90 恵の意志
再びダンジョンの話の続きを投稿します。そういえばこのお話も100話までもうすぐというところまできました。一重に皆様の応援のおかげと感謝します。この調子で引き続き頑張っていきます。
「本当に行っちまったな」
勇造がポツリとつぶやく。彼はタクミたちのパーティーの戦い振りを間近で見せつけられて、今の時点では圭子にさえとても敵わないと自覚している。最強を目指している身としては忸怩たる思いはあるが、彼らに追いつき追い越す事こそ新たな目標だ。
「最初は信じられない話だと思ったけど、タクミ君たちが攻略者というのは真実に間違いないわね」
恵も彼らを見送ってからその戦い方を振り返って、改めて彼らの強さを実感している。その彼らに岬を預けた事はどうやら正解だったと今なら納得出来る。
「俺たちも行こうぜ。こんな所でグズグズしていられないからな」
「そうね、タクミ君たちにはとても敵わないけど、私たちは私たちが出来る事をしましょう」
リーダーとして自分のパーティーを振り返り、準備がいいか確認すると右側の魔法陣にパーティーごとに入っていく。魔方陣全体を包む光が消えると、その場から彼らの姿は消えていた。
「ここからは油断するなよ。俺たちが前衛を務めるから後ろからフォローしてくれ」
12階層に降り立った2つのパーテーはフォ-メーションの確認をする。勇造たちのパーティーは空手部、ラグビー部2人、剣道部、サッカー部で構成されており、ラグビー部の二人が大型の盾を持って魔物の突進を食い止め、それを勇造と剣士役が倒すパターンでここまでやってきた。サッカー部員は校内では『中盤の魔術師』と呼ばれたサッカー部のエースだ。このパーティーでは貴重な魔法使いでその視野の広さから戦闘中の指示を出すとともに後方の警戒に当たるという一応はバランスが取れた構成だ。
とは言うものの、若干前衛に攻撃力が偏っている感は否めない。それに全員の考え方が根本的に力押しなので、ひたすら敵を上回る馬力で叩き潰す事が基本方針だ。
「そう助かるわ。私たちが後ろから支援するから頑張ってね!」
恵はあっさりとこの方針を認める。彼女たちは女子3人が魔法使いで男子二人が剣士という組み合わせだが、少々前衛が頼り無いのでこの申し出は渡りに船だった。男子を最後方において後ろを固めて攻撃魔法担当二人と回復役がその前を固める。
本来ならばもっと浅い階層でフォーメーションを確認する意味で戦闘を体験しておきたかったが、タクミたちによって全て排除されて出る幕が無かった。といっても彼らならばまだこの辺りの階層では楽に戦えるだけの実力は持っている。後はいつもの倍の人数に慣れるだけだ。ちなみに勇造たちが背負っていた大荷物は全て藤山 蘭が収納魔法で預かっている。その分動きが軽くなっている勇造たちの働きに期待が出来そうだ。
「来たぞ!」
先頭を歩く勇造の声が飛ぶ。12階層はオークに時々オーガが混ざって出てくる階層で今回はオークが3体だ。
「手ごろな相手ね! はじめに魔法で弱らせるから場所を空けて!」
恵の指示で盾を構えて前に出ようとしたラグビ-部員が左右に退避する。
「アイスランス!」
「ファイアーランス!」
女子二人が魔法を放つと見事に2体のオークに命中して、一体はその場で倒れ1体は腹から血を流して動きを止めている。残りの1体がこちらに向かって突進するが、勇造の前蹴りを食ってもんどりうった所に剣で止めを刺される。
「便利だな、魔法使いが大勢いるというのは」
勇造たちに魔法使いは一人しかいないためにどうしても魔力を温存しなければならなかった。今回のように先制攻撃で魔法を放つ戦術を採りたくても採れなかったのも事実だ。それがこれだけ多くの魔法使いがいるならば、今後の戦闘が格段に楽になる。
「先に1発当てておいた方が後の戦いが楽でしょう。これからもこんな感じでやっていくから止めは任せるわ」
恵たちは逆に先に魔法を当てないと前衛の負担が増えるので常にこのやり方でここまで来ている。それに城から支給された魔力ポーションもふんだんにあるので、出し惜しみしないで魔法を放つ所存だ。超強力な前衛に惜しむ事無く魔法を使える後衛という理想的な即席のパーティーが出来上がっている。
