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爆破

 ルドに追いついたイディが走りながら訊ねる。


「手がいるか?」


「手伝ってもらえるなら助かります」


「なにをする?」


「あそこの小屋に閉じ込めた人たちを、追い出してください。必ず(・・)全員・・を」


 それだけでイディは、ルドがしようとしていることを察した。


「わかった」


 二人は頷き合うと、すぐに分かれた。イディは小屋がある方へ。ルドは親衛隊がいる方へ移動する。


 全力で走っていたルドが眼前の岩を蹴り上げ、体を宙に踊らした。


『風の精よ、我が足に空を駆ける力を』


 先ほどまで走っていた速さとは、比べ物にならないほどのスピードで駆けていく。ほとんど地に足をつけることなく、一足飛びで親衛隊たちの前に降りた。


 ルドの姿にダーチェが叫ぶ。


「ルドヴィクス!? なぜ、ここに!?」


 ルドはダーチェを無視して、親衛隊に突進した。そのことに気づいた親衛隊が慌てる。


「止まれ! 何者っ……ぐはっ……」


 ルドが駆けてきた勢いを殺すことなく、親衛隊の男に体当たりをする。


「なっ!?」


 他の親衛隊の男たちが慌てて抜刀するが、ルドは素早く剣を奪って腹に蹴りを入れた。そこから、流れるようにクラウディウスの背後を奪い、首に剣を突き付ける。ここで最初に体当たりをした男が地面に倒れた。


「貴様! 何をしているのか、分かっているのか!?」


 腹を押さえて叫ぶ親衛隊を無視して、ルドがクラウディウスに訊ねる。


「この球体の起動の方法を、教えてください」


「だ、誰が教え……クッ」


 ルドが剣をクラウディウスの首に押し付けた。


「時間がありません」


 足元の転移魔法陣が強く輝き出す。魔法陣の上にいる人間の魔力を吸って発動しかけているのだ。

 ルドが左手を球体に向け、魔法を詠唱した。


『風の精よ、我が元へ運べ』


 球体がふわりと浮かび、ルドの足下に転がる。

 親衛隊の男が顔を青くして叫んだ。


「やややっやめっやめろ! すぐに戻せ! 魔法陣が吸っている魔力に反応している! このままだと威力は多少落ちるが、爆発してしまう!」


「起動方法は?」


「こんな所で爆発させたら、皇子がっ……」


 ルドが殺気を放つ。


「ここで爆発させますか? それとも素直に教えますか?」


 親衛隊の男がゴクリと唾を飲む。その様子にクラウディウスが一喝した。


「話すな!」


「では、爆発するまで、ここにいましょう」


 ルドの開き直りともとれる落ち着いた様子に、親衛隊の男が唇を噛む。琥珀の瞳に焦りや恐れはない。本当に爆発するまで動かないだろう。

 親衛隊の男は覚悟を決めると、悔しそうに訊ねた。


「起動方法を教えたらクラウディウス様を解放するか?」


「はい」


「やめっ!」


 叫びかけたクラウディウスの首に薄い赤い線が浮かぶ。突きつけられた剣がうっすらと皮膚に切り込んでいる。

 これ以上、ルドを刺激してはいけないと判断した親衛隊は、落ち着いた声で説明を始めた。


「わかった、教える。だから、それ以上剣を動かすな」


「早く説明してください」


「強大な魔力を一気に注入するんだ。ここにいる魔法騎士団の半分ぐらいの魔力だ。そうすれば、すぐに爆発する」


「この球体はどこに飛ばす予定でしたか?」


「シェットランド領の中心地だ。魔力を注入すると同時に転移させ、爆発させる予定だった。もう、いいだろ!」


「はい」


 ルドがクラウディウスを親衛隊の男に向けて突き飛ばす。親衛隊の男が倒れかけたクラウディウスを支えて顔を上げた。すると、ルドが球体を抱えている姿があった。


「近づかないでください。近づいたら、即爆発させます」


 親衛隊に支えられたクラウディウスが叫ぶ。


「いくら魔力が強いからといって、貴様一人の魔力で爆発させられるわけなかろう! 自惚れるな!」


「本当にそう思いますか?」


 ルドの堂々と自信に溢れた態度に、クラウディウスが歯ぎしりをする。

 クラウディウスはルドの魔力量を測りかねていた。普通の人間なら魔力を搾り取っても起動させることは不可能だ。だが、ルドの場合は別だ。魔力量が大きすぎて底がみえない。


 ダーチェが落ち着いた様子でルドに声をかけた。


「どうするつもりだ?」


 ルドが軽く笑って答えを誤魔化す。


「そこにいたら、シェットランド領へ飛ばされてしまいますよ」


「ルドヴィクス!」


 ルドは答えることなく、球体を小脇に抱えたまま、馬車を引いていた馬に近づいた。そして、剣で馬車と馬を繋いでいる器具を斬り、馬具が付いていない馬に、慣れた様子でルドは跨った。


