83 火龍
マルコルヌスの火山のお話も大分煮詰まってまいりました。いよいよ伝説の火龍との対面です。一体どうなりますか・・・・・・
洞窟の先は高さ30メートル奥行き100メートル以上ある大きな空間が広がっており、その中では巨大な物体と魔族たちの戦闘が行われていた。タクミたちの位置からは影が動いているようにしか見えないが、紛れも無く巨大な体を持つ生物だ。
そして空間の入り口に居るタクミたちの目の前には、先程彼らに襲い掛かってきた魔族が隊列を組んで行く手を阻止しようと身構えている。逃げ去った者に元々そこで待機していた者が合わさって50人程の人数が居るだろうか。
「馬鹿なやつらだな、最初から全力で掛かって来るべきだろう」
パワードスーツに身を固めるタクミは彼らの戦略のお粗末さを心の中で笑っている。予備の戦力があるならば最初から全力で当たるべきなのだ。もっともその時点で建て直しが効かないほどの犠牲が出ていた可能性は高いが。
魔族たちは次々に魔法を放つがタクミは一切無視して前進して行く。相手が武器を振り翳そうともお構い無くその頭を鷲掴みにして握り潰し、横薙ぎの手刀が魔族たちの体にめり込む。その全てが致命傷もしくは即死につながる恐ろしい威力を秘めているので、魔族たちは次第に逃げ惑うように算を乱す。
タクミが暴れている後方からは美智香が容赦なく魔法を放っている。タクミに当たっても彼のシールドが魔法を防ぐので同士討ちのリスクを考える事無く、迫雷撃の乱れ撃ちを敢行する。
魔族たちはある者はタクミに捉まり、ある者は美智香の魔法に倒れて次々にその命を落とす。例え人数を揃えたところでそのかけ離れた戦力差を覆すには至らなかった。
だがタクミも心の中で戦い難さを感じている。火山に出来た洞窟の内部という条件下で、敵をまとめて倒す大型の武器が使用出来ないためだ。万が一爆発の威力で洞窟が崩れたら、さすがに自分たちが無事では済まない。従って、面倒だが一人ずつ相手をして倒すという手間のかかる戦い方を強いられている。よって彼にとっては美智香の支援攻撃がかなり有り難い。
「美智香のおかげで大分手間が省けるな」
タクミにも何発か当たっているが其の悉くを跳ね返しているので全く問題はない。美智香の魔法は効果的に魔族たちが存在する平面を制圧しつつあった。
「うー、私も体調が良かったらあそこで大暴れしてやるのに!」
空が展開したシールドの中で圭子はウズウズしている。昨夜の痛みが引くまでは自重しているのだが、逸る心が抑え切れない。こんな事になるとわかっていたら昨夜はもう少し控えめにしておくんだったと後悔している。だがその反面、やっぱり昨日の事を思い出して結ばれて良かったと顔を赤らめたりして色々忙しい。女子の心境は複雑怪奇なものである。
そしてシールドの中のもう一人の危険人物の岬だが、彼女はタクミの戦う姿を見て満足しているのでそれ程気にする必要が無いようだ。彼女は春名や紀絵と一緒になって盛んにタクミを応援している。
手前で待ち構えていた魔族たちの掃討が済んでタクミたちは大空間内に入って行く。そこら中に頭が潰れたり黒焦げになった死体が転がっているが、もうさすがに女子たちも見慣れた光景なので今更気味悪がったりしない。
空間内は戦いの嵐が吹き荒れている。ここでも魔族50人程が巨大な物体を相手に魔法や弓などで戦いを挑んでいた。そして先程は遠くから魔法が炸裂して巻き起こる土埃などでその影しか確認出来なかった巨大な存在は予想通りドラゴンだった。
「あれが伝説の火龍ですね!」
春名の声が弾んでいる。苦労してここまで辿り着いてようやくドラゴンを発見したのだ。もっともドラゴンに会うのが今回の目的ではないが、彼女はそんな事をすっかり忘れて感動している。
「春名! 喜ぶのはまだ早いぞ! 全ての敵を倒してからだ!」
お気楽な春名に注意してからタクミはそこで行われている戦いの様子を観察する。魔族たちは殆どがドラゴンに対して攻撃を加えており、タクミたちに対して少数の者が牽制を行っている。
ドラゴンの方は魔族たちに強力な攻撃を加えずに、近くに寄ってきた者を鉤爪や牙で屠るだけで、全くその場から動こうとしない。魔族たちの魔法を全てその体に受けて傷だらけになり多くの血を流しながら、まるで何かを守るようにその場に留まり続けている。
