99 釣り大会
100話にリーチがかかりました。今回の話も肩の力を抜いてお読みください。せっかく観光地にやって来て、何もしないで旅立つのは野暮というものです。彼らも時には息抜きをしたいのです。
ブックマークありがとうございました。
翌朝、朝食のために食堂に集まる一行。圭子は春名の微妙な変化に気が付いているが、自分も脛に傷のある身なのであれこれ詮索や追及はしなかった。さもないとドサクサ紛れに誤魔化した自分の問題が話題に上りかねないためだ。こういう所の保身に関しては圭子は実に長けている。
「ところで今日はどうする?」
彼女は話題を率先してふる。そのタイミングは春名がまさに口を開こうとした直前だった。彼女なら自分から言い出しかねないので先に手を打った次第だ。
「たぶんここにはシステムは無いと思うが一応は調べておこう」
タクミも圭子のふりに乗っかった。あれこれ詮索されるのは精神衛生上好ましくない。いや寧ろ絶対に避けたいところだ。二人の思惑がうまく噛み合ったおかげで、話題はすっかり別の方向に移った。
「もしかしたら湖の底とかに隠されているかもしれない」
美智香が突拍子も無い事を言い出す。実は彼女は綺麗な湖だったので見て回りたいだけだった。
「私も湖に興味があります」
美智香の意見に紀絵が賛同する。普段余り自分の意見を口にすることが少ない彼女にしては珍しい事だった。実は彼女は趣味が釣りで、魚がいると聞いていてもたってもいられない気分だった。
「それじゃあ朝食が終わったら一番に湖に行ってみようか」
圭子の言葉で本日の行動が決定する。意見を言わなかったメンバーは素直にその方針に従うのだった。これはいつもの事でこのパーティーは意見を言った者勝ちという暗黙のルールが存在する。もっともこの特権を所持しているのは女子だけで、タクミはいくら意見を言っても無視されるのがオチなので、とっくに自分の考えを表明するのは諦めているのだった。今から完全に尻に敷かれていては行く末が思いやられる。
宿から湖の畔までは歩いて10分も掛からなかった。朝日に煌くその美しさは心が洗われるようで、思わず息を呑みたくなる。ここが観光地になるのも頷ける理由がそのどこまでも透明で神秘的な湖水にある。目を凝らさなくても底まで透き通るように見えるその水は、この世界の自然が作り出した宝石のようだった。
全員がその美しさに見蕩れている中で、一人だけ別の事に注目している者が居る。紀絵はその透明な水を泳ぐ魚の群れに完全に意識を奪われていた。
「あのー・・・・・・船を借りて湖の中に行ってみるのはどうでしょう?」
彼女は恐る恐る提案すると、意外にも女子全員があっさりと賛同する。
「それはいいわね。沖から見る洞窟の景色なんかも綺麗かもしれないし」
圭子は完全に観光気分だ。ここに何をしに立ち寄ったのかをすっかり忘れている。彼女の指令でタクミは近くに船を停めている漁師に交渉役として派遣される。こういう雑用もこなさないとならない。男とは辛い物だ。心の救いは岬が一緒に付いてきてくれる事だ。彼女は決してタクミを裏切らないし、どこまでも忠実に付いて来る。
金貨2枚で全員が乗れる船を借りる事に成功したタクミは、手招きで女子たちを呼び寄せる。いつの間にか紀絵は全員分の釣竿を借りていて、各自に手渡している最中だ。釣り好きはせっかちで行動が早すぎる。
「紀絵ちゃんが釣竿を借りてくれたから今から釣り大会ね! 誰が一番大物を釣り上げるか競争よ!」
圭子は何でも競い合うのが好きだ。テストの点数以外は・・・・・・
船に乗り込み沖に出る一行、漁師に頼んで魚の居そうなポイントに案内してもらう。そこは岸から100メートルほど船を漕ぎ出した所で、魚が集まるよいポイントだそうだ。
早速釣り糸を垂れてみる。紀絵と圭子以外は釣りをしたことがなくて餌の付け方も分からなかったが、そこは釣りガールの出番だ。紀絵が餌を付けて回る。
早速春名に当たりが来た。釣りが初めての彼女はどうしたらよいのか分からず慌てている。
「こ、これは一体どうしたらいいんですか? お魚が掛かっています!」
彼女の口調自体がノンビリとしているので周囲にはそうは聞こえないが、本人はかなりテンパッていた。そこへ紀絵がやって来て、春名の竿に手を添えて引き上げる。
釣り上げたのは15センチくらいの魚で塩焼きにすると美味しそうだ。
「やりました! 初めてお魚を釣りました」
春名は昨夜の初体験に次いで、本日も初の体験をしていた。その声はいつに無く弾んでいる。
その後も女子たちの竿に次々と当たりが来て、彼女たちは面白そうにしている。特に春名は誰よりもたくさん釣り上げて満面の笑みだ。
だが、一人だけその竿がピクリともしない者が居る。春名の隣で糸を垂らしているタクミだ。近くにやって来る魚を全部春名に持っていかれているのか、彼は1時間以上当たりの一つも無い。昨夜違う竿で暴れまわった天罰だろうか?
