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本当の目的

 騎士たちが驚愕して乱れる様子を、クリスたちは反対側の山脈の麓から望遠鏡で覗いていた。


「いい感じに驚いているな。部隊がバラける前に鳳凰に気づくよう、アンドレがうまく誘導したようだ」


 満足しているクリスの隣では、オグウェノが空を見上げて感心している。


「すごいな。龍と、鳳凰ってやつか? どうやって出したんだ?」


「あの高い建物の中で月からの情報の話をした時、何もないところに文字が浮かび上がっていただろ? あれと同じモノだ。映像というのだが、簡単に説明するなら幻だな。設置した器材を使って、全員が見える幻を出した。ただ、これは複数の器材が必要で、器材の設置場所が一つでもずれると出せない。あと、触れることもできない」


「触れないのかぁ……そういえば、どんな幻でも出せるのか?」


「そうだな。事前に準備していれば、になるが」


「便利だな」


 クリスが肩をすくめる。


「それでも知っている者からしたら、子ども騙しだ」


「そうだが、知らないヤツからしたら、大変なことだぞ」


 オグウェノがルドに視線を向けた。ルドが目が零れ落ちるのではないかというほど、見開いている。クリスの説明も耳に入っていないようだ。

 その姿にクリスが納得して頷く。


「こうなるな」


 そこに朝日が顔を出してきた。光が差し、風が吹く。徐々に霧が晴れていき、質素な小屋と枯草の草原が姿を表した。しかし、空では龍と鳳凰が悠然と泳ぎ続けている。


「で、ここからどうするんだ?」


「龍と鳳凰を騎士たちに近づけて、撤退するように説得する。その前に逃げだすかもしれないがな」


「楽な戦だ」


「とはいえ、二度は通じないし、その場しのぎだ」


「それで怪我人も出さずに撤退させられるなら、十分だろ」


「まあな。そろそろ次に……」


 クリスが合図を出そうとしたところで、魔法騎士団側に動きがあった。森の中から豪華な馬車が飛び出してきたのだ。

 それを追いかけるように、魔法騎士団も一斉にこちらに向かってくる。石や辛子の煙幕の罠があるが、馬車はものともせずに突進している。

 一方の魔法騎士団のほうは、罠によって脱落者がちらほら出ていた。


「なにが起きた?」


 こうなることも予測していたクリスは慌てることなくカリストに訊ねた。


「一部が暴走したようです。魔法騎士団は、それを止めるために追いかけています」


「暴走しているのは木箱を乗せている馬車の連中か。龍を馬車の前に移動させて制止するように言え」


「はい」


 カリストの指示で、上空を泳いでいた龍が馬車の前方に降りていく。

 しかし、龍が口を動かして声を出す前に、馬車の護衛をしている親衛隊が魔法で攻撃をしてきた。炎や氷の塊が龍に飛んできたが、全てすり抜ける。


 クリスは呆れたように腕を組んだ。


「あれはパニックになってるな」


 後方で見物していたカイが困り顔で歩いてくる。


「あれぐらいで取り乱すとは、なさけねぇなぁ」


 自暴自棄になった親衛隊が、どれだけの攻撃をしてくるか一切読めない。

 クリスはカイに意見を求めた。


「ここにいても大丈夫か? 一応、この付近には防護の魔法陣を敷いているから、ある程度の攻撃なら耐えられるが……念のために、撤退準備をした方がいいか?」


 カイが軽く首を横に振る。


「いや、その必要はない。ここに来るまでに、追ってきている魔法騎士団が止めるだろ……ん? なんだ、あれ?」


 馬車が小屋を通り抜けたところで急停車した。そして、馬車から大人が二人がかりで大きな木箱を出す。重いのか、それとも貴重な品なのか、急ぎながらも扱いは丁寧だ。


 親衛隊の男たちが木箱を慎重に地面に置く。すると、白金の騎士服を着た青年が馬車から出てきた。その容姿に、カイが持っていた望遠鏡を取り出して覗く。


「お、あれはクラウディウス第二皇子じゃないか。自らやって来るとは、さすが血気盛んで、戦でも前線に立つという、噂通りのヤツだな」


 クラウディウスが腰に下げている剣を抜き、木箱を叩き割った。中には大人が抱えるほどの大きさの球体がある。

 親衛隊の男が木箱の残骸から球体を取り出し、地面に置いた。すると、枯草の一部が輝きだし、球体を中心に魔法陣が展開される。そこに魔法騎士団が到着した。


 カイが望遠鏡を覗いて球体を確認する。


「あれは!? まさか、マジで作っていたのか!?」


 珍しく焦るカイの様子に、クリスに嫌な予感が走る。


「どうした?」


「あれは魔力を封じたもので、刺激を加えると爆発するようになっている。爆発の威力は込められた魔力の量で変わるが、最低でも町一つは消し飛ぶぐらいの力を秘めているはずだ」


「そんな武器があるなんて、聞いたことがないぞ」


「作るのに金がかかり過ぎるからって、机上の空論で終わっていたはずなんだ。まさか作っているとは……」


 オグウェノが首を傾げる。


「そんなもの、ここにあってもしょうがないだろ。あそこで爆発させても、あの小屋がなくなるぐらいだ」


「そうなんだが……」


 カイが望遠鏡を覗き、輝いている魔法陣に注目する。


「あれは……転移魔法陣!? そうか! ここから、アレを転移させて、その先で爆発させるのか!」


「だが、どこに転移を……まさか!?」


 転移先が分かったクリスとカイが顔を合わせる。カイが頷きながら言った。


「シェットランド領だ! ここならシェットランド領の中心地まで、直線距離では一番近い。最初にアレをシェットランド領の中心地に転移させてから爆発をさせるつもりだ。それで、混乱しているところに魔法騎士団を転移魔法で投入して、制圧するんだろう」


「だが、転移魔法にはかなりの魔力が必要になるぞ」


 カイが悔しそうに歯ぎしりをする。


「だから、魔力が強い魔法騎士団の騎士を集めたんだ! 半分は転移用に魔力を使って、残りはシェットランド領を制圧に行かせるために……クソ! 盲点だった!」


「止めなければ!」


 飛び出しかけたクリスをルドが止める。ルドはカイに訊ねた。


「あの丸いのはどういう刺激を与えたら爆発しますか?」


「わからん。魔力だったり、外部からの力だったり……製作者がどのように設定したか次第だ」


「それならクラウディウス第二皇子に聞けば、分かりますかね?」


「第二皇子なら知っているだろうな。どうするつもりだ?」


 ルドはカイの質問に答えずに頷いた。


「おい、どうするんだ?」


 不安そうなクリスにルドが笑いかける。


「力技は任せてください」


「いや、待っ……」


 クリスが止める間もなく、ルドは飛び出していった。すぐにオグウェノが振り返ってイディに命令する。


「おまえも行け!」


 イディが素早くルドを追いかけた。


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