85 再び王都に
火山で目的を果たしたタクミたちは王都に戻ってきます。今回は王宮での晩餐会が話のメインになります。
これからしばらくの間投稿時間を夜の8時から9時の間にいたします。今まで昼の時間の投稿が多かったのですが、都合により変えさせていただきます。土日は昼間に投稿することになると思いますので、お間違いの無いようにお願いいたします。今後ともこの小説をどうぞよろしくお願いいたします。
「で、何か! 火山で火龍に出会ってその子供を預かってきたわけか!」
国王の呆れたような声が内宮に響く。タクミたちはマルコルヌスの火山を無事に下山しその後特にトラブルも無く王都に到着して、現在ミハイル王子とともに国王夫妻のプライベートな部屋を訪ねている。
現に今もファフニールを連れているので、その事について誤魔化すつもりもない。当のファフニールはシロの背中でぐっすりと寝ている。まだ生まれたばかりで寝るのも仕事のうちだ。
「まあ、そういう事になるな。ついでに火龍に襲い掛かっていた魔族を100体ほど倒しておいたぞ」
タクミはその辺でゴブリンでも討伐してきたかのように簡単に言ってのける。彼らにとっては魔族退治などそれほど手間の掛からない楽なお仕事の範疇に入る。現に100体近くいた魔族を圭子抜きで片付けていた。
「あのなあ、俺は幸いに魔族と出会った事は無いが、余程の手練でないとやつらに太刀打ち出来ないんだぞ! それもせいぜい1体を追い返すのが限度だ。やつらには剣も魔法も効かないからな。それを100体まとめてドンなどと言われて誰が信じるか!」
「あいつらには剣も魔法もちゃんと効く。障壁を張っているから攻撃をある程度跳ね返すが、それを上回る威力を叩き付ければ簡単に死ぬ。体の造り自体は人間と大差ないからな」
タクミが自らの経験を元に得た情報を話す。障壁さえなければ彼らもそれほど恐れる相手ではなかった。現にエルフの里で圭子の拳は魔族を叩きのめし、障壁が無くなったその手足の関節を簡単に外していた。彼女が特殊な事例とはいえ、人間やる気になれば出来るものだ。
「普通の人間にそんな事が出来るとは思わないが、一応参考意見として聞いておこう」
国王は昔冒険者時代に魔物と戦った経験がある。彼自身それ程強かった訳では無いのでその時は必死に剣を振るった。魔物一体を倒すのにどれだけ苦労するかよく知っているだけに、さらに手強い魔族を事も無げに倒すタクミたちが信じられない思いだ。
だがタクミがもたらしたこの情報は後に魔族を相手に戦う時の大きな参考になり、これ以降魔族にどのような攻撃が有効なのかという研究が行われる事となる。
「まあいいじゃないか。それよりも色々と事後処理の方を頼む」
国王は眉間に人差し指を当ててつくづく『よくまあここまでやってくれたよな!』という表情をする。
「お前さんたちが領主一族を滅ぼしたメルゲンシュタットは直轄地にして国境の自由貿易都市にした。その手続きだけで俺は3年分くらい働いたのにその上タンネを直轄地に組み込むなんて俺を過労死させる気か!」
国王はメルゲンシュタットの領有を主張する周辺の貴族たちに根回しと恫喝を巧に織り交ぜてこれを認めさせた。当時北部で暴れ回っていたタクミたちは国王の配下にあるという噂を最大限に利用したのだ。あまり欲張ると彼らを差し向けると暗に匂わせながら、多少の利益を供与する事で貴族たちを押さえ込んだ。
「まあその話は任せる。北部も俺たちが戻る時にはすっかり紛争が終わって平和だったぞ」
タクミは完全に王に丸投げを決め込んでいる。面倒な政治に関わる気など更々無い。
「その点は感謝している。これは国王としての立場での感謝だ。だが個人的にはこれ以上仕事が増えるのが耐えられないんだよ!」
本音をぶちまける国王、有能なのに仕事嫌いなのか。それとも昔冒険者をやっていただけに気儘な暮らしが性に合っているのか。いずれにしても彼には頑張って貰わないとタンネの街が混乱する。
幸いにもミハイル王子の印刷工房が本格的に稼動しており、木片を削り出して活字を製作していた。それにより公文書も全て王子の工房で作成される運びとなり、正式に予算もついている。
