88 街中の再会
ラフィーヌの街の話になります。他のクラスメイトの近況などこれから色々出てくる予定です。
「えっ! タレちゃん! タレちゃんじゃないの! 本当に会いたかったんだから!」
岬に声を掛けられた鈴村恵はしつこく付きまとっていた男たちを放っぽらかして彼女に飛びついてくる。岬も彼女と同じように会いたかったようで恵を優しく抱きかかえた。
後から来たタクミたちにせっかくのターゲットを取られた格好の男たちは凄い目でタクミを睨み付けているが、彼が手を出す前に圭子が『しっしっ』と追い払った。もちろん言葉だけではなく軽く実力も行使した後の話である。
「皆さん、お久しぶりです」
感動の対面を果てしてから恵は他のパーティーメンバーに向き直って挨拶をする。
「恵ちゃん、私たちが城を出て以来ですね。元気でしたか?」
春名がにこやかに挨拶をする。彼女は敵を作らないタイプで誰とでも仲がよいのだ。
「せっかく会ったのにこんな所で立ち話じゃ寂しいから、どこかでお茶でも飲みながら話そうよ」
圭子はまた先程のような男たちに絡まれるとそれはそれで楽しいのだが、一応は常識のあるところを見せる。彼女の言う通り往来の真ん中でかなり通行の妨げになっているのだ。
「時間もお昼近いから、どこかで食事の出来る所にしましょう」
恵も合意して、彼女たちの宿舎近くのレストランに向かう。
レストランでテーブルについて各自がオーダーを終えてお互いの近況報告が始まる。
「タレちゃん、その後進展はあるの?」
恵はいきなり最も気になっていた彼女の想いがどうなったかを聞いてくる。これにはタクミも面食らった。試合開始直後に強烈なストレートを喰らってダウンしたようなものだ。
思えば恵は岬が旅立つ時にタクミに向かって『岬のことをくれぐれもよろしく』と何度も頭を下げていた。彼女は岬のタクミへの想いを知って上で彼女を送り出していたとタクミも理解する。
「その・・・・・・実は・・・・・・」
岬もさすがに言い難そうにしているが、横から春名がしゃしゃり出た。
「タレちゃんはタクミ君のお嫁さんですよ!」
まだ正式にそうなったわけじゃないだろう! とタクミは心の中で反論しかけたが、すでに色々とやらかしているのでこの場は敢えて声には出さない。
「ええー! もう結婚しちゃったの!!」
恵の話は飛躍のし過ぎだが、春名の言い方では誰もがそう思うはずだ。
「その・・・・・・正式にそうなったわけではないですが、大切にしてもらっています」
岬ははにかみながら答えるがその表情は誰の目から見ても幸せでいっぱいだ。彼女が見せるその顔は幸せゆえにとてもチャーミングな魅力にあふれ、なおかつそこはかとない色気さえ漂わせる。
恵は彼女のその答え方とその表情で全てを理解した。そう、この時点では『二人は出来ている!』という理解をしていた。
「でも私と空ちゃんと紀絵ちゃんと最近圭子ちゃんもお嫁さんになったんですよ」
春名のあっけらかんとした言葉で恵の表情が変わる。まるで獣でも見るような目でタクミの事を睨み付ける。
「剣崎君、どういう事か説明してもらえるかしら」
先程までとは打って変わった冷ややかな声が恵から発せられた。タクミはその声に背筋が凍りつく。この問題の根本を説明するには、タクミの惑星の社会システムの話をしなければならない。まさかこの場で彼女にその話を打ち明けるわけにもいかないので、どうしたものかと思案に暮れる。
「恵ちゃん、誤解しないでね。ご主人様は無責任に私たちと付き合っているわけではないの。みんなに分け隔てなくしっかりと付き合ってくれているから心配しないでね」
岬のフォローでどうにか恵は表面上は納得した様子だが、その目は相変わらず冷たい視線をタクミに向けている。彼女の脳内では野獣に襲われて次々と餌食になる哀れな子羊たちが悲鳴を上げている光景がリフレーンしている。
その時ちょうど注文した食事が配膳されて、女子たちは美味しそうにパクついている。結構評判のレストランらしいが、タクミにとっては味以前に居心地の悪さで逃げ出したい気分だった。
それでもデザートの美味しさに機嫌を直した恵が自分たちの近況を話し始める。
