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80 事故をきっかけに

お待たせしました。いよいよ火山に辿り着いたタクミたちですが、とりあえず山頂を目指して進みます。途中で衝撃的な出来事が・・・・・・あれ、大した事なかったかな?

 タクミたちはマルコルヌスの火山に足を踏み入れている。麓の一帯は他の山と変わらず鬱蒼とした森だったがそれは歩くにつれて背の低い潅木の群生地に変わり、今は所々に草が生えているだけの石ころと瓦礫に覆われた土地になっている。


 これは高度の関係の他に、所々で噴出する火山ガスが植生に影響を与えているのであろう。何の用意もしていない者は場合によってはこのガスで命を落としかねない。


 タクミたちは空が取り寄せたガスマスクを頭から被って瓦礫と化した斜面を登っていく。かなり急な斜面もあってその分石や瓦礫が崩れやすく慎重に歩かないと滑落の危険が伴う。


「本格的な登山ですね」


 マスクの中でくぐもった声で紀絵がつぶやく。彼女は山に登った経験が全く無くて、危険な事はわかっているのだがどう対処してよいのか不安な様子だ。足取りもつい遅れがちになる。


「出来るだけ前の人が踏みしめた所を通ってください」


 岬は月でロッククライミングの経験があるそうだ。もっとも月の重力は低いので、転落してもそれ程危険は無い。ただ此処よりももっと険しい場所を踏破した経験は貴重で、彼女のアドバイスに素直に従う紀絵だった。


 標高が高くなるにつれて酸素が薄くなり人によっては極端に活動が鈍る事がある。息が切れて満足に動けなくなるのだ。だが空が用意したマスクは有害な物質を排除するとともに、必要な酸素も供給してくれる優れ物で山を登る彼らには最適だった。


「確かにこの世界の人間にとっては魔の山かもしれないな」


 タクミの言う通り満足な装備を持たないこの世界の冒険者にとっては、酸素濃度、気温、強風、ガス、これら全てを克服するのは非常に困難だった。そしてようやくこれらを克服しても、たどり着いた先にドラゴンが待ち受けているのだから、普通の人間にとっては死地に向かうのに等しい。


 だが、装備が整っているタクミたちとっては『注意して進めば何とかなる』それほど危険な場所ではなかった。


 このように一歩一歩確実に前進していくタクミたちだが肝心な問題が解決していない。それは一体この山のどこにPMIシステムが隠されているかという事だ。


「さすがにこれだけ大きな山を全部調べるわけにはいかないわよねー」


 圭子がため息交じりに口を開く。確かに富士山とほぼ同じ規模の山の隅から隅まで捜索するのは無理だ。例えば富士山の麓には無数の溶岩が通った穴がある。風穴などと呼ばれており中に潜る事も出来るが、一つの穴を隈なく探すだけでも大変な労力が必要だ。


「こういう時は春名の勘に頼るしかない」


 美智香は以前ダンジョンで『春名の事は外れる方に信じている!』と堂々と言い放っていた。彼女としては今回も春名の勘とは反対に進む事を提案しているのだ。


 そうとは知らずに春名は自分が当てにされているのが嬉しいらしい。


「そうですよ! ここは幸運度が常に最高の私に任せてください! きっと目的地を見つけてみます!」


 自信満々の春名だがどこからこの自信が湧き出てくるのか周囲は不思議でしょうがない。ヘタレなくせにこれだけポジティブに物を考えられる春名は、もしかしたらとんでもない大物かとんでもないアホのどちらかだろうというのは全員の一致した意見だ。


 本当ならばシロに何か手掛かりを探してもらいたいのだが、シロもガスマスク(ペット用)を着けていて肝心の臭いを全く嗅ぎ取れない。シロは何とかしてガスマスクを取りたいようだが、岬に『外してはいけません』と怒られて素直に従っている。もしもの事があってからでは遅いのだ。


 手掛かりが見つからずに仕方なく上を目指す一行、そのとき突然山の上の方から音がする。


「ガラガラガラ」


 タクミが上を見上げると大きな岩がいくつも彼らに向かって落ちてくるところだった。


「空! シールド展開!」


 タクミの指示で0.5秒後には女子たちはシールドに覆われる。タクミはパワードスーツを展開して彼女たちとは別に落石を避けていく。というよりは何トンもある岩を拳で砕いている。上から大きな運動エネルギーを持って迫る岩に対して、パワードスーツの出力を最大にして全く問題にせずに砕いていった。


 落石が治まってみるとタクミの周囲は小さく破壊された岩で埋まり、その隣の女子たちは完全に崩落した岩石の中に閉じ込められている。シールドに包まれている限りは安全だが、これでは全く身動きが取れない。


 タクミは自分の周囲の瓦礫をどかして、女子たちが埋まっている岩をどけていく。何トンもある大岩でも大型重機を上回るパワーで軽々とどけてすぐに彼女たちの姿が見えてくる。