「魔族を片付けるぞ! 美智香、今度はドラゴンに当てないように注意してくれ」
タクミはそのまま前進してこちらを向いている魔族に襲い掛かる。美智香も今度は狙いを定めて慎重に一人ずつ魔族に魔法を放つ。
「何とか食い止めろ!」
火龍をまだ仕留め切れずにいる魔族から焦りの声がこだまする。彼らは前方の火龍と後方のタクミたちに挟まれて戦況としてはかなり追い詰められている。
半分以上をタクミに振り向けて何とか凌ごうとするが、容赦無いタクミの猛攻が一体また一体と彼らを死に追いやる。その後ろからはこれまた容赦ない美智香の魔法が魔族たちの障壁を砕きながら致命的なダメージを与える。
火龍は魔族たちの攻撃が分散してその密度が薄くなったので、その巨体を前進させて鉤爪で薙ぎ払う。だが、今まで受けたダメージが大きくてその動きはタクミの目には非常に緩慢に映った。
こうして最早戦闘とも呼べない虐殺が繰り広げられて、立っている魔族は一人も居なくなった。
残されたのはタクミたちと火龍のみで、無言のまま両者は睨み合う。
「お前たちは此処に何をしに来た!」
火龍の低い声が空間内に響き渡る。緊迫した空気が流れる中で春名一人が『ドラゴンさん格好いいです!』と言いながら端末で写真を何枚も撮っている。本当にもう少し空気を読んでほしいものだ。
「話がしたい、俺たちはお前に敵対する気は無い」
パワードスーツ越しのタクミの無機質な声が響く。火龍はその様子を睨み付けているが、ふとその目から敵対心が消える。
「一応その言葉を信じよう。お前たちはこの邪魔者を倒した恩人だ」
火龍はタクミの言葉をどうやら信じてくれたらしい。彼は一安心してパワードスーツを解除する。
「信用してもらい有難い。俺はタクミ、後ろに居るのは仲間だ」
「ほう、ゴーレムかと思っていたら、あの銀色の中に人が入っていたのか! 面白い者だな」
火龍はタクミのパワードスーツに興味を抱いた。何千年という長い生涯の中で初めて目にした物だからそれは無理もない。
「これは鎧のような物だ。大して変わらない」
火龍はその説明で納得したのか大きく頷く。
どうやら話が友好的に進みそうなので、女子たちもシールドから出て来た。その中からシロが突然『キャンキャン』吠えながら火龍の尻尾に近い所に駆け寄り、盛んにその辺りの臭いを嗅ぎ回る。
そしてシロがもう一声大きく『キャン!』と吠えると尻尾の下から小さなものが顔を覗かせてシロに近づいて来る。その様子を尻尾を振りながら見つめるシロ、近づいてきたものは生まれたばかりの火龍の子供だった。その目は初めて見る存在に好奇心でいっぱいだ。
火龍は魔族との戦いで腹の下に隠れている子供を庇いその力を十分に発揮出来なかった。そのため体中大きく傷ついている。その子は自分の身を犠牲にしてまでも絶対に守りたい存在だった。
シロはペロペロと赤ん坊のドラゴンの顔を舐める。ドラゴンも不思議そうにシロの様子を見つめていたが、どうやら敵では無いと判断したのかその小さな翼を羽ばたかせてチョコンとシロの背中に飛び乗った。
「お前たちはなぜ霊獣を連れているのだ?」
その微笑ましい様子を見ていた火龍が不思議そうに問い掛ける。元々霊獣は森の奥深くや山奥に住んでおり人と一緒に行動しているというのが火龍の常識からは有り得ない事だった。
「シロちゃんは私たちの大切な仲間なんですよ」
春名が背中に小さなドラゴンを乗せて自慢げに戻ってきたシロの頭を撫でる。それを見ていた小さなドラゴンが自分もやってほしそうにしているので春名はその背中を優しく撫でる。そして2匹はともに上機嫌で春名からオヤツを貰っている。
「信じられない事だな。霊獣ばかりか我の子供がこれ程までに懐くとは・・・・・・どうやらお前たちは特別な人間のようだな」
火龍の驚愕が伝わる。ドラゴンの子供は警戒心が強く簡単に人に馴れるはずは無いのだ。
「それでは本題に入ろう」
タクミは火龍を真っ直ぐに見上げて、此処に来た真の目的を話し始めるのだった。
読んでいただいてありがとうございました。次回はタクミたちが本来の目的を果たせそうですね。投稿は火曜日の予定になります。感想、評価、ブックマークお待ちしています。