「頼りにしているぜ、これだけのフォローがあれば今まで踏み込めなかった階層も突破出来そうだ」
「楽観は禁物。そういう事は突破してから言ってね」
恵が戒めの言葉を口にする。彼女たちはクラスのどこにでもいそうな平凡な生徒たちの集まりだ。その能力も勇者たちと比較するのが恥ずかしくなるほど大した力も持っていない。それがここまでやってこられたのは一重に恵の類稀無いリーダーシップの賜物だった。その判断のおかげでこれまで何度も危機を潜り抜けてきた。
藤村 恵・・・・・・2年生にして生徒会の副会長で、大半の生徒は彼女こそが実質的な生徒会長だと噂している生まれついてのリーダーだった。タクミたちのクラスには北条 茜というクラス委員がいるのだが、実質クラスを仕切っているのは恵だった。
恵自身はじめに勇者たちのパーティーに誘われたのだが『私がいなくてもあなたたちなら大丈夫!』と言って比較的仲の良い今のメンバーとパーティーを組んでいる。彼女は『絶対に誰も死なせずに元の世界に戻る』と決心しており、そのためにはお人好しが集まる今のメンバーに自分が入らないと真っ先に彼らが危険な目に会いそうだと判断した結果だ。
岬などはそのお人好しの筆頭であったが、彼女は自分の意志でタクミたちの所に行った。岬も幸せそうだし、強力なメンバーがいるあのパーティーならば危険は及ばないだろうと安心している。
だが恵は知らない事だがその強力パーティーの中でも岬の戦闘能力は突出しており、さらに非常に危険な問題も抱えているために戦闘禁止が言い渡されているのだった。
「次が来るぞ!」
再び勇造の言葉が通路に響く。
襲い掛かる魔物たちを相手に奮闘する勇造と恵たちだった。
「やっぱりいるよな」
36階層まで下りたタクミたちの前に再びドラゴンゾンビが立ちはだかる。
「さあさあタクミ君、気持ちが悪いからちゃちゃっと片付けてください」
春名がタクミの背中を押す。確かにドラゴンと言えどもゾンビなのでその見掛けは非常にグロテスクだ。シロもファフニールもその姿に警戒心を露にしている。
「行ってくる」
そう一言残して魔物に向かうタクミ、春名の言葉通りに一撃で全てを終わらせる。
シロが見つけた宝箱からは『死霊のペンダント』が出てきた。前回は圭子が愛用している大地の籠手だったので、その時によって出て来る物が違うらしい。ちなみに死霊のペンダントは名前こそ物騒だが、何の効果も無い大きな宝石が付いたただのペンダントだった。
「36階層はマッピングが出来ているから上りの階段の位置はわかる」
美智香の案内で通路を進むタクミたち。
再び彼らの前には圭子が大の苦手な昆虫の軍団が勢揃いしているがタクミと美智香により駆除されていく。岬も収納から取り出した殺虫剤のスプレーを吹き付けるとこれが効果絶大で、どんな大きな虫の化け物もひと吹きでバッタリと引っ繰り返った。
「虫ごとに種類が違う殺虫剤を用意していますが、圭子ちゃんも使いますか?」
岬がニッコリとして手渡そうとするが、圭子は大きく左右に首を振って断る。
「私は後ろに隠れているからみんなに任せる」
こんな調子で35階に上がる階段を登って行くと・・・・・・そこも虫の世界だった。
「ぎゃーーー!! また虫が出たーーーー!!」
圭子は体を小さくして一番後ろから進む。彼女は『早く上に上がりたい』としか考えていなかった。
「ヒャッハーー!! 害虫は消毒です!!」
対照的に春名は岬から手渡された殺虫剤を振りまいてノリノリだ。彼女は今まで魔物を倒した経験が無いので、この機会にやってみようと試したところ意外なほど面白い事に気がついた。ゲーム感覚で次々に虫たちを処理していく。
この勢いで34階層に上がるとそこは沼地が広がるエリアだった。
「どうもいやな予感しかしないぞ」
タクミの言葉通り、そこは気味の悪い生き物と呼べるのかも怪しいような奇怪な魔物の巣窟だった。
藤山恵の意外な一面が明かされました。今まで所々でチラリと出てきただけでしたが、今後の物語の進行に深く関わっていく人物なので覚えておいてください。ブックマークありがとうございました。夜の時間帯の投稿が続きましたが、次回の投稿は木曜日の昼の時間帯にしたいと思っています。引き続き感想、評価、ブックマークをお待ちしています。




