8 再会
第8話です。夜に9話を投稿します。たくさんのブックマークありがとうがざいました。
夕方前に町に戻ってタクミ達はギルドにいる。
「捕ってきた獲物の買取はここですか?」
最も奥にあるカウンターでタクミがどう見ても冒険者上がりの係員の中年男性に尋ねる。
「ああ、ここだよ。何を捕ってきたんだ」
「ホーンラビットが13羽と、あとデカイのがいるんですが・・・」
タクミが言い難そうに答える。何しろあんな大きなワイバーンなど買い取ってもらえるのかわからなかったのだ。
「デカイってどのくらいあるんだ?」
タクミが提示したEランクのカードを見ながら係員が聞いてくる。Eランク風情の若造が一体何を討伐したのだろうと不審な目を向けている。
「えーと・・・10メートルぐらいのワイバーンなんですけど」
「なんだって! もういっぺん言ってみろ!!」
食いついてくるような勢いで係員がタクミに聞き返す。その目は先程とは打って変わって真剣そのものだ。
「ですから、10メートルくらいのワイバーンです」
改めて聞いてから係員は呆れたような表情になった。それと同時にEランクの駆け出しが一体どうやってワイバーンを仕留めたのだろうという疑問が浮かぶ。
「わかった、とりあえずホーンラビットだけここに出してくれ、ワイバーンは後回しだ」
言われた通りにタクミが収納から獲物を取り出す。
「確認したらすぐに金を渡すからちょっと待っていろ」
そう言われてタクミが近くのベンチに座っていると突然入り口の方向から聞き覚えのある声がかかった。
「タクミじゃないか! お前達も冒険者になったのか?」
そちらの方を向くと例の体育会系男子のパーティーが5人で立っていた。声をかけたのはリーダーの林 勇造だ。
彼らのうちラグビー部の二人が丸太に吊るした100キロ級のイノシシを担いでいる。こんな重たい獲物を丸ごと担いでくるという発想そのものがパーティー全体の脳筋度合いを示している。普通の冒険者ならばその場で解体して価値の高い部分のみを持ち帰ってくるのだ。タクミたちのように10メートルを超えるワイバーンを収納にしまって持ち帰るなどという行動は、一般の冒険者からすればまるで夢のような出来事なのだ。
「ああ、たった今戻ってきたところで、今日はホーンラビットを捕ってきた」
タクミが答えたところで彼らはカウンターにイノシシを降ろしている。その他にも腰にホーンラビットを括り付けているメンバーがいるのでかなりの大漁だ。
「どうだ俺たちの成果は! 一日でこれだけってのは大したものだろう!!」
勇造が自慢げに言う。確かに冒険者になったばかりでこの収穫は大したものだ。
「なかなかやるな。危ない目には会わなかったのか?」
「このイノシシは結構やばかったな。突っ込んでくるスピードが半端なかった! でもあの二人ががっちり受け止めて俺が仕留めたぜ!!」
さすがラグビー部と空手部だ。そんな会話をしているうちにタクミの分の清算が終わった。
「はいよ、ホーンラビット13羽で金貨3枚と銀貨9枚だ。大物の方はこの兄さんたちの計算が終わってからでいいかい?」
頷きながら金を受け取るタクミに勇造が話しかけてきた。
「おい、大物って何だよ! 俺たちもついて行っていいか?」
「構わない」
全ての清算が終わってから裏の解体場に連れていかれるタクミ達。
「いいぞ、ここに出してくれ!」
係員の許可が出たのでタクミは収納からワイバ-ンを取り出す。
『ドシーーン』
頭から尻尾の先まで10メートルを越える灰色の巨体が姿を現した。
「なんだこりゃ! どうやって倒したんだ?」
勇造をはじめとして男達が目を丸くしている。いきなりBランク以上の冒険者が10人体制でやっと仕留められるワイバーンがこの場に現れたのだから無理もない。
「美智香が魔法で打ち落として圭子が止めを刺した」
「お前は何をしていたんだ?」
「ただの役立たずだ、おかげで雑用と力仕事を全て押し付けられている」
勇造は無言でタクミの肩に手を置いた。その手には『お前も苦労しているな』という意味がこめられている。
「ところで圭子達はどこにいるんだ?」
勇造と圭子は時々学校の道場で組手をする仲だ。勇造は圭子に比べて技の多彩さでは劣るものの、そのパワーで常に彼女と互角の勝負を繰り広げている良きライバルだ。
圭子と互角という時点で勇造もかなりの化け物だし、彼のパーティーのメンバーも皆似たようなものでかなり優秀なパーティーといえる。
「彼女たちは飲食コーナーで休んでいる」
「じゃあ、挨拶ぐらいしておくか」
そういって男達はゾロゾロと飲食コーナーを目指した。ちなみワイバーンの清算は明日になった。
「よう! 城を出て以来だな」
勇造が声をかけた時、彼女達が座っている席の横で見知らぬ男性冒険者がしつこくナンパをしていたらしく、圭子にむこうずねを蹴飛ばされて悶絶していた。
「あれ、勇造達冒険者になったんだ!」
「冒険は男のロマンだろう、俺達はここから50キロぐらい北にあるダンジョンを目指しているんだぜ」
彼の言葉を聞いた女子一同の目が輝いた。その様子に気がついたタクミは心の中で『また余計な事を!』と叫んだ。どうせそのような話を聞きつけた彼女たちはその気になるのが目に見えているからだ。
ひとしきり彼らを交えて話をして『悪いが先に戻る』と言って男達は去っていった。
「皆さん聞きましたか! ダンジョンがあるそうですよ!!」
早速ポンコツ令嬢が切り出す。
「行くしかないでしょう!」
圭子が賛同する。
「おおー!!」
いつもの流れだ。
「まてまて、ダンジョンに行くにしてもすぐは無理だぞ」
あえてここはタクミが慎重な意見を述べる。でないとこの女子達はどこ迄も突っ走っていくからだ。
「ええー! すぐに行きたいです!!」
春名が頬を膨らます。ポンコツな癖にやる気だけはあるから手に負えない。
「いくらなんでもお荷物をしょってダンジョンに潜る訳にはいかないだろう。せめて春名の『ポンコツ』の文字が取れてからだ!」
「ええー! 私のせいですか?!」(春名)
「確かに」(圭子)
「一理ある」(美智香)
「ポンコツの方がお世話のし甲斐があります!」(岬)
「ポンコツ・・・・・・何かのネタ?」(空)
こうして春名以外全員一致で、彼女の『ポンコツ脱出作戦』が遂行されることとなった。
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