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9 幸運の使者

本日2回目の投稿です。

 タクミ達はこの前とは別の草原に来ている。


 今日から1週間、春名の『ポンコツ令嬢脱出作戦』のためにこの場所で強化合宿を行う予定だ。


「じゃあ私達は森で獲物を狩ってくるから」


 圭子と美智香の二人は早速森に入っていく。圭子の戦闘能力と気配察知能力があれば、ここら辺の森ならば危険はない。


 ちなみに圭子はワイバーンを倒したことで『中級拳闘士』に昇格していた。


 だがそれよりすごいのは美智香だ。彼女は『全ての属性を学んだ者』という称号がついた。これによって魔力だけでなく体力もアップしている。


 どうやらこの世界は職業のレベルが上がって熟練していくほど、様々なパラメーターも上昇する仕組みになっているようだ。


 春名は幸いにも初級レベルだったので下がることはなかったが、職業レベルが下がると体力なども下がる可能性がある。


 二人が森に消えていくのを見届けて、残った4人はトレーニングの準備をする。とはいっても、岬はタクミが用意したテーブルセットでお茶の支度をして、空は収納から取り出した怪しげな本を読み耽っているだけだ。


 空は初めの頃はBL本で満足していたらしいのだが、最近ガチムチ系に嵌ってしまいその手のホモ雑誌にまで手を出しているらしい。この世界に来て新刊が手に入らなくなったことに彼女としては珍しく憤慨していた。


 岬の方は昨日美智香からダウンロードさせてもらった魔法の呪文を端末で熱心に見ている。彼女はお湯を沸かす程度の生活魔法しか使えないのだが、真面目で勉強熱心な性格なのだ。


「タレちゃん、この本見る?」


 空は仲間が欲しいようだ。同じ嗜好を持つ仲間と様々な事を語り合いたいらしい。


「私はノーマルな殿方が好きですので、遠慮させていただきます」


 さすがメイド、断り方も丁寧だ。断られた空は無念さを滲ませている。


 タクミと春名はジャージ姿で走る準備をしている。すでにタクミは重力を3倍に設定しており、ちょっと気を抜くとひっくり返りそうな状態だ。このぐらいしないと春名と同じペースで走れないので仕方ない。


 惑星調査員にとって重力トレーニンは必須の項目だ。どんな惑星に行ってもその環境に適応していく必要がある。幸いこの星は1.01Gなので、地球環境とほとんど変わりなく生活できるが、それでもこうして日常的に訓練しているのだ。


「春名、これから走るぞ。しっかりついて来い」


「はい!」


 返事は合格点だ。


 そしていざ走り始めると・・・・・・ 50メートル走った所で春名は立ち止まった。


「タクミくーん、もう限界ですー!!」


 清々しいばかりのヘタレっ振りだ。仕方ないので彼女が回復するまでゆっくりと歩く。地球にいた頃はもう少し走れたはずなのに何かおかしい。


「よし、また走るぞ!」


 タクミの声に合わせて走り出すが、また50メートルで立ち止まる。そんなことを繰り返して二人はテーブルに戻ってきた。


「なんだか春名の様子がおかしい」


 タクミが待機していた二人に話し始める。


「地球にいた時よりも明らかに体力が下がっている」


 言われてみれば春名はクラスでマラソンはビリだったものの何とか最後まで走り切れた。それが50メートル走った所で限界が来るのはどう考えてもおかしい。


 熱心に見ていた本を置いて空が口を開く。


「検索してみる」


 空が持っている端末は何しろ3000年後の製品で、その性能はタクミが持っているものとは桁違いだ。時空を超えてありとあらゆる事が調べられる。


「これは何ですか?」


 自分の事が話し合われているにもかかわらず、春名は空がテーブルに置いた本に手を伸ばす。が間一髪、岬がその本を先に手に取った。令嬢にいかがわしい物を見せないのもメイドの務めだ。


「あった」


 空が端末をタクミに見せる。


 そこには【職業『令嬢』・・・体力や魔力が本来の2分の1に下がるが、幸運値だけは常に最高】という記載があった。


「・・・・・・」


 あまりの微妙さに全員無言だ。


「あのー・・・・・・ 私って『運頼りに生きていけ!』って事ですか?」


 ようやく口を開いた春名がその職業の本質を述べる。


「そういう事みたいだな」


「きっと幸運な事が起これば、ランクが上がる」


 空の意見に春名は希望を見出した。


「私、絶対に幸運を捕まえて見せます! お金とか拾えばいいんでしょうか?」


 なんとも小さな幸運だ。


 結局春名のトレーニングは効果が薄いことが判明して取り止めになった。まもなく昼時なので、岬がその準備に取り掛かろうとしたとき『コンコン』とシールドを叩く音がする。


 4人が一斉にその方向を向くと、白くて小さい生き物がそこにいた。


「犬だな」(タクミ)


「犬みたいですね」(岬)


「犬にしか見えない}(空)


「シロちゃん?」(春名)


 全員が春名の方を見る。


「知っているのか?」


「はい、校庭とか裏庭を一人でお散歩していて、時々おやつをあげていたんです」


 シールドの外でこちらを見つめて尻尾を盛んに振っている白い子犬。


「どうやら危険はなさそうだな。空、シールドを空けてくれ」


 空が指示に従う。


「シロちゃん、こっちおいで!」


 春名の元に真っ先に駆け寄って足に飛びつくシロ。


 彼女はそれを優しく抱きかかえるとシロはその顔をなめ回す。そのフサフサした小さな尻尾はブンブン振られている。


 岬が素早くドッグフ-ドを収納から取り出して、犬用の器の入れると春名に差し出す。ご丁寧な事に缶には『子犬用』と書いてあった。


 シロを地面に降ろして餌を与えると、夢中になって食べ始める。


「そんなものまで用意していたのか?」


 タクミが驚いて岬に尋ねると彼女は澄まして答えた。


「メイドの嗜みです」


 確かにペットの面倒を見るのもメイドの仕事かもしれない。すでに彼女は水も用意している。


 実はシロはたまたま彼らの教室の近くを歩いている時に、召喚に巻き込まれてこの世界にやって来た。森の中に取り残されてこの数日間を一匹で生き残り、懐かしい人の気配に惹かれてようやくここまで辿り着いたのだった。


「その犬のステータスとかって見られるのか?」


 タクミが冗談で言った言葉に春名が反応する。


「試してみましょう。ステータスオープン!」


 春名がそう言うと彼女のウィンドウが開いた。全員が『やはりポンコツか』と思った時に、岬が隅に新たな表示を発見する。


「ここにペットという欄があります。クリックしたら出るのではないでしょうか」


 試しに春名がクリックしてみると・・・・・・





《ペット》  シロ   0歳   オス


       職業   霊獣(成長すると神獣になる)




 と記載されていた。


「春名、自分の画面に戻ってみろ」


 タクミの言葉に従って彼女が表示を変えると・・・・・・『ポンコツ令嬢』が『令嬢』に戻っている。


 どうやらシロは幸運も一緒に運んできたようだ。





読んでいただきありがとうございました。感想、評価、ブックマークをお寄せいただけると幸いです。


次の投稿は明日の夜の予定です。

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