96 思いがけない出迎え
お待たせいたしました。伯爵の屋敷に戻ったタクミたちを待っていたのは・・・・・・
「ところでタクミはさっき例の事件を理由にしていたけど、本当のところはどうなのよ?」
勇者たちの宿舎から伯爵邸に戻る道を歩きながら圭子が切り出す。彼女は比佐斗の無神経振りに飽きれて1発スッキリするやつをお見舞いしていたので、気分は上々に戻っている。その彼女が一体何を思ってこんな事を切り出すのかと周囲は不思議そうに注目する。
「本当のところとはどういう事だ?」
タクミも彼女が何を言いたいのか今一つピンと来ていないようでその意図を聞き返す。
「そりゃぁ、本来の目的のカムフラージュには丁度いい理由だからよ!」
脳筋の割には変な所に鋭いのが圭子の特徴だ。勇者からの申し出を断るに当たって、タクミたちの目的を明かす事無く断るにはこれ程打って付けの理由は存在しない。
「PMI装置の件を明かす気は無かったが、春名と紀絵の安全を一番に考えたのは事実だ。それに王宮であれだけの大騒ぎを仕出かしたんだから今更戻れるわけ無いだろう。付け加えて言うと王太子の顔がどこの誰だか分からなくなるまでボコボコに殴ったのは圭子だからな」
「そんな事も有ったような気がするわ」
遠い目をしてかつての出来事を思い出す圭子に対して、紀絵は『一番に考えた』という部分をどうやら自分に都合よく聞き違いしたようで一人で勝手に舞い上がっている。その顔は見る見る真っ赤に染まり人が行き交う路上という事も忘れて身悶えし始めた。
対してもう一人の当事者の春名は『タクミが自分を守るのは当然!』といった表情で平常運転だ。さすが周囲に守られるのが当たり前の令嬢だけの事は有る。その厚かましさは本来の5割増し以上になっていそうだ。
そんな話をしながら伯爵邸の門が見えてきた所まで一行がやって来ると、邸内から小さな影が飛び出してくる。
「お姉ちゃん!!」
その影は圭子を見つけてチョコチョコと走って彼女の胸に飛びついた。
「アミー! 街に来ていたの?!」
圭子はその小さな体を受け止めながら、森の集落で別れて以来の再会に目を細めている。アミーは十分に圭子に甘えてから次にシロの前にしゃがみ込んで犬神様への挨拶をする。だが、その目は新たな驚きに包まれる。
「犬神様の背中に龍神様が乗ってる!!」
目をまん丸にしてファフニールを見つめるその小さな瞳、だが小さいながらも彼女は敬うべき存在をしっかりと弁えていた。
「龍神様、はじめまして。会えてとっても嬉しいです」
アミーの挨拶に反応したファフニールが羽ばたいて彼女の頭に飛び移る。その微笑ましい光景に一同もつい表情が緩む。幼い猫人と生まれたてのドラゴンが戯れている光景など、異世界でないと絶対にお目に掛かれない。
さらにダメ押しでシロがアミーに近づいて顔をペロペロと舐めだす。当然頭がいいシロはアミーの事をしっかりと覚えており、彼女への好意を示していた。
2体のこの世界でも大変貴重な霊獣に囲まれて嬉しさいっぱいのアミーだが、そこへ春名の声が掛かる。
「シロちゃんもファーちゃんもアミーがびっくりしているからそのくらいにしておいてね。こんな道の真ん中ではお話も出来ないからお屋敷に入りましょう」
シロがアミ-から離れてファフニールは再びその背中に飛び移る。移動の時はそこが定位置になっているのだ。
それにしても2体はタクミの言う事には知らん顔なのに女子の言う事を本当によく聞く。特に春名は飼い主として登録されているので何だかんだ言っても一番に慕われているのだった。なぜかこんなところでも疎外感を味わうタクミだった。
屋敷の玄関先に例のミスター執事が待ち受けている。門番からの連絡を受けたのだろうがその先回りした行動は有能過ぎる。
「お帰りをお待ちしておりました。伯爵様が報告をお聞きしたいとの事ですのでこちらにお願いいたします」
例によってタクミ一人が応接室に案内されて、女子たちはアミ-とともに『キャッキャ』と騒ぎながら離れに消えていった。どうやらアミーたちも伯爵の客人として離れに滞在しているらしい。
応接室では伯爵がソファーに腰を下ろして今か今かとタクミたちの帰りを待っていた。ダンジョンの守衛から無事に帰還したとの報告を受けて仕事が手に付かずにソワソワするせいで、執事の方針ですぐに報告をする手筈が整えられていたのだ。
