92 勇者の苦戦
今回は勇者たちパーティーが登場します。彼らは一体どんな事態に巻き込まれたのか・・・・・・
「一体どうなっているんだ? こんなに魔物が次々に湧き出すなんて有り得ないぞ!」
勇者の称号を持つ本郷 比佐斗は愛剣を必死で振るいながら目の前のブラックリザードを切り捨てる。目の前に5体10体まとめて出現する魔物たちに手を焼いていた。
「そんな事を言っている暇があったら、一体でも多く片付けて!」
必死にアイスアローを飛ばして次から次に襲い掛かってくる魔物を蹴散らしながら、柳 風子が彼を叱咤している。彼女は『大魔法師』の称号を持つ魔法のスペシャリストだ。
ここはラフィーヌのダンジョン30階層で、ダンジョン攻略を目指しながら進んでいた勇者のパーティーは31階層まで進んだところでこの異常な魔物の数にこれ以上先に進むのを諦めて、撤収のために上の階を目指していた。
「それにしても絶対におかしいぞ。さっきまではこの階層はこんなに魔物が沸いていなかったはずだ」
比佐斗の横で同じように剣を振るってオークジェネラルに斬り付けているのは、比佐斗といつも行動をともにしている大倉 芳樹だ。
彼の言う通り31階層で異常を感じて慌てて上の階に引き返したら、そこも絶望的な数の魔物の群れが広がっていた。通って来た時は全く異常は無かったのに、一体何が起きているのか考える暇もないくらいに次々と襲い掛かる魔物たち。それもありとあらゆる種の混在で全く統一感がない。これは今までこのダンジョンでは見られなかった傾向だった。
「とにかくあと少し進めばセーフティーエリアがあるはずだ。そこまで何とか頑張ろう!」
比佐斗の言葉に励まされて何とかジリジリと前進していく一行、だがパーティーの後ろを固めていた北条 茜が悲鳴を上げる。
「キャーー!!」
彼女に襲い掛かったのはキラービーの群れだった。体長80センチはある超大型の蜂が10匹以上の群れを成して襲い掛かってくる。その数に慌てた彼女は一瞬動きを止めてしまったのだ。
彼女とともに後ろに居た里谷 利治がファイアーボールを立て続けに放って群れを焼き払ったが、最初に現れた1匹はその魔法を掻い潜って茜の腕に毒針を打ち込んでいた。
その強力な毒を注入されて蹲る茜、慌てて風子がその腕をポケットから出したハンカチできつく縛る。これ以上毒が回るのを何とか食い止めたが、刺された左腕は黒く腫れ上がって見るからに危険な状態だった。
「これを飲んで」
すぐに毒消しのポーションを飲ませるが、毒の効果が強過ぎて腫れは中々引かない。茜自身はギリギリ一人で歩ける状態だが、早くどこかで休ませて本格的に手当てをしないと戦力として計算出来なくなってしまう。その間にも次々と彼らに襲い掛かる魔物たち。
彼女を真ん中にして風子が後ろ側に回って取り敢えずはなんとか戦線の維持をしているが、その分前方の戦力が低下したために前に進む推進力が下がっていた。
「このままではジリ貧だな。仕方ない、前方の敵を一気に殲滅するぞ!」
比佐斗が大声で合図を出すと芳樹が彼の前に出て全力で剣を振るい始める。彼は勇者の奥義が発動されるまでの時間を稼ぐために、一人で前の敵を引き受けている。
「こん畜生! 俺一人で抑えるには限界がある。比佐斗! 早くしてくれ!」
茜が戦線を離脱したため手薄なところに、比佐斗が魔力のタメを作るまでどうしても時間がかかる。後ろから迫る魔物も何とか2人で抑え込んでいる状況で応援にまわる余裕が無い。
「私もやる!」
毒に冒された体で茜は右手からウインドカッターを発動する。本当は立っているのもつらい程毒の影響を受けており、呼吸も浅くなっている。それでも自分がやれる事をしないとパーティーの全滅すら有り得るこの状況での決断だ。
だが、彼女が命懸けで放った魔法のおかげで僅かではあるが時間を稼ぐ事が出来た。その貴重な時間の間に比佐斗がギリギリで準備を終える。
「芳樹、下がってくれ!」
最前線で奮闘していた芳樹が素早く後方へ下がる。それに合わせて魔物たちも比佐斗目掛けて殺到しようとしたが、その前に通路全体に勇者の奥義が炸裂した。
