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87 本拠地

お待たせいたしました。タクミたちはダンジョンの街に戻ってきました。ここで休養をとって次の目的地に向かう予定ですが、果たしてそううまく事が運ぶでしょうか・・・・・・

 王都を後にしてタクミたちはラフィーヌの街に戻って来ている。


 アルシュバイン王国では国王やミハイル王子から散々引き止められたが、次の目的地がまったくの反対方向だったために彼らはまた来ることを約束して旅立った。


 そして久しぶりの本拠地に戻ってきた次第だ。


 戻ってくる途中で感じたのは、戦乱が収束した事により物資の流通が復活した点だ。今まで戦いに巻き込まれるのを恐れて行き来を控えていた商人たちが次々に国境を越えて交易を始めている。目聡いというか逞しいというか、儲けが出そうだと考えれば即行動に移す彼らの変わり身の早さにタクミたちは感心していた。


 街道を馬車で移動していると次から次に商品を満載した馬車と行き交う。その姿を見て少しは役に立ったかと感じる一行だった。







「さて、また宿屋を探さなくてはならないな」


 ここはダンジョンの街で引っ切り無しに人が入れ替わる。ある者は期待以上の収穫を上げて街を後にし、またある者はダンジョンでその命を散らして二度と帰らなかった。その上、500年ぶりに攻略者が現れたと聞きつけて多くの冒険者が我も我もと押しかけており、以前タクミがこの街に居た頃よりも人通りが確実に増えている。


 従って現在この街は深刻な宿屋不足に陥っている。何軒か足を運んだ宿屋は全て満室で断られて、タクミたちは困った状況におかれていた。


「ギルドでどこか空いている宿が無いか聞いてみましょう!」


 令嬢が珍しく冴えた意見を口にする。彼女も職業ランクが上がった事で以前よりも成長しているのだろう。その意見は極めて妥当な物と判断して、全員揃って冒険者ギルドに向かう。


「ギルドマスターに取り次いで欲しい」


 タクミが『A』と記載されているカードを示して受付嬢に話し掛けると、彼女は2階にすっ飛んでいった。しばらく待っていると彼女が戻ってきて2階に案内される。女子たちはタクミに丸投げして飲食コーナーに行こうとしたが、生憎そこも満席で渋々2階に上がった。


「久しぶりじゃないか! お前たちよく戻ってきたな!」


 大げさなアクションで彼らを迎えるギルドマスター、だがその表情はシロの背中に乗っている存在に気が付いて引き攣る。何度も目をゴシゴシと手で擦って見直すが、やはりそこには存在してはいけない物が居るようにしか見えない。


「なあ、たぶん俺の見間違いのはずなんだが、そこに小さなドラゴンが居るように見えるのはどういう訳だ?」


「見間違いではありませんよ! この子はファーちゃんです」


 春名がシロの背中から優しく抱き上げて、ドラゴンをギルドマスターの目の前に差し出す。親元を離れてはじめの内は恋しくて寂しそうにしていたファフニールは兄貴分のシロと女子たちに可愛がられてすくすくと育っている。体の大きさは全く変わらないが、彼女たちの話を随分理解しているようだった。


「本物のドラゴンかーーー!!!」


 腰を抜かさんばかりに驚いているギルドマスター、ファフニールもその大きな声に驚いて春名の腕の中でバタバタしている。


「ファーちゃん、大丈夫ですよ。いい子ですから落ち着いてくださいね」


 春名が赤ん坊をあやすように優しく声を掛けるとファフニールはすぐに落ち着く。だが、まだ落ち着けないのはギルドマスターの方だ。


「ドラゴンの子供なんて一体どうしたんだ?!」


 確かにタクミたちは伝説のドラゴンが居るというマルコルヌスの火山に行くと言っていた。だが本当にドラゴンの子供を連れ帰ってくるなど想定外にも程がある。


「実は・・・・・・」


 タクミはファフニールを引き取った経緯を話す。それはまるで御伽噺のような内容だった。


「おまえら・・・・・・吟遊詩人が歌にする物語に匹敵するような事をやってのけたな」


 心から呆れるギルドマスター、彼らにとってはダンジョンの踏破などほんの手始めに過ぎないのだと考えるようになってきた。


「という事でしばらくはこの街で充電するから、今日は挨拶と宿を世話してもらいたくてここにやって来た」


 タクミは本来の用件を切り出す。せっかく街に戻って来たのでゆっくりと休みたいのだ。もちろんシェルターで過ごすのは野宿と比べればずっと楽なのだが、街中にあれを出現させるわけにも行かない。


