ける。魔術師ルートに入るとエンディングまでの期間が少しだけ延びて、幻の宝石を探すイベントが始まるんだよね。


 そして何を隠そう、この幻の宝石は主人公が元の世界に戻るためのアイテム。

 最後の最後で”攻略キャラと共に今の世界に残る”、”攻略キャラと一緒に元の世界に戻る”、”一人で元の世界に戻る”を選択して、いずれかのベストエンディングを迎えることになる。


『エトプラ1』と『エトプラ2』の舞台や主人公は共通している。

『1』で幻の宝石探しが発生せず、主人公が誰ともくっつかなかった場合の2年目の物語が『エトプラ2』なのだ。

『2』での主人公は本格的に王国魔術師を目指す内容で、『1』で好評だったアイテム作りも強化されている。

「騎士学校」か「魔法学校」かを選ぶ序盤も踏襲していて、「騎士学校」を選べば「魔物図鑑」と「アイテム図鑑」を埋めるのが必須、「魔法学校」を選べば「魔法図鑑」「アイテム図鑑」を埋めるのがベストエンディングの条件だ。そこへ加えてイケメンと恋愛しなきゃならないわけだから、相変わらずやる事の多い乙女ゲーである。


 え?説明長すぎるって?

 大丈夫でしょ、乙女ゲームがなんたるかを知ってる人ならこのあたりの設定はよくあるし。でも、『エトプラ』は独自の機能や設定が多すぎるのも確かなんだよね。これだけ話しても、まだ説明しきれてないし……。


 それにしても、なぜ『エトプラ2』に転生したのか……それは最後にプレイしていたっていうのも大きいだろうけど、多分、”私”の大好きなキャラクター全てが攻略対象になるのが2だから。

『エトプラ1』も好きでよくプレイしたけれど、『エトプラ2』に入ると、『1』では攻略不可能だったサブキャラだったキャラクターが攻略可能キャラに入って来るのだ。

 しかも、『1』のサブキャラの人気投票で1位になれば確実に『2』の攻略可能キャラに入れるというキャンペーンが行われ、”私”は公式サイトに毎日投票しに行った。必死だった。推しの新しい物語が読めるのが嬉しいのはもちろんだけど、すごく情熱を傾けていたなぁ。


 結果的に、5人くらいが攻略キャラに入ったと発表された。『2』発売後に出た開発者インタビューの記事によれば、皆が多くのキャラクターを愛してくれてるのがわかって嬉しかったんだって。

 ”私”が誰に投票したかって?それが思い出せないんだ……うう、モヤモヤする。しかも、『2』はまだ全員クリアしてなかったような気がする。

 メインキャラを全員クリアして初めてサブキャラの攻略ルートが開く仕組みだったから、”私”は誰が新たな攻略キャラとして採用されたか知らないまま。最初は攻略本も攻略サイトもまだ見ないでプレイする派だし。あ、隣国の王子のお付きはイケメンだから、絶対入ってるんじゃないかな?


 とまぁ、詳しいことは後々説明していくとして……。

 一番大事な情報からいくね。



 ”僕”はこのままだと、7年後――14歳のうちに死ぬんだ。多分。


 なぜなら公式のストーリーでそうなっているんだもの。

 せっかくやって来た異世界を満喫する前に死んじゃうなんて、あり得ないよね!?




やっとゲームの説明に入りました!

序盤それなりにシリアス(?)ですが、徐々にコミカルとロマンスを足していきたいと思います。

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