ここから始まるアリアの多難
アリアは、うわぁ……と心の中で呟いた。
お城で行われたお茶会は、目をギラつかせた女性達が王子にアピールしようと群がっている。そんな女性陣を貴族の息子達は、若干引いているものの「やっぱり、そうなるよな」と離れた場所で世間話しながら見ている。
第一王子は、背は高く、サラサラな金髪に西端な美しい顔立ちをしている。整いすぎて近寄り難いかと言えばそうでは無く、ニコリと笑うと可愛らしい。
王子の婚約者を見つけるために開かれたのだから当然の事なのだが、アリアには異様な光景だった。
転生した身のアリアには、王妃という器はないと分かっている。イケメン王子は見ている分にはいいけど「江戸城の大奥」や「源氏物語」を彷彿させる「権力者」との結婚より、人並みの幸せで十分だとアリアは思う。
両親は、王子と縁がなくても良いところの貴族でいいと懇意になれ!と言われている。
ーあぁ、前世で「モテる女子の10ヶ条」とか本や雑誌を読んで女子研きしとけばよかった。
目の前の現状を楽しんで見ていたアリアは、ハッと目的を思い出して落ち込んだ。
アリアには、異性と言えば父親と兄しかいない。前世も女子高卒業して、わりとすぐに死んでしまったため彼氏を作らなかった。アリア自身、良いとこの婚約者が出来る自信がなかった。
無い知恵は絞っても出ない。仕方がないので両親が言う「良いとこの貴族」を探しにアリアは席を立った。
「東洋にキンカクジっていう金で出来た建物があるらしいぞ。今、その国は貿易をストップしている、と親父が言ってた。まぁ、治安が良くないから丁度よかったみたいだが。」
「金って。そりゃ、すごい国だな。」
ー日本の事を喋ってる!貿易ストップってどういう事!?
会話の主を探すと、赤い短髪の活発そうな青年が紺の髪色をした青年に話していた。見目も家柄も「良いとこ」の息子であるようで、二人を中心に女性達に囲まれている。
ーこの中を割って入るの嫌だわ。
前世の家族は今世にいないだろし……。そうかと言って、確認しないと二人と話す機会はもう来ない。
「お話中失礼いたします。先ほどお話されていたのはジャパンと言う国でいらっしゃいますか?今、その国の王様の名前をご存じなら教えていただきたいのですが…」
「……ああ、よく知ってるな。確か、「ショーグン トクガワ」だったかな。」と赤毛の青年が答えた。女性達がキッとアリアを睨みつける。
ーどちらの「徳川」ですか?とか、将軍は名前と違うわ。役職名よ!!……色々気になるけど、彼が言うには江戸時代か。私の魂は過去に遡ったのね。
アリアは、ほっと力が抜けたが女性達の視線にいたたまれなくなった。お礼を言ってから一歩踏み出した。だが、紺色の髪の青年の一声に固まった。
「君はコイツのこと好きなの?」
「は?いえ、私ジャパンが大好きですの。
申し遅れました。アリア=ダルムシュハットと申します。近くを歩いていましたら、お話が聞こえまして…… お話を遮ってしまい、申し訳ありませんでした。」
「なんだ。残念。俺はクラウス。父親が外交官をしてる。」と笑いながら紺色の髪の青年は言った。
「こいつは、オリバー。貿易商の息子だよ。ジャパンについて聞きたいならおじさんに聞くのが一番だけどね。」クラウスが、赤髪の青年を指差して言った。
「だな。俺の親父が、ジャパン好きで色んなモン集めてる。刀だったり皿や絵とか。緑茶もあるぞ。」オリバーが、口を開いた。
「緑茶!?羨ましいですわ!!餡子の和菓子も食べたくなりましたわ。和菓子でなくても和食……塩おにぎり……是非とも、お父様を紹介してくださらないかしら。」
「お前、ジャパンジャパン言っといて全部食いもんじゃねぇか。そう言えば、王子の所行かなくていいのか?こんな機会はもうないぞ。その為の茶会だろ?」
オリバーは、さらりとアリアを「お前」呼びしているが悪い気はしない。
「わたくしは、身の丈に合う方を探しておりますの。光源氏のようなお方は苦手でして。それに、周りの方のように可愛らしくする事ができませんから。」
アリアは、「キャッ、うふふ……無理無理。」とほぼ両目を閉じてるウィンクをしてみせ、体をクネッとしてみせた後、扇子で口元をやや隠しながら苦笑いして見せた。
「ぶはっ……! ひでぇや。あー腹いてぇ。
お前ホントに令嬢か?飾る気ねぇな。」
「ぶふっ! 違う意味で注目間違いないけどね。僕達の前でやるとか……僕たちも範疇外ってことか。本当に君は珍しいね。
まあ、オリバーは話が分かる人ができてよかったね。アリア、君は面白いから僕の家に養子になる?お金あるよ?」
「養子なんて結構ですわ。クラウス様」
「ひかるげんじって何だよ……。急に図々しくなったな。お前面白いから、緑茶分けてやる。」
ー立派な二人の友人が出来たわ。これなら親も何も言うまい。落ち着いた年上男性が理想的だし、女子の視線も少しは和らいだ。いや、これ可哀想な子を見るような感じだわ…。
女子とは敵対しくないアリアは、素をみせた。
オリバーと親しくなれたら、時代は違えど日本へも行けるかもしれないという期待を込めて。
緊張が解けたアリアは、自然な笑顔をうかべた。
花のような美しい笑顔に、オリバーとクラウスは少し頬を染めてアリアから目を反らした。
「オリバーもクラウスも久しぶりだね。
僕も参加させて欲しいな。君の話を僕にも聞かせて?」
背後から聞こえてきた声に振り向いたアリアは、笑顔のまま固まった。
ーあぁ、間近でみるとさらに美しいわ。
カーテシーを……とアリアは王子に向き直った時、王子がアリアの手を優しくとってキスをした。
女の子達の悲鳴が上がった。
つうっと、アリアの背中に冷たい汗が伝る。
ーさっきの二人と友達らしいから、王子は私も友達になろうとして下さってるんだわ……。
きっと。絶対。いや、そうであって!!
アリアは、祈る傍ら王子にカーテシーをした。
オリバー・クラウスと王子と交えて話をしたが、アリアはニコニコしながら見守る……もとい逃げる事にした。
お茶会が無事に終わり、程なくしてからアリアのもとに王子からの手紙が届いた。
その手紙には「また逢いたい」と。