「生憎宿はどこも満杯だ。お前たちがここのダンジョンを攻略した話が伝わって、かつて無い程の冒険者が押し寄せている。小さな宿屋すら一杯だ」


 彼の言葉に肩を落とすタクミたち、これでは折角の充電期間が台無しだ。


「だが、お前たちなら喜んで泊めてくれる場所を知っているぞ。しかも大歓迎間違い無しだ!」


 キッパリと言い切る彼の話に希望を見出すタクミたち、この際どんな所でも贅沢を言っていられない。


「向こうの都合を確認するから少し待っていろ」


 ギルドマスターはそれだけ言うと係の者を使いに出す。使いが出ている間に隣国での出来事を話題にして時間をつぶしていると『喜んで受け入れる』という返事を係が持って帰ってくる。


「よし、こいつらを案内してやってくれ。もっとも案内の必要など無いだろうがな」


 ガハハと笑って見送るギルドマスター、彼に挨拶をしてタクミたちは馬車に乗り込む。一体どこに連れて行かれるのだろうと思いながら係の案内で馬車は進む。そのうちどうも見覚えのある建物が並ぶ界隈を過ぎて馬車は停止する。


「ここは・・・・・・」


 全員が立っているのは伯爵邸の門の前だった。見覚えのある執事とメイドがにこやかに彼らを迎える。


「ようこそお戻りになられました。伯爵様も首を長くしてお待ちです。ご案内いたしますのでこちらにどうぞ」


 確かにギルドマスターが言うように大歓迎されているのは間違いないようだ。今更断る訳にも行かずに執事の後に付いていくと応接室ですでに伯爵は待ち構えていた。


 当然シロの上に載っているファフニールについてギルドと全く同じやり取りを再現する羽目になったが、かつて猫人族が滞在した離れを伯爵は快く提供してくれた。その見返りとして食事は母屋でとり、その時に今回の冒険の話を詳しく聞かせる事となったが、その程度はお安い御用だ。問題は血の気の多い伯爵がどこまで黙ってい聞いていられるかに懸かっている。


『俺もまた冒険者に戻る!』


 彼ならそのくらい言いかねないからだ。




「よかったですね、皆さんの好意で泊まる所が見つかりました」


 離れの部屋に装備を置いて再び皆が集まって明日以降の話を開始する。装備といってもほとんど収納に入れているので彼らは常に手ぶら同然だ。せいぜい圭子がリュックを降ろした程度のものだった。


 取り敢えず2日間は休みにして3日目から食料等の補充をしてそれから次の目的地に向かう事で話はまとまる。その間に各自で疲労の回復に努め、ついでに情報も仕入れる予定だ。


 その日の夕食の時、まずはアルシュバイン王国の話を始める。楽しそうに聞いていた伯爵は次第にその冒険の話に夢中になってついには『今度はお前たちに付いていく!』と言い出す始末。


 当然横に立っている執事にジロリと睨まれて彼はその発言を撤回する。どうやらこの領内で最も権力を握っているのはこの執事なのではないかとタクミたちは疑った。




 翌朝、朝食を済ませて服を見たいと言い出した女子に付いていくタクミ、相変わらず彼に拒否権は無い。まるで執事に睨まれた伯爵だ。


 馬車に乗って街中に入り、停車場に馬ごと預けて徒歩で散策を開始する。彼らは大勢の人が行き交う通りをはぐれないように固まって進む。


 特にボケッとしている春名はタクミが手を引いている。これはこれで春名は嬉しそうにしているが。


 しばらく通り沿いの商店を眺めながら進んでいるタクミたちだったが、圭子と並んで先頭を歩いていた岬が突然立ち止まる。


「恵ちゃん!」


 二人組みの男にしつこく絡まれている少女、彼女こそが岬のかつてのパーティーのリーダー鈴村 恵だった。

読んでいただきありがとうございました。次回は偶然の出会いから話が展開していきます。感想、評価、ブックマークお待ちしています。次回の投稿が少し間が開いて木曜日の夜の予定です。

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