国王はその書類に目を通してサインするだけだが、それでもこれだけ文句を言うのはやはりその性格故の事だろう。
「ミハイル王子の兄がいるだろう。彼らを街に派遣して治めさせたらいいんじゃないか」
国王にはミハイルを含めて4人の王子がいる。上から23歳、20歳、18歳、5歳とミハイルを除いて皆成人している。彼らはミハイル程ではないが優秀で人柄も温厚と申し分の無い人物だ。どうやら母親の血を濃く受け継いでいるらしい。
長男は王太子として王都に残らなければならないが、ちょうどあと二人都合よく残っている。ミハイルはまだ5歳なのでこの場合は除外だ。
「その件に関しては俺も考えている。あいつらもそろそろ独り立ちする時だからな。何よりも俺の仕事が減る!」
そんな所で胸を張るんじゃないとタクミは突っ込みたかったが、相手が国王だけに自重する。
タクミが国王と話し込んでいる時、女子たちはミハイルと王妃とともに別のテーブルで今回の冒険の話で盛り上がっている。何しろ伝説の火龍に会ってきたのだ。誰もがその話を聞きたいとリクエストするに決まっている。
ミハイルと王妃は最初のバンジージャンプの件で大笑いしていた。これは空が映像に残しておいたので、悲鳴を上げて落ちていく伯爵の姿に爆笑だ。日頃は常識的でお淑やかな王妃もこれには大声を上げて笑っていた。
ミハイルもこの世界に来て久しぶりに目にした映像に非常に興味をそそられている。何とかこの世界でもこの技術を再現できないかと、彼は魔法で映像を残す方法を思案している。
その笑い声にファフニールが目を覚まし、シロの背中から春名の胸に飛び移って来た。
「まあ、ファーちゃん! 目を覚ましたんですね」
春名が優しくその背中を撫でるとファフニールは一声『ピー』と鳴いた。どうやらお腹が空いてきたらしい。岬がドッグフードを取り出して与える。その様子を見ていたシロも岬の足元にまとわり着いて離れない。
岬を中心にファフニールにどんな食事を与えるかで相当悩んだが、結局何でも食べるのでシロと同じ物を与える事になった。仲良く二つの皿に用意された食事を取る二匹、もちろん体が大きい分だけシロの方が量は多い。
「二人は仲がいいんですね」
王妃が感心したようにその様子を口にする。彼女も勿論ドラゴンなど見たのはこれが初めての経験だ。ミハイルもドラゴンがドッグフードを食べているというシュールな光景に驚いている。
「シロちゃんとファーちゃんは実の兄弟のようにいつも仲良しです」
春名の自慢げな答えが返ってくる。両者とも名義上は春名のペット扱いなので管理責任者は彼女だ。
しばらく話し込んでいると夕食の用意が整ったと女官が告げる。彼女の案内にしたがって立派なダイニングに場所を移しての夕食が始まる。勿論シロとファフニールも同席だ。
いい匂いに釣られてまだ食べたそうにしているシロには好物のオークの肉を与えて、ファフニールは岬の膝の上に乗って彼女の食事を分け与えて貰っている。育ち盛りなのでよく食べる。
「ドラゴンと一緒に食事をする日が来るとは思わなかったぞ」
国王はワインを片手にご満悦の表情だ。どんなに権力があってもこんな機会に遭遇する事など望んでも無理だ。
「父上、皆さんと知り合いになれたのは僕の手柄であることをお忘れなく」
ミハイルは王に自分をアピールしつつも偶然の出会いに感謝している。もしあそこでタクミたちに出会わなければ、今こうして皆で食卓を囲む事など無かったかもしれない。あの時は賊に襲われ、自身も喘息の発作で生死の境をさ迷う危険な状態だったのだ。
それがこうして皆で食卓を囲みながら冒険の話を聞きドラゴンにも出会えた。その上諦めかけていた長年の自分の夢が実現しそうなところまで来ている。改めてこの世界に転生して良かったと心から感じるミハイルだった。
次回はミハイル君が話しの中心になりそうです。彼もタクミたちが火山に行っている間に色々と頑張っていましたので、その話になりそうです。
ブックマークありがとうございました。引き続き感想、評価、ブックマークをお待ちしています。次回は土曜日の投稿になります。




