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魔法騎士団団長ダーチェ視点

 斥候からの定時連絡が途絶えたことにより、魔法騎士団の本隊は移動速度を速めていた。街道を進む白い騎馬隊に、先を歩いていた人たちが慌てて道を開ける。


 緊迫した気配に包まれた隊列の中心には、豪華な馬車があった。どこの貴族のものかと人々が興味を向けるが、馬車を護るように並走する馬に騎乗している騎士に睨まれる。殺気がこもった視線に脅され、人々が顔を青くして俯く。

 ほとんどが魔法騎士団の白い騎士服を着ている中で、馬車の周囲にいる護衛だけが銅色の騎士服だった。


 先頭を進む魔法騎士団団長のダーチェは、馬車の中から不穏な気配を感じながらも、前方を警戒していた。


 帝都を出発して隣の領地に入ったところで、事前連絡もなく、白金の騎士服を着たクラウディウス第二皇子が合流してきた。皇族が連絡なしに合流するなど、普通ではあり得ない。そのことに部隊は動揺したが、団長はすぐに鎮めて移動を再開した。


 だが、通常外のことは、まだ続いた。


 いつもなら馬に跨り、先陣を走るクラウディウス第二皇子が、馬車に引っ込んだまま出て来ないのだ。馬車に乗り込み、荷物である木箱を自ら護っているのだという。


 異例尽くしの出陣だったが、それからは順調に進んでいた。


 しかし、目的地まであと少しというところで、斥候からの定時連絡が途絶えたという報告が上がった。


 ダーチェはすぐにクラウディウス第二皇子に報告し、先を急ぐことを進言した。優秀な人間を斥候に選んだだけに、何が起きているのか不安が強くなる。


 クラウディウス第二皇子から了解を得たダーチェは、最後尾に移動すると、後方の警護をしている副長に声をかけた。


「数人を連れて、この先で野営地を確保してくれ。明日は夜が明ける前に出発する」


「はっ!」


 副長が手を上げ、隊列を横から追い抜いていく。それだけで、副長の後に数人がついて馬を走らせた。


「なにが起きるのか……」


 何も起きないという選択肢は、ダーチェの中になかった。




 野営地で一晩を過ごした一団は、予定通り夜明け前に移動を開始した。


 木々に囲まれた暗い森の中で、ぼんやりと白い騎士服が浮かび上がる。目的地が近いからか、クラウディウス第二皇子と馬車を護衛している親衛隊たちも、今まで以上に緊迫している。


 空が白くなり、周囲が明るくなってきた頃。一団は森を抜けていた。


「ここか? 霧が出ているな」


 眼下にあるはずの草原が白い霧でおおわれている。まるで高い山から眼下に広がる雲海を見ているような光景だ。

 幻想的で綺麗なのだが、これでは周囲になにがあるか分からないし、攻撃に気付きにくい。


「霧が晴れるまで待機だ」


 ダーチェの判断に、親衛隊の男が反対する。


「我々の使命は一刻も早く、クラウディウス第二皇子を目的地へお連れすることだ。霧ごときで臆するとは、それでも魔法騎士団か?」


「私は一刻も早く安全・・に荷物を運ぶように、と承った。安全が確保できないのであれば、無理には進めない」


「この状況で、どこに危険がある?」


「斥候と連絡が取れない。この先で何かがあったのは間違いない」


「だが、この霧ならば敵も視界は塞がれている。動くなら、今だ」


「それはクラウディウス第二皇子のご意思か?」


 二人が睨み合っていると、聞いたことがない咆哮が微かに耳に触れた。対立していた二人が瞬時に背中を合わせて周囲を警戒する。そこに見廻りをしていた副長が走って来た。


「団長! 見たことがない生き物が!」


「どこだ!?」


「あそこです!」


 副長が霧の中を指さす。太く長い何かの影が、霧の中を悠然と泳ぐように動いている。


「あれは……なんだ?」


 見たことがない上に、影の大きさからして、かなりの巨体だ。それなのに、あれだけの速度で移動できるという動物は、見たことも聞いたこともない。


 ダーチェはすぐに指示を出した。


「すぐに戦闘態勢を取れ。第一部隊は前線に並べ。第二部隊は後方。第三部隊は支援にまわれ」


「はっ!」


 副長が馬に飛び乗って指示を出しに戻る。ダーチェは呆然としている親衛隊の男に訊ねた。


「これでも行くか?」


「い、いや。あの化け物を退治することが先だ。私は皇子の護衛に戻る!」


 親衛隊の男が足を絡ませながら慌てて下がる。ダーチェが影を観察している間に、部下たちは戦闘態勢になっていた。


「団長、いつでも出陣できます」


「よし」


 ダーチェが並んだ隊員たちの前に立って抜刀する。


「我々は誇り高き魔法騎士団だ! 相手が未知の生き物だろうと関係ない! とつげ……」


 ダーチェは剣を振り下ろそうとしたが、手を止めた。影が霧から顔を出し、そのまま一気に空へと飛び上がったのだ。


「なっ、なんだ!?」


 驚きまどう魔法騎士団を嘲笑うかのように、羽のない長い胴体をくねらせながら、悠然と空を泳いでいく。泳いだ後には虹が道のように続いている。


「ま、まさかっ!?」


「龍なのか!?」


「始祖の皇帝が誕生した時に現れた!?」


「聖獣の!?」


 それは、この国の者なら子どもでも知っている、寓話に出てくる龍だった。


 現実ではあり得ない光景に騎士たちに不安が広がる。


 少しの刺激でもバラバラになりそうな一団の雰囲気を敏感に察したダーチェが喝を入れる。


「かまえを解くな! これが皇帝誕生の時の龍とは限らん!」


 ダーチェの声に綻びかけた一団が引き締まる。ダーチェは空を泳ぐ龍を睨んだ。


「本物……なのか? だが、それにしては……」


 思案しているダーチェの耳に聞きなれない声が入って来た。


「きりのなかに、なにかいる!」


 空に向いていた全員の視線が、再び霧に集まる。そこには龍とは違う形だが、かなり大きな影が動いていた。


「あれは、なんだ?」


 ぼんやりしていた影が徐々にはっきりとしてくる。そして、霧を全身に絡めたまま炎をまとった巨大な鳥が現れた。


「なに?!」


「ほ、鳳凰だ!」


「帝国創生の!?」


「嘘だろ!?」


 炎の翼を優雅に羽ばたかせながら空を舞う鳥に視線が集中する。ゆったりと泳いでいる龍を邪魔することなく、鳳凰は金粉を振りまきながら風を切るように飛んでいく。


 この国は龍によって皇帝が誕生し、鳳凰に導かれて国ができたという神話があり、国旗にも龍と鳳凰が描かれている。


 神話の世界の生き物が目前に……


 全員が腰を抜かして呆然と見上げていた。

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