82 洞窟内の戦闘
お待たせしました。魔族の襲撃に警戒しながら進むタクミたち。彼らの前に立ちはだかるのは・・・・・・
「どう見てもここみたいなんだけど・・・・・・」
「なんか、いかにもっていう感じがする」
圭子と美智香が高さ20メートル以上ある巨大な洞窟を前に話を始める。
魔族が姿を見せてから程なくして、タクミたち一行の前に姿を現した巨大洞窟、果たしてこの奥にタクミたちが探しているPNIシステムが隠されているのか。
「確かにあからさまに怪しいが、罠という感じもするな」
タクミもここが本物なのか判断がつかない模様で首を捻っている。
「私はここではないような気がするのですが・・・・・・」
「「よーし! この洞窟に決定!」」
春名の自信なさげな意見に対して圭子と美智香が声を揃える。以前から彼女たちが公言している通り『春名の意見が外れる方に常に賭けている』二人だ。春名にとってはそれはそれでひどい事なのだが、今までの実績が全てを物語っているため仕方が無い。
「じゃあここを捜索してみるか」
「タクミ君までひどいです!」
まさかのタクミの裏切りに口を尖らせる春名、彼女の気持ちもわからなくは無いが彼としては多数決に従っただけと心の中で言い訳をする。
巨大なドラゴンが出入りするには確かにこの位の大きさの洞窟でないと身動きが出来ないはずだ。暗くて奥がどのようになっているかわからないが、ライトで照らした範囲ではかなり先まで繋がっている。
念のためパワードスーツを展開したタクミを先頭にして中に踏み込む一行、足元はそれほどゴツゴツしていなくて、むしろ場所によっては滑りやすいほど滑らかだ。
中に進むと意外な事に入り口付近よりも明るくなっておりライトは不要だった。原因は壁一面に発光するコケがびっしりと群生しているためだ。さすがに昼間の明るさではないが、歩く分には不都合は無い。
「なんだかダンジョンみたいね」
圭子が言う通り、その雰囲気はラフィーヌのダンジョンとよく似ている。ただしダンジョンはそれ自体が持つ魔力で明るさを保っているらしい、というのは一行がダンジョン踏破後に聞いた話だ。
洞窟内の空気は安全で一行はマスクを外している。どうしても視界が制限されるので僅かな暗がりに潜むものを見落とさないためだ。シロもマスクが無くなったおかげで周囲を嗅ぎ回って異常が無いか警戒出来るようになった。
「シロちゃん、何かあったらしっかり教えてくださいね」
「キャン!」
春名の言葉に尻尾を振りながら返事をするシロ。本当に賢い犬だ、ついでにしっかりオヤツも貰っている。
5分ほど進むと突然シロが立ち止まり前を見つめる。その毛が逆立って『ウー』と小さな呻り声を上げ始める。
「空、全員にシールド!」
タクミは一人で前進して女子たちは空のシールドの中に入る。本来だったら圭子も一緒に敵を迎え撃つのだが、昨夜の事があって戦闘力の半分も出せないと判断して自重している。いくら鍛えているとはいえ、女子は色々とデリケートなのだ。ただ圭子自身がデリケートかどうかという判断はこの場では致しかねる。
タクミの予想通りに彼とシールド内の女子に向けていくつもの方向から魔法が放たれた。『火』『風』『氷』『雷』『闇』といったあらゆる属性の魔法が立て続けにタクミたちに襲い掛かる。魔法の集中砲火の中ですでに女子たちからはタクミの姿が確認出来ない。
空が展開したシールドは問題なく魔法を跳ね返しているが、一人で前進したタクミは果たして無事なんだろうかという一抹の不安が広がる。
その場所は大勢が伏せるのに最適な所だった。やや広がった小ホールのような空間にいくつもの鍾乳石の石筍が並び、姿を隠す場所に困らない。
魔法の集中砲火が一段落して、その影から敵が姿を現す。やはりその異形の姿はタクミたちの前に幻影として現れた魔族だった。
「これだけの攻撃を浴びてもはや影も形もなくなっているはずだ。やつらが死んだ形跡を探せ!」
煙と水蒸気でもうもうとしていた空間が少しずつ晴れてくる。魔族たちは30人ほどがタクミたちがいた方向に前進を開始する。