「私たちは2ヶ月前にここにやって来てずっとダンジョンの攻略をしていたんだけど、20階層辺りで力の限界が見えてきて一旦地上に戻ったの。それからは1週間かけて15階層付近でレベルを上げて、また地上に戻って休んでの繰り返しでズルズルとこの街に留まっているわけ」
恵が話す通りこれが一般的な冒険者のダンジョンの攻略方法だ。タクミたちのようにわずか2週間で最下層まで攻略する方がおかしいのだ。
「俺たちは11階層までしか降りていないが、その下はどうなっているんだ?」
タクミたちは実際森林エリアから36階層までショートカットしたので、その下がどうなっているのか知らなかった。もっともこれは春名あたりが『一番下まで行きました!』などと言う前に話題を限定しようというタクミの考えだ。
「基本的にはあまり変わらない感じかな。でも上位種が出てきたり数が多くなるからそれなりに難易度は上がると思う」
恵の話によってダンジョンの中間層の様子が大体わかった。結果的にタクミたちにとっては、効率優先で近道をした方が正解だったのかもしれない。
「ところでこれはいったい何?」
恵が指差す先には床に寝そべるシロとそのお腹に身を寄せるファフニールがいる。相変わらず仲良しコンビだ。
「なんと説明していいかわからないが、隣の国で縁があって引き取る事になったドラゴンの子供だ」
その経緯を話すのはまずいので言葉を濁すタクミ、だが恵は『ドラゴン』というフレーズに食いつく。
「本物なの! ちょっと見せて!」
興奮気味にまくし立てる彼女の勢いに負けて、春名がファフニールを呼ぶ。
「ファーちゃん、こっちにおいで」
春名の声が聞こえたのか翼をパタパタ動かして春名の膝に飛び乗ってくる。それを優しく抱きかかえた春名が恵によく見えるように近づけると、ファフニールは好奇心いっぱいの様子で目新しい人を見つめる。
「カワイイーーー!」
声を上げて見つめる恵、触っていいと許可を得てからそっと頭を撫でるとファフニールは目を閉じて気持ちよさそうにしている。
「決めた! 私もドラゴンをペットにする!!」
またいきなり無茶な目標を掲げる恵、ドラゴンなんてその辺にはいないし捕まえる方法すらわかっていないのにどうするつもりなのか。
「ねえ、ドラゴンがどこにいるのか教えて!」
無茶な頼みを言っている事を承知で彼女は頭を下げるが、残念ながらタクミたちにも心当たりは無い。機会があったら探しておくと適当な約束をしてこの場は我慢してもらった。
恵は午後にはパーティーの仲間の元に戻らなくてはならなかったので、再会を約束して店を出てから手を振って別れる。
「他のみんなも何とかやっているみたいですね」
彼女の話で他のパーティーの生徒たちも無事にやっているらしいという事がわかってタクミたちも一安心する。短い期間とはいえクラスメイトだったのだから一応心配はしていたのだ。ただし紀絵を暴行しかけたバカ5人組だけは王都に戻されて精神を鍛え直されているそうだ。
タクミたちは伯爵邸に戻り、その日と次の日は何事も無く終わった。
翌々日の朝、タクミたちはこの日から次の目的地に向けて食料などの買出しをする予定であったが、冒険者ギルドに呼び出されている。
「わざわざ来てもらってすまない。実はダンジョンにアタックしている勇者の一行が、予定の日を3日過ぎても戻って来ない。食料も今日までの分しかないそうで、王宮から捜索隊を出して欲しいとギルドに依頼があった。彼らは28階層辺りにいるらしいのだが、そこまで行けるのは君たちしかいない。緊急の指名依頼だ、行ってくれないか」
タクミたちに頭を下げるギルドマスター、こと勇者が関わっているとなると自己責任などとは言っていられないこの国の事情が絡んでくる。タクミたちもクラスメイトに万が一の事があると後味が悪い。
「わかった、その依頼受けよう。明日から中に入る」
タクミは力強く頷いて承諾するのだった。
読んでいただきありがとうございました。次回はタクミたちが再びダンジョンに入っていきます。果たして勇者は無事なのか・・・・・・というお話になりそうです。感想、評価、ブックマークお待ちしています。次回の投稿は土曜日の昼になりそうです。




