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金獅子登場

 周囲を高い山に囲まれた中心に巨大な湖があった。山の雪解け水が溜まった湖は帝都の人々や、その周囲の畑を潤す水源となっており、枯れたことはない。


 夕日が山影に姿を隠し、暗くなってきているところでルドは湖に到着した。


 馬車から降りたカリストとルドをラミラが迎える。


「カイ様より、全ての判断は現場に任せる、とのことです」


 カリストが良い笑みを浮かべる。


「では遠慮なくクリス様をお迎えに行きましょう」


 ラミラがススッと下がり、ルドの隣に来る。


「キレていますね」


「はい」


 放出される冷気はだいぶん減ったが怒り混じりの不気味な気配は継続している。馬車の中で隣にいたルドはその気配をずっと浴びていたため、無駄に疲れていた。


 カリストがラミラに声をかける。


「いつ頃、来ますか?」


「日が沈む頃だそうです」


「では、そろそろ迎える準備をしましょう」


「わかりました」


 ラミラがメイド服のスカートの裾を上げて太ももに装着している黒い筒を外す。そして手首に装着している楕円形の物を取ると、黒い筒の中に入れた。そして湖の前に行くと片膝をついて、まっすぐ黒い筒を構える。


 ルドがラミラの邪魔をしないように小声でカリストに訊ねた。


「何をするのですか?」


「目印を撃ちます」


「目印?」


 プシュ、という軽い音とともに光の線が湖の上に伸びる。ラミラは立ち上がると数歩移動して再び片膝をついた。

 しかし次はすぐに撃たない。湖の上の光の線と黒い筒の角度を見比べながら平行になるようにしている。


 ラミラは静かに深呼吸をすると同じように撃った。


 薄暗くなった湖の上に二本の光の線が輝く。それは、まるで山から天へと続く光りの道のようでもあった。


 そこにラミラが黒い筒を真上に向けて上空に撃った。流れ星がまっすぐ空に帰っていくような光景に、ルドが見惚れていると、風が吹きつけてきた。


 今までと逆向きから吹いてきた風に違和感を覚えたルドがそちらの方を向く。


「なっ!?」


 見たことのない大きな何かが空からこちらに向かって来る。一番近いのは猛禽類が獲物を見つけて一直線に滑空している姿だが、大きさが桁違いだ。


 構えるルドをカリストが止める。


「絶対に攻撃しないで下さい」


「ですが……」


「絶対に、しないで下さい」


 暗闇より暗い黒い瞳が静かに忠告され、ルドは本能的に体を小さくした。


「は、はい」


 大きな何かは盛大に水しぶきを上げながら湖を滑り、三人の前で止まった。


 猛禽類でいう胴体の部分にあるドアが開く。反射的に構えたルドの頭をカリストが叩き、そのまま前に出た。


「わざわざ先代領主自ら操縦しなくても、他の者で良かったと思いますが」


「クリスティが攫われたんだろ? 暴走したお前をラミラが止めるのは、ちぃーと荷が重いと思ってな」


「そう言って、久しぶりに外に出たかっただけではないのですか?」


「そうとも言う!」


 豪快に頷きながら三人の前に現れたのは快活な老人だった。長い白髪を後ろで一つに纏め、シワに囲まれた深緑の瞳が楽しそうに輝いている。姿勢や動きは良く、外見の年齢とは合わない。


 ルドはその姿を確認すると同時に敬礼をしていた。


「お久しぶりです! カイ殿!」


 かつて近隣諸国との戦で窮地だった国を救い、豪傑のカイと名を轟かせた英雄的な存在である。今は白髪になったが、若い頃は獅子のような金髪だったため、金獅子という二つ名までついた。