そして突如一番前を進んでいた魔族が動きを止める。
「ギャーー!」
まったく何も無かった所から出現した白銀の巨体に首を掴まれて『ゴキリ』という音とともに首の骨を折られた。
「ドサッ」
白銀の巨体は何事も無かったかのようにその魔族の体を脇に投げ捨てる。もちろんそれはタクミだ。
彼は魔法による攻撃をシールドで跳ね返しながら、パワードスーツのステルス機能をオンにしていた。そこにいるのかまったくわからないように周囲の風景に光の反射を同調させてることで、敵の目を欺くためだ。今まではこのような小細工を弄するまでも無く圧倒的に敵をねじ伏せていたのだが、今回は洞窟の中で敵の数もわからない状態だったので慎重に対処した。
「ご苦労なことだな、俺たちの前に姿を見せたのはこの罠に誘い込むためだったのか」
無機質な声が響く。
「化け物が! 攻撃を再開しろ!」
魔族たちが呪文の詠唱に入るとタクミは再び姿を消す。標的を見失った魔族たちは右往左往して何処に狙いを付ければよいのかマゴ付いている。
そのうち端の一人が声を上げる間も無く体を硬直させた。そして『ドサッ』という音とともに地面に投げ捨てられていく。当然首の骨が折られているのは言うまでもない。
「ひー!」
その光景を見て近くに居た魔族から恐怖の声があがる。姿が見えない敵から攻撃を受けるという恐怖に耐えられなかったのだ。
だが、そんな事にはお構いなくタクミが次々に首を刈っていく。もはやプ○デター状態だ。半分の魔族が倒れたところで彼らは洞窟の奥に算を乱して逃げていく。
「タクミ君、ちょっと怖かったです!」
春名からすればその光景はホラー映画のように映っていたようだ。何の前触れも無く首を折られて死んでいくのだからそう映るのも無理はない。だがタクミはこの条件下で最も安全に敵を始末しただけの事で全く気にしていない。
「便利すぎて何も言えないわ」
圭子はその機能に呆れている。姿が見えなければ反撃のしようがない。それは彼女にしてみれば、最強すら通り越して逆に卑怯に感じるほどだ。
「いつかは使うとは思っていたけど、バッテリーの消費が激しいのが難点」
美智香はパワードスーツの保有者だけあってその特性をよく理解している。彼女のパワードスーツにも同じような機能が搭載されているが、廉価モデルなのであそこまで完璧に姿を眩ます事が出来なかった。返す返すメンテナンスで本星に送っていた事が悔やまれる。こんな強力な武装が2体あればもっと楽になっていたはずだ。タイミングが悪過ぎる。
「やつらを追いかけて先に進むぞ」
タクミの指示で隊列を組み直して前進する一同。一番前は相変わらずタクミが努めている。
「ねえ、音が聞こえてくるけど」
タクミの横を歩いている圭子が、奥から聞こえる地面が響くような低い物音に気が付く。それは何か大きなものが動いているようなズシンという音だ。
「やっぱりドラゴンさんが居るんでしょうか?」
春名は魔族に襲われた事もすっかり忘れて頭の中がドラゴン一色に染まっている。この非常事態に及んで脳天気にも程があるが、彼女だけでなく女子一同は多かれ少なかれ似たようなものだった。
タクミはこの時心から思った。
『女というのはどこまで図太い生物なんだろう・・・・・・』
タクミの周囲にこのような女子が偶然集まった結果であり、世の中の女性全てに当てはまることではないが、あまり異性と接したことが少ないタクミにとっては彼女たちが世の中の女性の代表だ。止むを得ない事だと勘弁してほしい。だが、女性はおばちゃんになるほど・・・・・・という傾向が強いのも事実だ。
その後魔族たちの抵抗は無く音の方向に進むタクミたち。
そしてついに彼らの前に現れたのは・・・・・・
読んでいただきありがとうございました。次回は洞窟の先にあるものが明らかになります。一体何が待ち受けているのか・・・・・・
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