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カイの見解

 空を飛ぶ帆船の出現に人々が見上げている中、カリストとラミラが人混みをかき分けてカイの所に来た。


「クリス様は?」


 黒い瞳がカイに詰め寄る。カイは呆然と空を見上げているルドに視線を向けた。


「あー、ここだと騒がしいから場所を移動しよう」


 一同が歩き出すがルドは動かない。カイがルドの襟を掴んだ。


「行くぞ」


 カイが歩きだすと、ルドは無言のまま引きずられていった。




 すぐ近くにあった店に入ると、カイは珈琲を四つ注文して椅子に座った。


「あの、ここはどういうお店なのでしょうか?」


 ラミラが落ち着かない様子で店内を見回す。丸いテーブルと椅子があり、一見すると酒場のようだが、それよりは明るくオシャレな雰囲気だ。


 カイがメニュー表をカリストとラミラに渡す。


「カフェというお茶や軽食、デザートを提供する店だ。食べたいものがあったら注文しろ。おごるぞ」


 冷めた目でメニュー表を睨みながらカリストが言った。


「ケリーマ王国では庶民もお茶をする文化があるのですね」


「昼間は暑いからな。休憩もかねてお茶をする文化が発展している。あと国民のほとんどは字が読めるからメニュー表を読んで注文もできるんだ」


「はぁ……」


 ラミラがメニュー表をそっとテーブルに置く。隣ではカリストが冷気を放ち、反対側では生気を失ったルドが今にも椅子から崩れ落ちそうな姿勢で座っている。


 混沌とした状況にラミラが助けを求めるようにカイに視線を送る。カイは苦笑いをしながら言った。


「いやぁ、悪かった。どうもクリスは自分であいつらについて行っているようだ」


 カリストから冷気が吹き出す。


「いえ、クリス様は確かに目の前で攫われました」


 突き刺さってくる冷気にカイが顔を逸らしながら手で防御する。


「痛い、痛い。言い方が悪かった。最初は攫われたが、今は自分の意思でついて行ってるようだ。なにかあったらしい」


「なぜ、そう思うのですか?」


 カイがルドを指さす。


「まず、こいつを見て逃げた」


 全員がルドに注目するが、本人は動かない。琥珀の目は焦点が合わず、ぼんやりと天井を眺めている。


「それで、こんな不甲斐ない姿になったのですか」


「逃げた先がえらい男前さんの背中だったからな。ショックだったらしい」


 カリストが標的をルドに変更する。


「情けない。それでクリス様の真意を確かめずに呆然として、その間に逃げられたのですか?」


「いや、それが変わった魔法を使うヤツが現れてな。魔法を使ったヤツの話からだが、立つのも無理な状態になる魔法らしい」


「らしい?」


 黒い瞳が鋭くなる。カイがルドを指さした。


「こいつはなんとか立っていたんだ。ただ、攻撃するために出した炎は押しつぶされて消えていた」


「立てなく……押しつぶされ……圧力……いや、重力のほうが……そうか! 重力! それなら風の魔法を使わずに浮かびあがって帆船に乗り込んだのも説明がつきます」


 カリストが大きく頷く。一方のラミラは悩みながら首を傾げた。


「屋敷の書庫に重力というもののことが書いてある本がありましたような……確か、物が引っ張り合う力のことでしたよね?」


「お、よく勉強しているな。簡単に言うと、そういうことだ。ただ、普通は重力なんて知らないはずなんだがな」


「重力を知っていて、そこから魔法を作り出したのか、それとも偶然出来たのか……」


 カリストの呟きにカイが唸る。


「ケリーマ王国の王子の従者か……ケリーマ王国の王族は独特な文化で国を維持しているが、不明なところも多いからなぁ」


「独特な文化ですか?」


 ラミラが訊ねながらカイの前に置かれた珈琲のカップを自分のものと交換する。そして、珈琲のカップを持ち上げて匂いを嗅いだ後、なめるように少しだけ口をつけた。毒や薬が入っている様子はない。


 頷いたラミラを見てカリストも珈琲を飲む。カリストも頷いたところで、ようやくカイは珈琲を飲むことができた。ここまで確認してからでないと、勝手に口をつけたら怒られるのだ。


 以前、二人より先に飲み物に口をつけて、薬や毒が入っていたらどうするのだと、説教されたことを思い出しながらカイは説明した。


「ケリーマ王国の跡継ぎは能力性だ。王女の子の中で統治能力が高い者が後継者になる。ただ、その選抜方法は不明で、王女は滅多に人前に姿を現さない」


「王の子ではなく、王女の子なのですか?」


「普通は王の子が跡継ぎになる。それも男の場合がほとんどだ。だが、ケリーマ王国の場合は女が跡継ぎになることが多い。だから、統治しているのも王女のことが多い。過去には王が統治していたこともあったらしいが、ここ百年はそんな感じだ。そのためか、王女の子から後継者を選ぶ決まりになっているそうだ」


「はぁ……」


 男尊女卑の国や風習が多く、そんな世界しか見たことがないラミラには想像が出来なかった。


「まあ、シェットランド領と同じだと思えばいい」


「それは言い過ぎではありませんか? あのように統治された国があるとは思えません」


 断言したラミラにカイが苦笑する。


「それは褒められているのか?」


「存分に褒めています。シェットランド領のような国があれば、全ての人がその国に移住するでしょう」


「まったく同じというわけじゃないぞ。ただ考え方とか統治方法が似てるってだけだ」


「それだけでも、かなり違います。全ての人を人として扱う。それだけで……」


「おい。それ以上、力を入れるなよ。カップが割れる」


 ラミラがハッとしてカップから手を離す。


「失礼いたしました」


「で、これからどうしますか? 仮にクリス様がご自分でついて行っているとして、そのまま放置されるのですか?」


「いや、一応クリスから直接話を聞こうと思う。それと別件でも気になることがあるんだ」


「別件?」


 カイが珈琲を飲みながら呆然としているルドに訊ねた。


「クリスティを攫ったのはケリーマ王国の第四王子でいいんだよな?」


 ルドからの返事はない。ただの屍のようだ。

 代わりにカリストが答える。


「そのように聞いています」


「ケリーマ王国って代々女しか生まれてこないで有名なんだよな」


「では、王族を語る偽者だと?」


「その可能性もあるが……それより、繋がってこないか? シェットランド領と似た考え方と統治方法。女しか生まれない王族。そして滅多に姿を見せない王女」


「まさ、か……」


 丸くなった黒い瞳にカイがニヤリと笑う。


「気づいたか?」


「ありえるのですか?」


「かなり昔の記録になるが、空中庭園が落ちる少し前に月から流れ星が落ちて、それを回収に行った部隊がいたそうだ。ただ、その部隊が帰還した記録はない」


「可能性はありますね」


「オレとしては、それも確かめに行きたいんだが、いいか?」


「確認するまでもありません。私たちは、どこまでもあなた方に付き従うだけです」


「難儀な性格だな。で、コレはどうする?」


 カイが屍と化しているルドを突っつくが反応はない。


「このまま置いていきますか?」


「それでもいいが、重力の魔法を使うヤツに対抗できるのは、こいつぐらいだからなぁ」


「仕方ありませんね」


 カリストがどこからか縄を取り出してルドの体に巻き付けた。


「さ、行きましょう」


 全身に縄を巻かれてミノムシ状態となったルドはカリストに引きずられてカフェから出て行った。


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