 ルドとは以前、一度だけ顔を合わせているが、その時は会話らしい会話もなく自己紹介だけで終わった。


 カイがニヤリと笑う。


「おう、ガスパルの孫! 久しぶりだな」


「はい!」


「あぁ、もう手は下げろ。あいつに似て真面目だな」


「はい!」


 手を下げても姿勢を正したまま固まっているルドにカイが近づく。


「オレはお前の上官でも何でもないんだ。楽にしろ」


「は、はい」


 そうはいっても力が抜けない。そんなルドの額をカイが小突く。


「今、そんなに力を入れていたらクリスティを助ける時に力が残ってないぞ」


「すみません……」


「謝るほどのことじゃねぇよ」


「いえ、そうではなく……目の前で師匠を連れ去られてしまい……」


「それか。その時のことをもう少し詳しく聞きたいんだが……」


 カイがカリストに視線を向ける。


「それは移動しながら話します。先に目的地を絞りましょう」


 カリストが影から机と地図とランプを取り出す。


「なんで、そんな重い物が!?」


 収納魔法は、大きさは関係なく収納できるが重さは持つ人にかかってくるのが普通だ。だがカリストの動きでは、とても机の重さがかかっているようには見えなかった。


 驚いているルドにカリストが説明する。


「私の影は大きさや重さは関係なく収納できます。で、本題ですが……アンドレ」


 背後の木々が揺れて頭から布を被った小さな人が現れる。


「どうでした?」


 アンドレが机に近づき地図の上に指を置く。


「こっち、いった。あすのあさ、ここらへん、いるとおもう」


 そう言って帝都から南東の方へ指を動かし、海を越えて砂漠の真ん中で止めた。


「なかなかの速度で移動していますね。そこまで行かれると面倒ですから、その前に見つけて……いえ、この際ですから先回りして……」


「先回りって、明日の朝にはケマーリ王国の砂漠にいるんですよ? たとえクルマを使っても追いつけませんよ!」


 カリストが横目でルドを見る。


「クルマより速い乗り物があるとしたら、どうします?」


「え?」


 ルドの背中に悪寒が走る。


「クルマは道がないと移動できませんが、その乗り物は道も海も関係ないとしたら?」


「海も……関係ない?」


「そうです」


 ルドが恐る恐るカイが乗って来た物に視線を向ける。


「まさか……」


「その、まさかです」


「シェットランド領から一日で帝都まで来たというのも……」


 カイが胸を張る。


「これなら一日どころか半日あれば来れるぞ」


「なんで、そんな物がシェットランド領にあるんですか!?」


 自分の常識からかけ離れた物の存在にルドが崩れ落ちる。そんなルドの背中をカイが叩いた。


「まあ、まあ。細かいことは気にするな」


「細かくありません! それに乗らないといけないと考えると……」


 初めてクルマに乗った時の恐怖がよみがえる。


「問題にするのは、そこか。クリスティを助けに行かないなら乗らなくてもいいぞ」


「乗ります」


 スクッと立ち上がったルドにカイが笑う。


「なら、グダグダ言うな。で、行き先なんだが、ちょっと気になることがある」


 カリストが地図から顔を上げる。


「どうされました?」


「報告だと、クリスティを連れ去ったのは結構な大きさの船だったらしいな」


「はい」


「それだけの大きさだと朝までの連続移動は難しいと思う。たぶん途中で魔力が切れるはずだ」


 カイの言葉にカリストが頷く。


「確かに帆船の形をしていました。気流や流動学など一切考えていない造りですから、魔力効率は悪いですね」


「気流? 流動学?」


 首を傾げるルドを無視してカリストが話しを続ける。


「どこかで魔力を補充するか、乗り物を変える可能性がありますね。ですが、あれだけの大きさの物ですから、どこに行っても目立ちます。それなら上空からでも見つけやすいでしょう」


「それはどうかな?」


「え?」


「木を隠すなら森の中って言う昔の言葉もある。まずは、ここに向かうぞ」


 カイは地図の一点を指さした。


金獅子様の若い頃については

「金獅子様は平凡な恋がしたい」

https://syosetu.com/usernovelmanage/top/ncode/1215355/

に出てきてます(* ̄∇ ̄)ノ

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