憮然とした表情のタクミを尻目に無事に釣り大会は終了した。さすが釣りガールだけの事はあって、紀絵が一番の大物を釣り上げて優勝したが、数では春名が圧倒していた。ただ紀絵は純粋に久しぶりの釣りを楽しめただけで心から満足している。その笑顔からみると、どうやら本当に釣りを愛しているらしい。
「これはもしかして令嬢の幸運値のなせる業?」
空が春名の水桶を眺めて驚きの声を上げる。彼女は余りにたくさん釣り過ぎて水桶を3つも用意してもらっていた。
そして空は春名の隣に居るタクミの釣果を見て可哀想な者を見る目で肩をポンと叩く。彼の本日の成積はメダカよりもほんの少し大きな魚が1匹だけだった。空に同情されてガックリと肩を落とすタクミ、このショックは当分尾を引きそうだ。
「それじゃあ戻るぞ!」
漁師が船を操って岸まで戻る。その操船振りは長年漁師をやっているだけのことはあって見事なものだ。寸分違わぬ位置にピタリと停泊する。
時間は昼を少し回った頃合いで全員丁度お腹も空いている事もあって、岸辺でバーベキューを開始する。岬が収納から必要な道具一式を取り出して、あっという間に炭に火を起こし、釣ったばかりの魚に肉や野菜を準備する。どこまで有能なメイドなんだと感心する一同。
屋外での食事は慣れてはいるが、今日はなんだかいつもよりも美味しい気がして皆がお腹いっぱいになるまでバーベキューを堪能した。特に釣ったばかりの魚の塩焼きは最高で、水が綺麗なためか淡水魚独特の臭みも無く、久しぶりに心行くまで魚の味を噛み締めた。
残念ながらシロは魚よりも肉派だったが、ファフニールはどうやら魚もOKなようで喜んで食べていた。一体ドラゴンの本当の生態というのはどうなっているのだろう? と皆の頭に疑問が生まれる。
美しい景色と美味しい食事でリフレッシュした一行は、早めに宿に戻って明日からの旅に備えて準備をする。調査を口実にしたお楽しみの時間はこれでお終いで、明日からは再び殺伐とした日常に戻らなければならないのだ。
翌朝、馬車に乗り込み洞窟の街を出発する一行。向かうは魔女狩りの嵐が吹き荒れるアルストラ王国だ。この街からひたすら西へ向かい順調にいけば10日間程でその入り口に到着するはずだ。
ギルドマスターに話によると、途中の国は平穏で特に困難な点は見当たらないそうだ。目的地に向けて気を引き締めて馬車を進める一行だった。
次の投稿は記念の100話目になります。とは言っても特に何かする余裕がありませんので、いつも通り普通に投稿します。引き続き、感想、評価、ブックマークお待ちしています。次の投稿は火曜日を予定しています。




