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76 Aランカー

お待たせいたしました。タンネの街で作戦を進めるタクミたちはいよいよ子爵の本拠地に向かいます。

 タクミたちは2番目の拠点の制圧を終えて門の外に出て次の襲撃の打ち合わせを始めている。


 最初の拠点に続いてここも彼らにとっては全く問題なく中にいた悪党どもを30分掛からずに全滅させていた。


 特に変わった事をしたわけではなく、タクミが裏から圭子が正面から突入して外に逃げ出す者たちは待ち構えていた美智香が魔法で全て殺処分していった。


 殆ど抵抗らしい抵抗も出来ずに彼らの手に掛かり次々と命を落としていくゴロツキたち、だがこれまでの彼らの悪行を考えればこの措置は至極当たり前の事だった。




「それで、残った子爵の館はどうするの?」


 暴れる機会を連続で逃してきた鬱憤が少し晴れた圭子はかなりその表情が和らいでいる。普通はこのような多くの血が流れる場面では、誰でもその表情は厳しくなるかもしくは流れる血を見て嫌な顔をするかといったところなのだが、彼女にはそのような一般論は当てはまらないようだ。


 『戦えば戦うほど気分が良くなってくる』という本人の言葉通りで、彼女自身は絶対に認めないが正しく『戦闘狂』に他ならない。


 彼女の脳内のリソースは『格闘5割、鍛える事4割、アニメ(主に格闘モノとロボットモノ)が残りの1割』というとてもシンプルな構成となっている。


 一度春名が『圭子ちゃんは恋愛とか興味がないんですか?』と聞いてみたところ帰ってきた答えは・・・・・・


「そんな事してたら弱くなるし、鍛える時間が減る!」


 という彼女らしい返答だった。それ以来圭子には誰も恋愛を勧める者はなく、荒れ果てた荒野を一人で突き進むような寂しい状態が続いている。もっとも本人は『これぞ修羅の道!』と全く気にはしていないようだが。


 このパティーにはもう一人岬という人工的に手を加えられた遺伝子のせいで暴力的な思考に陥りやすい厄介な性格の女子がいるが、彼女は普段はごく当たり前の思考が出来る点を考えると、むしろ圭子のほうが症状が重いのかもしれない。




 用件を早く片付けたいタクミたちは足早に子爵の館に移動していく。


 館は街の東側の少し高台になった一等地にあり、高い壁と広い敷地の中にある石造りで2階建ての大きな建物だ。もっともタクミたちが見てきた王宮や他の貴族の豪邸と比べると、子爵という位に準じた規模の建物という事になる。


「手筈はさっきと同じで行こう!」


 建物が見える所で待機していた圭子たちの元に偵察に出ていたタクミが戻ってくる。建物の造りや出入り口を確認したところ、あまり襲撃を考慮して造られてはいない様子で、出入り口も正面とその横の通用口だけだった。


 子爵邸の中はタクミたちの襲撃に気がついている様子は全く無く、通常の警備が行われているだけのようだ。その警備体制もシェンブルグの兵士たちが全て街の外に終結してしまっているせいで、非常に手薄となっている。


「全滅させていいの?」


 圭子は舌なめずりしながらタクミに聞く。本日3度目のお楽しみの時間が待ちきれないらしい。しかもここが一番人数が多いので歯応えのある相手に出会うかもしれないという期待がある。


「子爵本人は生かして捕まえる。後でオットベルン伯爵に引き渡して、講和を結ぶための材料にするからな」


 タクミのプランでは、これで最北の街まで到達するための道筋が開けるはずだ。首謀者の一人の身柄を引き渡せば、伯爵もそれ以上の事を言ってくる可能性は低い。もしガタガタ言うようだったら、実力を示して黙らせるまでの事だ。


 タクミは北部での紛争の終結を目指している訳ではない。あくまでも自分たちの都合が優先で、火山まで行くルートの確保が目的なのだ。従がってその後の北部の貴族たちの勢力図がどうなろうが知ったことではないが、一応は平和裏に紛争が終結するような話し合いに持ち込むためのプランも用意はしている。


 そしてそのためには子爵の身柄の確保は絶対に必要な重要事項だった。


「準備はいいか? よし行くぞ!」


 タクミのゴーサインとともに、館への侵入を開始する3人。入り口にヤル気無さそうに立っていた左右の門番が彼らを咎めるが、タクミのナイフと圭子の拳骨で地面に崩れ落ちる。


 入り口からざっと見渡して前庭には20人ほどの人相の悪い連中がいたので、タクミは美智香に排除を依頼する。


「アイスアロー!」


 美智香のパネル操作でその左手から放たれた氷の矢は次々に彼らに襲い掛かりその胸や腹に突き刺さる。美智香もタクミと同じように惑星調査員の初期訓練過程を終了しているので、殺人に対する忌避は全く持っていない。むしろタクミよりも冷静に邪魔者を排除していく。