「神撃雷斬刃!」
彼が振り切った聖剣から途轍もない威力の稲妻の波動が撃ち出され、通路に充満していた魔物たちは尽くその波動の前に消滅していく。
「やったな!」
これで前方を埋め尽くしていた魔物たちの邪魔を受けずに、茜を庇いながら彼らは何とかセーフティーゾーンに逃げ込むことが出来た。
「茜、しっかりしろ!」
この時点で彼女は無理に魔法を使った事と退避を急ぐあまりに走った事によって床に倒れこみ意識を失っている。風子がさらに毒消しのポーションを投与するが、その容態は思わしくない。
「回復魔法を掛けてみてくれ」
比佐斗の要請で風子が回復を図るがその効果は微々たるもので、一瞬呼吸が力強くなるがすぐに元に戻ってしまう。
「茜が歩けるようになるまでここから出られないわね」
風子は彼女を介抱しながらまだ危険な状態を脱していないと告げる。その顔色は真っ青で額には脂汗が浮かんでいる。少しでも楽になればと何度も回復魔法を掛けるが、全くその様子に変化が見られない。
「食料はあとどのくらい残っている?」
「2週間ってところだな」
セーフティーゾーンの外には夥しい数の魔物がうろついていて、この体制のまま外に出るのはあまりにも危険だ。かと言ってここで時間を浪費していては食料が尽きてしまう。それまでの間に茜が回復する事だけが頼みの綱だ。
現実には彼女が万全の体調でいてもこの数の魔物を相手にするのはなお心許無いのはそこにいる全員がわかっている事だが、この場でそれを口に出す者は居なかった。
こうして茜の回復を図りながら彼らの厳しい篭城生活が始まった。
「次の階層はどうなっているのでしょうか?」
春名が階段を上りながら陽気に岬と話をしている。彼女はこのダンジョンで初めて戦闘の役に立った事が嬉しくてテンションが大幅に上昇している。殺虫剤を撒き散らしてヒャッハーーしていただけだが。
彼らは32階層を何事も無く突破して、現在31階層に向かっている最中だ。
「何よこれ!」
圭子はその階層にひしめき合う様に溢れ返っている魔物に絶句している。さすがの彼女でさえ言葉を失う事もあるのだ。他のメンバーも多かれ少なかれ圭子と同様の反応だ。
ただ春名だけは『これは殺虫剤は効きませんね』と相変わらず呑気に構えている。ヒャッハーの時間終了のお知らせが寂しいようだ。
「どうやらこれが本郷たちが戻って来れなかった理由みたいだな。救出を急ぐ、一気にいくぞ!」
タクミはパワードスーツを展開すると、ブラスターガンを乱射する。狙いを付ける間でも無くそこにひしめき合う魔物たちは次々に爆発していく。
美智香もそれに合わせて雷撃魔法を放って殺し尽くす。あれだけひしめき合っていたのが嘘の様に見通しが良くなった通路にタクミの声が響く。
「前方は俺が片付ける。美智香と圭子は後ろを頼む。岬は絶対に手を出すなよ」
無敵モードのタクミが居れば最早何も心配は要らない。美智香と圭子は指示通り後方の警戒に当たっている。
ブルドーザーが道を平らにするように押し進むタクミたち、彼らの行く手をこの程度で遮るなど片腹痛いとでも言いたそうなくらいの速度で前進していく。
「後ろからは全然出ないよ!」
圭子の声が響く。彼女の横にはシロが並んでおり一緒に警戒しているが、魔物が現れる様子が極たまにしか無くて手持ち不沙汰もいいところだ。
タクミによって溢れ返っていた魔物の掃討が終わり、階層を隈なく探してみたものの勇者たちの手掛かりになる物は発見出来なかった。
「もう一つ上という事みたいだな」
タクミの意見に全員が同意する。上りの階段はすでに発見済みなので念のためパワードスーツを展開したままのタクミを先頭に登っていくとそこには彼らにとってお馴染みのやつらが立ちはだかっていた。
読んでいただきありがとうございました。次回は当然タクミたちと例のやつらの戦いになりますよね。ブックマークありがとうございました。次回の投稿は日曜日の予定です。引き続き感想、評価、ブックマークをお待ちしています。




