84 ファフニール
お待たせしました。魔族たちを倒したタクミたちは目的を果たせるのでしょうか・・・・・・
「俺たちがここに来たのはこの山に隠されたある装置を見つけるためだ。何か知っているなら教えてほしい」
タクミの話を聞いて考え込むドラゴン、どうやら心当たりがある様子だ。その間子供の方はシロの背中から春名の胸に飛び移って居心地良さそうに抱かれている。
「当てが無い訳でもないがもう少し話を聞かせてもらいたい。それはここに倒れている連中と何か関係があるのか?」
「こいつらも同じ目的だ。どうやら魔王に命じられて装置を手に入れようとしている」
再びドラゴンは考え込む。子供の方は今度は岬の胸に飛び移っている。やはりよりクッションが効いている方が良いのだろうか。春名はなぜか敗北感を味わってしゃがみこんでおり、それを慰めようとシロは彼女の頬をペロペロと舐めている。傍から見ればなんとも微笑ましい光景だ。
「お前たちはあれを使って何をしようとしているのだ?」
「俺たちはこの世界とは別の所から来た者だ。あの装置の正しい使い方を知っている。すでに2箇所の装置を正常に作動させているが、もし魔族の手に渡り誤った使用をされたらこの世界は滅びる」
タクミはこれまでの経過を掻い摘んで説明する。PNIシステムが誤って作動された場合、本当はこの世界だけではなくて銀河全体が未曾有の混乱に陥るのだがそこまで触れる必要は無い。
「なるほど、お前の話は理解した。魔族の手に渡るよりはお前たちに委ねた方がこの世界にとって安全という事だな。ならば我にも異存は無い。そちらの奥に扉が隠されているので好きなようにするがいい」
「感謝する」
タクミは短い礼を言ってすぐに装置が隠されている所に向かう。彼には空と美智香が同行した。
洞窟の奥にこれまでと全く同じ銀色の扉が設置してあり、パスワードを入力すると当たり前のように開いた。中の造りも全く変わらなくて、空が手順に従って装置を稼動させて美智香を作動責任者に登録して全てが完了する。
「無事に終わった。これでもう魔族たちはこの装置に手を出せなくなった」
戻ってきたタクミたちにドラゴンは頷く。
「そうか、あれはまだ我が若い龍だった頃にお前とよく似た銀色の姿をした者が『遠い将来にこの装置を動かす事が出来る者が現れるから、その時まで誰も近づけないでくれ』と言って我に託したものだ。だからお前の事を信用してあれを任せた」
ドラゴンの言葉にタクミは強い興味を引かれる。やはり過去にこの星に何者かがやって来て、PNIシステムを設置したのだ。一体何の目的でこんな辺境まで来たのかはわからないが、この事はタクミの調査にとって大きな手掛かりになる。
「他に何か知っている事は無いか?」
「無い」
どうやらこの場で得られる手掛かりはこれだけらしい。それでもタクミにとっては大きな前進だ。
「お前たちに頼みがある」
突然ドラゴンがまったく別の話題を口にする。岬の胸にいた子供の方は今度は圭子の頭の上に乗っている。彼女の胸を選ばなかったことに一体意味があったのだろうか。たとえばクッションが全く無いとか・・・・・・
「我は少々深手を負い過ぎた。この傷を癒すために100年程眠りに就かねばならない。その間お前たちに我が子を託したい」
まだ自分の身も守れない子供の安全を考えてタクミたちに預ける道を選んだドラゴン、子供の方ははっきりとその言葉の意味を理解していないらしく、相変わらず圭子の頭の上で翼をパタパタさせて遊んでいる。
「俺たちは構わないが、本当にいいのか?」
「眠りに就かねばこの傷が癒えなくてわが子を守ることが出来ぬ。眠りに就けばわが子に食べ物を与える事すら出来ぬ。いずれにしろ今のままではこの子を我の手で育てられないのだ」
火龍にとってもそれは苦渋の選択だった。だがこのまま手元においても無事に育つ確率は極端に低い。
「わかった、この子は預かる。大事に育てよう」
「感謝する。お前たちの霊獣に接する態度を見て我も決断が出来た。我の血を引くならばおそらく強い龍になる事だろう。しばらく会えないが成長した姿を再びこの目で見る日を楽しみにするとしよう」
