第1章 霊界トランペッターここに誕生
僕は今日、全国高校生音楽祭の会場で、鮮やかなスポットライトを浴び
観客席からの歓声の嵐に揉まれ、拍手の雨にうたれて
そして最後には僕の好きなバラの花束を受け取る……
はずだった。
そう、「はずだった」
僕は小波 奏今年で18歳だ。
吹奏楽部でトランペットを吹いている。
今日の音楽祭は17歳の最後の本番だ。
本番は午後の18時、僕はチラチラと雪の降る中
会場のホールに向かって、そして……
なんだここは、真っ暗じゃないか。
一面に広がるのはただ闇、真っ暗な闇、静寂。
スポットライトも観客席からの歓声も花束の赤も
この空間には存在しなかった。
僕は今どこに居るのかさえ見当がつかなかった 。
いや、見当をつけたくなかった。
と言うのも僕はいつか読んだ本の内容を思い出したからだ。
『人はその一生を終えるとあの世に行くと思われていますがそうではありません。真っ暗闇の中にぽつんと一人で立っているような感覚に陥るのです。これはある人物の体験談を元に作られた仮説ですが………』
そうだ、興味本位で立ち読みした本に書いてあったんだ『人は死ぬと真っ暗闇の中に立つ』つまり今の僕だ。
「僕は、死んでしまったのか……」
僕は静寂に包まれた闇の中に独り言を言った。
誰も聞いていないのに。
「兄さん大変やなぁこんな若いのに」
誰もいない、はずだった。
いや、さっきまでいなかった。
「お、兄さんやっと気がついたわ〜もう気が付かんかったらどないしよー思っててん」
気がつくと周りはぼんやりと明るくなっていた。
前には何か影が見える。どうやらその影が喋っているようだ。
「兄さん聞こえとる?うーん死後酔いが醒めてへんなぁ。おーい」
徐々に感覚が戻ってきた。
「は…い聞こえてます」
僕はまだ意識のはっきりしないままその声に応えた。
自然に敬語になるのは僕の直感というやつだ。
「おー!おはようさん!ウチのこと見える?」
その声の主は着物を着た同い年くらいの女子だった。ある一つの点を除けばいたって普通だった。
「ツノですか?」思わずそんな言葉が出てしまった。
「せやせや、どう?立派やろ〜こんな綺麗なツノ滅多にお目にかかられへんで」
そう言う彼女はどこか誇らしげだ。
確かに彼女のツノは艶があり形も整っている。
「ここはどこなんですか?そしてあなたは一体…」
「まぁ聞きたいことは山ほどあるやろ?」
僕が話し終わる前に彼女が口を開いた。
「まず簡単に兄さんの状態から説明するんやけど、兄さんは事故にあって今この世界、兄さんの世界で言うあの世にいるんよ」
どうやら本で言っていたあの世というのは偽物らしい。
「で、今の兄さんは事故のショックとかこの世界に来るときの歪みで死後酔いって状態になってるんよ。もうそろそろ大丈夫ちゃう?」
確かに彼女の言う通りいつの間にか完全に意識は戻っている。
畳にふすま、障子越しにはぼんやりと灯りが見える。
「で、ウチはこの世界で今年霊界長になった『御霊 鬼呼』って言うねん。キーコって呼んでな!これからよろしゅう」
「よろしくお願い…っていきなりそんなこと言われてもまだ全然理解できないですよ!」
「まぁまぁ、これからゆっくり一緒に慣れていこ」
そう言ってはにかんだ笑顔を見せる彼女を僕は不覚にもかわいく思ってしまった。
そして……「これからよろしくお願いします!」
言ってしまった、これから何が起こるかわからないのに返事をしてしまった。
「素直でけっこうけっこう!じゃあ今からウチが兄さんに何して欲しいか伝えるわ〜」
やっぱり何か頼まれるのか、『魂くれ〜』とかだったらどうしよう……
「兄さん、いまウチに魂取られたらどうしようと考えとるやろ。大丈夫、ウチが兄さんに頼みたいのはこの世界に活気を与えて欲しいってことやねん」
「僕が、この世界に活気を?」
「そうそう、兄さん“とらんぺっと”って言うの吹けるんやろ?この世界に音楽で、兄さんのとらんぺっとで活気を与えてくれへんやろか?」
僕のトランペットを彼女は必要にしてくれている。
僕のトランペットでこの世界に活気を与えられる。
そうだとしたのなら僕の答えは一つしかない。
「よろこんで引き受けます!任せてください!」
「ほんまに?ありがとう!じゃあ改めてこれからよろしゅうな!あと、敬語じゃなくてええよ」
「分かった、改めてよろしくキーコさん」
「さん付けじゃなくてええのに〜」
そう言って彼女はまた笑顔を見せた。
どうやら僕はまだ彼女に緊張しているらしい。
その証拠に顔が熱い。
そうして僕は霊界トランペッターとしての新しい生活の始まりを迎えた。
初めまして!ライトノベルを書くことに憧れて
今回初の投稿です。
さて、本当の
霊界はどんなところなんでしょうね。
これから奏とキーコはどんな霊界ライフを送っていくんでしょうか……
投稿は毎週日曜に行うつもりです
応援、アドバイスよろしくお願いします!
なぜ奏が選ばれたのか
活気がない理由
そのほかの様々な謎は後々書いていきます!
お待ちください