「この球体を処理してきます」


 そう言うと、ルドは小屋へと馬を走らせた。




 枯草の草原を走っていたイディは腰の剣を抜くと、そのままドアを斬り壊して、体当たりをするように小屋の中へ飛び込んだ。


 小屋の中では、走って来るイディの姿を見ていたアウルスたちが、抜刀してかまえていた。


「何者だ!?」


 敵意と警戒心が集まる中、イディが剣を収めた。予想外の行動にアウルスたちが唖然としながらも、警戒を強める。

 だが、イディは気にした様子なく平然と言った。


「全員出ろ」


「は?」


「ここは爆発する。死にたいなら残れ」


「何を言っ……!?」


 アウルスの言葉の途中だったが、イディは姿勢を低くすると力強く地面を蹴った。

 イディが一瞬でアウルスの懐に入る。気が付いたアウルスが避けるより早く、イディは鳩尾を肩で突き上げるように体当たりをした。

 あまりにも速いイディの動きに対処が遅れたアウルスは、もろに攻撃をくらった。


「ヴッ!?」


 激痛とともに足が地面から浮かぶ。イディはアウルスが動く前に、肩に担いだまま小屋から出ていった。


「隊長!?」


 アウルスを追って他の隊員が小屋から出て離れていく。そこに入れ代わるように、ルドが小屋の前に到着した。


「ルド!?」


 引き返そうとした隊員にルドが叫んだ。


「こいつを爆発させます! できるだけ遠くに逃げてください!」


 ルドがしようとしていることに気づいたアウルスが、担がれたまま叫ぶ。


「小屋の中だと魔力が吸収されて、そいつを爆発させることは出来ないぞ!」


「ですから、外で球体に魔力を注いで、爆発する寸前で小屋の中に入れます」


「なっ!? 爆発した魔力を魔法陣が全て吸いきれるとは、限らないんだぞ! 無謀だ! おまえも爆発に巻き込まれる!」


 忠告するアウルスの声を聞きながら、ルドは馬から降りた。馬の首を軽く叩いて、馬を逃がす。

 走り去る馬と魔法騎士団を見送ったルドは抱えている球体に視線を落とした。


「許可はないが……一瞬で大量の魔力を注入するには、この方法しか浮かばないからな」


 ルドが球体を置いて両手を合わせる。


『全てを断ち斬る神の力を我が手に!』


 ルドがゆっくりと手を離すと、左手の掌から剣の柄が出てきた。それを右手で掴み、一気に引き抜く。すると、銀色に輝く剣が現れた。


 ルドが剣を持ったまま、球体を片手で持ち上げる。そして、手のひらに球体をのせると、そのまま軽く真上に投げた。

 高く空へと昇る球体を目で追いながら、迷いなく剣をかまえる。頂点まで登った球体が落下を始めた。落ちてくる球体に狙いを定める。絶対にここで外すわけには、いかない。


 柄を握る両手に力を入れて、呼吸を止める。


 狙いを研ぎ澄まし、眼前に来たところで剣を突き刺した。同時に魔力を注入しながら、勢いを殺すことなく小屋の中に突進する。


 ドォォォ…………ン…………


 爆発音とともに小屋が崩れ、見えない振動が周囲を襲った。


 オグウェノが全身を貫いた痛みに顔を歪めながら呟く。


「赤狼のヤロー……魔法陣が魔力を吸収できる量には限度があるんだぞ。吸収しきれなかった魔力がこっちにくることも考えろ」


 オグウェノが隣を見ると、クリスは真っ青な顔で崩れた小屋を見ていた。


「……」


 全身が震えており、言葉を出そうとするが声にならない。


「……うそ、だろ?」


 クリスがゆっくりと歩き出す。


「あれぐらいで……」


 少しずつ歩調が速くなる。


「くたばるわけが……」


 足がもつれながらも走り出す。


「ルド!」


 草原を駆け出したクリスの手をオグウェノが掴む。クリスが手を振り払おうと暴れる。


「放せ!」


「待て、待て。月姫の体力だと、あそこまで、たどり着けないだろ」


 オグウェノがひょいとクリスを抱える。


『筋力強化』


 オグウェノが足に力を入れて地面を蹴る。それだけで馬よりも早く進み、あっという間に小屋があった場所に到着した。


 オグウェノが下ろすより先に、クリスが自分から飛び降りる。何があったのか分からないほど粉々になった残骸と瓦礫の山。生き物の気配どころか、音さえもない。そこに乾いた風が埃を巻き上げる。


「まさ……か……」


 クリスは服の上から魔宝石を握りしめた。


あと少しなので、完結まで毎日投稿していきます

よければ最後までお付き合いください(*- -)(*_ _)ペコリ

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