火龍はそう言うと目を閉じる。今までその巨体に見合うだけの威厳を保っていたのだが、魔族との戦闘で負った傷のため実はそれもすでに限界だった。我が子をタクミたちに託した事で気が緩んで目も開けているのも辛い。その見た目以上に火龍は疲弊していた。
圭子は子供を頭に乗せたまま火龍に近づいていく。しばらくお別れになるので挨拶をさせるためだ。頭の上に乗っている子供を抱きかかえて、そっとその巨大な前足の上に乗せる。
目を閉じていても子供の気配がわかっている火龍は念話で『タクミたちに着いていけ』と子供に命じる。
「ピーー!」
それを聞いた子供は初めて大きな声を上げてイヤイヤと首を横に振るが、火龍がその我が侭を許さない。本当は手元に置いておきたい気持ちを堪えて何度も突き放す。
「ピー」
ついに諦めたような声を上げて子供はうなだれて圭子の頭の上に戻った。その表情は悲しみでいっぱいで目から涙が滲んでいる。その様子を見ている春名や岬も貰い泣きしていた。
「タクミ君、可哀想ですけど仕方が無いですよね」
涙を浮かべてタクミの右袖を引っ張る春名。それはいつも彼女が慰めて欲しい時にする仕草だ。
「そうだな、皆で親代わりになって育ててやろう」
タクミは春名の頭を撫でながら諭すと彼女は少しずつ元気を取り戻す。
「そうですよ! 私たちはあの子の親代わりなんですから頑張らないと!」
しばらくタクミに甘えていた春名は完全に元気を取り戻して何かを考え出す。
「・・・・・・名前はどうしましょう? ピーピー鳴いているから『ピーちゃん』でもいいんですが、何かもっと格好いい名前はないでしょうか?」
春名の言葉に全員が頭を捻る。圭子は頭の上に乗っている子供をシロの目の前に降ろすと、シロは泣いているチビっ子を慰めようとその顔を優しく舐めはじめる。ただ圭子もなぜか頭の上に乗りたがる子供に遺憾の意を表明している。やはり彼女たちにとってクッションの問題は大きいようだ。
「ファフニール!」
空が北欧神話に出てくるドラゴンの名前を思い出した。彼女もかなりの厨二病なのでこのくらいの知識は一般常識として持ち合わせている。
「いい名前ですね! ではあなたはファフニール! ニックネームはファーちゃんにしましょう!」
春名が子供を抱きかかえて命名の儀式を行う。と言ってもそんな大それた物ではなくてただ子供に言い聞かせただけだ。だがその直後子供が淡い光に包まれて、その光が体の中に入り込んでいく。
「もしかしてシロみたいに春名のペットになったんじゃないの?」
確かにそんな事がかつて有ったので春名はステータスウィンドウを開いて確認してみるとそこには・・・・・・
『ペット・・・シロ、ファフニール(ファーちゃん)』
という記載がある。そして春名の職業欄も『令嬢、アイドル』から『可愛い令嬢、アイドル』に替わっていた。令嬢が進化した事で体力2分の1というハンデが消えて、アイドルの効果で地球に居た時よりも体力が2倍になっている。ペットが増えるたびに進化する仕組みなのかどうかは良くわからないが、これで春名の体力面の不安は消えて、少しだけ逞しい令嬢になった。
全員で火龍に別れを告げて洞窟を出る一行、彼らの頭の中に念話が届く。
「行くが良い、我が子に良い名を付けてくれた事に感謝する。くれぐれもよろしく頼む」
ファフニールはシロの背中に乗っている。まだそれほど長い距離を飛んだり歩いたり出来ないので当分はシロがお守り役だ。ドラゴンが成長するためにはそれこそ千年単位の時間が掛かる。シロには兄貴分としてしばらく頑張ってもらうほかない。そのシロもどうやら年長者としての自覚があるのか、事有るごとにファフニールの様子を気にしているので安心して任せておける。
「さあ、やっとこれで街に戻れるわね! とりあえず目指すのは王都よ!」
ミハイル王子との約束もあるし、紛争の後始末を国王に依頼しなければならないので、タクミたちは王都を目指して山を下るのだった。
読んでいただきありがとうございます。次回は王都に到着するところから話がはじまります。どんな展開になるのかお楽しみに、たぶんそんなにバトル展開はなりそうもありません。感想、評価、ブックマークお待ちしています。次は木曜日に投稿する予定です。