「ずいぶん早かったな、よく任務を果たして帰ってきた」
笑顔で握手を求める伯爵に応えながらタクミはすぐにダンジョンの出来事を話し始める。執事の目が一刻も早く話をしろと強い光を放っている影響が大だ。
「そうか、また魔族が関わっていたのか。それにしてもこの短い期間で本当によくやってくれた。感謝する」
タクミたちは伯爵の予想外のたった2日間でダンジョンの30階層から勇者一行を救い出して来たのだ。短期間で終わらせるためにタクミのパワードスーツの能力を全開にした結果で、一般の冒険者から見れば奇跡に映る様な救出だった。王宮からなんとしても助け出せと厳命されていただけに、ホッとしている伯爵の態度も頷ける。
一通りダンジョンの顛末が終わり今度はタクミから話を切り出す。
「獣人たちが来ているみたいだがどうしたんだ?」
門の前でアミーを見掛けたが、当然幼い彼女が遠く離れた森からここまで一人で遣って来る訳が無い。
「ああ、彼らは交易と助けてもらった礼をしにわざわざここまで遣って来たんだ」
伯爵の話によれば、獣人たちは森の産物やエルフとの交易品などを馬車4台に積み込んで来たそうだ。猫人族の他に狼人族や熊人族が護衛と荷物の積み下ろし役で7、8人一緒に来ている。腕っ節の強い彼らがそれだけいれば道中の安全は保障されたも同然で、数回魔物に出会っただけで無事に着いたそうだ。
「律儀な連中でな。俺の所にエルフの霊薬と蜂蜜酒を献上してくれたよ。ああ、そういえばエルフも一人来ていたな」
エルフが作り出す霊薬は様々な森の薬草を配合して長い時間をかけて作られた万病に効果がある貴重な薬だ。同様に蜂蜜酒は森の熊人が集めた蜂蜜を発酵させて作られる特に貴族の女性に人気のある品で、元々の量が少ないのでこれもまた貴重品だ。
彼らは今回の収益で森で酷使していた馬車の修繕と新たな馬車の購入を予定しているらしく、希望の金額よりもかなり高く売れたのでその他に街にしかない物までたくさん購入して戻れるそうだ。
まだダンジョンの話を聞きたそうにしている伯爵だがミスター執事の『そろそろお仕事に戻られるお時間です』の言葉に後ろ髪を引かれる思いで仕事に戻る。
それに合わせてタクミも離れに戻ると離れの使用人の案内で、女子たちの部屋に通される。そこには彼女たちだけでなくアミーとその父親ともう一人見覚えの有る人物が待っていた。
「この前は大変お世話になりました」
丁寧に頭を下げるのはエルフの森で助けたあのサラナだった。彼女は獣人が街まで交易に行く話しを聞き付けて長老の許可を得てタクミたちに礼を言いにわざわざ来てくれていた。
「頭を上げてくれ。俺たちが勝手に色々やって逆に迷惑をかけていないか気にしていたんだ」
タクミもその後のエルフの集落がどうなったか気になっていたので、話しを聞く事が出来て都合がよかった。それにしても森の住民たちは恩を忘れないその義理堅さに感心してしまう。
その横では楽しげに話をしていたアミーが突然何かを思い出したようで、チョコチョコとタンスに駆け寄って背伸びをして引き出しを開けている。そこから取り出したのは森に住む極楽鳥のような鮮やかな鳥の羽で作った髪飾りだった。
「お姉ちゃんたちに私からのプレゼント! 魔物に教われないお守りだよ! お母さんに教えてもらって私が作ったの」
感謝の気持ちを込めて作ったその素敵な髪飾りを女子たちに一人ずつ手渡すアミー、その幼い手が一生懸命に作った髪飾りを受け取り女子たちは早速自分の髪に付け出す。
「アミー、ありがとうね。ずっと大事にするからね」
代表して圭子からお礼の言葉を受け取り大満足のアミーだが、一つだけ忘れていた事を伝えるためにタクミの前にやって来る。
「えーと・・・・・・お兄ちゃんの分はすっかり忘れていたから私の笑顔で我慢してね!」
本日何度目かのダメ押しの疎外感を味わうタクミだった。
読んでいただきありがとうございました。次回は次の目的地へ話が移りそうです。一体どんな所になるかどうぞお楽しみに。
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