 中では閉じ込められて不安そうにしていた女子たちもタクミの救助がすぐにやって来たので、ホッとした空気がシールド内に流れている。


「こういう時は役に立つわね」(圭子)


「圭子ちゃん、こういう時もですよ!」(春名)


「おかげで助かったからいいじゃない」(美智香)


「怖かったです」(紀絵)


「ご主人様に任せておけば安心ですよ」(岬)


「どうせなら土木作業員の格好で汗を流しながら救助してほしかった。躍動する筋肉が見れない!」(空)


 どうでもいい空の意見は完全に無視して、シールドの中で喜び合う女子たち。程無くして全員が外に出てくる。


「今回の働きは褒めてあげるわ」


「気にするな、仲間だろう」


 上から目線の圭子の言葉にそっけない返事のタクミ、だが彼女はその返事にやや不満そうな顔をしている。


「圭子ちゃん、こういう時は素直に『タクミ君、格好いい!』って言えばいいんですよ」


 横から春名がそんな圭子の態度をからかいはじめる。その隣では岬も『うんうん』と大きく頷く。


「そ、そんなこと言う訳ないでしょう! こ、こんなガンダ○みたいなやつどこが格好いいのよ!」


「あれ? でも圭子ちゃんってガンダ○のファンですよね」


 春名の鋭い突っ込みになぜか顔が真っ赤になる圭子、さらに紀絵がそこに加わる。


「私はガンダ○ってよく知らないんですが、タクミ君はすごく格好いいですよね!」


 同意を求められた春名と岬は大きく頷いている。


「な、なによ! それとこれはまったく別なの!」


 圭子は強がっているが、真っ赤になった顔を全員に見られていることに気が付かない。女子たちは心の中で『ははー・・・・・・これはおそらく』と気が付いているのだが、敢えてそこに触れる者はいなかった。


 だが・・・・・・


「圭子、そんな真っ赤な顔をしてどこか悪い所でもあるのか?」


「バカー!!」


 全く無神経なタクミの指摘に圭子は逆切れしてタクミのボディーに跳び蹴りを入れる。彼女自身もどうしてよいのかわからなかったので、とっさに暴力的な行動に出てしまったのだ。


 だがパワードスーツを装着したままのタクミは圭子の体ごとガシッと受け止める。まるでタクミに抱っこされたような格好になって圭子は固まっている。


「まあ圭子ちゃん、ずいぶん積極的ですね」


 ついに岬の言葉が引き金を引いた。


「もう私の事は放っといて・・・・・・」


 それだけ言うと圭子はタクミの腕の中で泣き出しはじめる。彼女自身何故泣いているのか理解出来ないのだが、次々に目から涙が溢れて止まらない。こんなに訳もわからずに泣いた事なんて生まれて初めてだ。


 この時一番うろたえているのが他ならぬタクミだ。自分の腕の中であろう事か圭子が泣き出したのだ。天地が引っ繰り返っても絶対に有り得ない事が起こってどうしてよいのかわからない。


 泣きじゃくる圭子を見て女子たちはスッとその場を離れる。煽るだけ煽っておいて無責任のようだが、この先はタクミに全て託そうというのが彼女たちの意思だ。 


 頼みの女子たちが次々にその場を離れて呆然とするタクミ、もうこの状況を収拾出来るのは自分しかいない。


 タクミはゆっくりと圭子を降ろして近くの岩の上に座らせる。そして武装を解いて自分もその隣に腰を下ろした。


 まだ泣いている圭子の肩をそっと抱き寄せるタクミ、圭子は素直に体を預けてくる。彼女の暖かな感触を感じながらそっとガスマスクを外す。


 圭子は何も言わずに涙を拭いてタクミの頬に顔を近づけて本当に軽く口づけをした。


「ありがとう、好き」


 ようやく本心を告げる事が出来て恥ずかしそうにはにかむ圭子、タクミはそっと彼女の顔を引き寄せてそのピンク色の唇に優しく口付けをする。まだ涙の跡が残ってはいるが、その涙が圭子の心にあった余計な物を全て洗い流したのだろう。彼女の表情はすっきりとしている。


「2度目だな」


 かつてダンジョンの中で偶然にキスをしてしまったことがあった。あの時は本当に偶然だったが今回は全く意味が違っている。圭子もあの時の事を思いだして少し恥ずかしそうにしているが、今では良い想い出の一つに感じられる。


 そのまましばらく寄り添って二人っきりの時間を過ごすタクミと圭子だった。


  

読んでいただいてありがとうございました。次回はいよいよ火山の中心部に潜って行きます。(たぶん)


この章はあと3話ほどで終わってその次はまた新展開が始まる予定ですが、果たしてその通りになりますか・・・・・


引き続き感想、評価、ブックマークお待ちしています。次回の投稿は水曜日の予定です。

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