「この場は任せるぞ」


 タクミは美智香にそう告げると圭子とともに館の内部に侵入を開始する。タクミはすでにパワードスーツを展開しており、右手にはナイフ左手にはブラスターガンを握った状態に移行している。惑星調査員の戦闘形態標準仕様のタクミに対して、圭子は両手に嵌めた大地の篭手とオリハルコン製の胸当てを装備しているだけのいかにも軽装だ。


 それでいながら臆する事も無く剣を持った相手に向かって飛び掛っていくのだから、その度胸と格闘センスは一級品に他ならない。


「とりゃー!」


 圭子の気合の入った声が響くたびに、その拳を叩き込まれた男が宙に舞い上がって床に叩き付けられていく。館内にいるゴロツキたちでは圭子の動きに付いていけなくて、遠巻きに彼女を包囲して何とか押し包もうとするが、全ては虚しい努力だった。


 圭子は包囲の穴を見つけてそこから確実に各個撃破を繰り返していく。そのたびに二人三人とまとめて兵士たちが宙に舞っていく。


 大立ち回りを演じている圭子とは対照的にタクミは効率重視で遠くの敵はブラスターガンで対処、近づいて来た者はナイフで急所をグサリと数を減らしていく事を主眼に置いて戦っている。


 時折敵わないと見て玄関から外に逃げ出そうとする者が出てくるが無理に追う必要は無い。外には美智香が魔法をスタンバイさせて待ち構えているのだ。彼女が取り逃がす事などある筈が無い。


 1階のフロアーにはすでに40人ぐらいの男たちが床に転がされている。彼らは身動きひとつしないところを見るともうすでに息が無いのだろう。タクミの攻撃もそうだが、圭子の一撃は体の急所を的確に打ち抜いているので当たった時点でほぼ即死若しくは致命傷の恐ろしい拳だった。まるでどこかの伝承者のようだ。


「大体片付いたわね」


 すでに1階で動いているのはタクミと圭子の二人だけになっている。


「このまま2階の掃討に移るぞ」


 だがその時、2階から降りてくる足音がフロアー全体に響く。階段の踊り場に重たい金属鎧を身に着けて一人の男が現れた。


「好き勝手に暴れやがって、おかげで酒が不味くなるだろうが」


 大振りの剣を右手に持つ男は不機嫌な顔をしてその場に立っている。年の頃は中年に差し掛かったばかりだが、身にまとう雰囲気は中々強そうな気配を漂わせている。


「ふふん、ようやくまともなのが出てきたじゃない! タクミ、こいつは私の獲物だから2階は任せるわ」


 圭子は待ち望んだ強い相手との対戦で心が踊っている。登場した男に対して感謝状の一枚も手渡したいくらいだ。


「なんだ、俺の相手はそこのデカイやつじゃないのか? まあいい、威勢のいい嬢ちゃんを片付けてから、銀色のやつも切り刻んでやるからそこで待っていろ!」


 男は片手に剣を持ったままゆっくりと階段を降りてくる。その足取りや視線の投げ方は圭子から見ても中々隙がない。


「ふん、随分とやってくれたな! 俺は元Aランクの冒険者で『疾風のアルナス』という者だ。用心棒という仕事だからな、お前たちに恨みは無いがこの場で死んでもらうぞ」


 名乗りを上げた相手を見つめて圭子はニッと獰猛な笑みを漏らす。それはあたかも獅子がようやく獲物を発見した時のようだ。


「そう、私は現役のAランク冒険者の圭子よ。あなたの腕が錆付いていない事を期待するわ」


 圭子はアルナスを油断ならない敵と見定めその隙を窺う。


「圭子、お言葉に甘えてここは任せるぞ」


 タクミは圭子を信頼してその場から離れて階段に向かう。圭子の獲物に下手に手を出すと後が怖いのだ。


 タクミの姿が消えたフロアーで向かい合う二人、つまらなそうな表情のアルナスに対して熱い戦いに期待して笑顔の圭子。


 Aランカー同士の一騎討ちの火蓋が切って落とされた。



読んでいただきありがとうございました。次回は圭子の戦いの決着になります。もちろんその後の話もあります。投稿は火曜日の予定ですが、来週は忙しくなりそうなので遅れたらごめんなさい。


感想、評価、ブックマークお待ちしています。


それからお知らせがあります。この小説と同時に連載しています【最強の兄と妹たちの異世界転移~与えられた使命は『勇者を始末すること』】がついに100話に到達いたしました。この小説の登場人物たちのモデルになった小説です。興味のある方はぜひご覧になってください。下記のURLもしくはNコードを検索してください。


この小説のURL : http://ncode.syosetu.com/n2600dj/


Nコード  N2600DJ 

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