71 フォッセンの街
お待たせしました。タクミたちは次第に北上していきます。彼らの行く手には・・・・・・
フォッセンに向けて街道を進むタクミたち、ギルドで聞いた話によるとこの街道沿いの至る所で戦闘が繰り広げられているとの事だったが、今のところ自分たちに戦火が迫ってくる兆候はない。
「意外と平和なのかな?」
御者台の圭子が半分面白くなさそうにつぶやいているが、安全に通ることができればそれに越したことはない。
しばらく進んで街道から少し外れた所で昼食の準備を始めている時に、見張りをしている圭子が異変を察知した。
「大勢でやって来るよ! 数は300近く!」
彼女の報告に昼食の準備は一時停止して戦闘隊形に移行する。パワードスーツを展開したタクミを先頭に圭子と美智香が後ろに控える。
非戦闘員の皆さんは馬車の中に入って空がシールドを展開している磐石の布陣だ。
「また戦いになるのでしょうか?」
春名がつぶやく。彼女は基本的に平和主義者で、あまり戦う事自体が好きではない。もちろん身を守る必要性は否定していないが、出来る事ならみんなが仲良く過ごす事が一番だと思っている。
「相手の対応次第でしょうね」
岬はその血に飢えた衝動がタクミとの夜の営みを繰り返す事で大幅に緩和されている。以前は戦いを目の前にすると飛び出したくてウズウズしていたのが、冷静に状況を見極める事が出来ている。
「タレちゃんはタクミといい事をいっぱいしているから幸せ。早く私も同じように扱って欲しい・・・・・・」
空はどれだけ自分からアプローチしてもタクミが応えてくれない事に少々不満を持っているが、それでも岬を応援している。それに岬とタクミの色々な事を妄想するだけでも結構いけることに最近気が付いた。
「空ちゃんはまだ小さいから絶対にダメです! もう少し成長してからにしてください!」
紀絵はタクミたちと一緒に外に出ようとしたが『危険だから中にいろ』と言われていた。彼女自身は補助魔法と回復魔法しか使えないので、乱戦になると身を守る術が無いためだ。
そんな彼女も早くタクミと結ばれる事を願っているが、まだ彼が手を出してくれなくてヤキモキしている。空に先を越される訳にはいかない。
「サイズはともかく、精神的には大人のはず!」
空は頬を膨らませて抗議をするが、他の女子はタクミがロリコンに目覚めることを警戒している。一応年齢は日本の法律で結婚が認められる16歳だが、その見かけがあまりにも幼いため止むを得ない事だった。
馬車の中ではこのようなのんきな会話が繰り広げられているが、外では緊張状態が発生している。
「貴様たちは何者だ!」
タクミたちを取り囲むように兵士たちは武器を抜いて今にも襲い掛かってこようとしている。
「昼飯の邪魔だ、失せろ!」
だがそんな兵士たちの様子など歯牙にも掛けないタクミはデーザーガンを構えていきなり発砲する。
次々に倒れていく仲間を見て後続の兵士たちはタクミたちに襲いかかろうとするが、圭子と美智香の対応が早い。
「タクミ一人にいい格好はさせないよ!」
「アイスブリザード!」
圭子は接近してくる兵士をその拳であっという間に叩きのめし、美智香は弓を構える一団に向けて氷弾と風の刃の嵐を飛ばしていく。
300人近い兵士たちは10分も持たすに全員が地面に転がされた。美智香や圭子は最近加減が上手になって死者は出ていない模様だ。呻き声を上げながら何とかこの場から逃げ出そうとしている兵士を引きすり起こして、タクミが尋問を開始する。
「お前たちはどこの貴族の部隊だ?」
胸倉を掴まれて苦しそうにもがいている兵士はその両手で体を引き離そうとするが、パワードスーツに身を包んだタクミはビクともしない。それどころか出力を上げてさらに締め上げていく。
「頼む、話すから助けてくれ!」
擦れた声をやっと絞り出して兵士は抵抗を辞める。それと同時にタクミの腕がその体から外されて、地面に転がされる。
「俺たちはノイマン子爵の騎士団だ。領内で敵の兵力が撤退を開始するとの情報が入ったので追撃をするために出動した」
バルシュタインのギルドで聞いた話の通り、ノイマン子爵とバンジー伯爵(タクミたちはこう呼んでいる)は対立関係にあることが実証された。そして、タクミの脅迫通りにシェンブルグの街から出兵した兵は撤収の準備に入っている事も確認が取れた。ここまではタクミの想定内に事は進んでいる。
「そうか、ノイマン子爵の軍勢か。お前たちの隊長をここに連れて来い」
タクミの言葉に逆らう気力も無い兵士はデーザーガンを喰らって意識を失っている隊長を何とか担ぎ上げてタクミの前に連れてくる。タクミは美智香に頼んで空を呼びに行かせ、回復魔法を掛けて目を覚まさせる。
ようやく意識を取り戻した隊長に向かってタクミはギルドの依頼書を取り出して見せる。
「俺たちはこの依頼のためにノイマン子爵の所に向かう冒険者だ。お前たちが子爵の所まで案内してくれれば、俺たちに襲い掛かった事もたった3人に全滅しかけた事も黙っててやる。どうするかお前が決めろ」
隊長は首を縦に振った。それ以外に選択肢が無かった。隊の全員が地面に転がされる中で、自分がまだ生きていることが信じられない。その気になれば目の前にいる者を皆殺しに出来たはずが彼らは手加減をして死者を出していない。最早彼らに逆らう事は隊長にしてみればせっかく助かった命を捨てることに他ならなかった。
地面に転がっている隊員は空が全体に回復魔法を掛けて、歩ける程度にはなっている。彼らに先導させてノイマン子爵の領内に悠々と入っていくタクミたちだった。
隊長に案内させて子爵邸に入ったタクミたちは使用人に用件を伝える。執事姿の男性は彼らの話を聞いて慌てて子爵に取り次いだ。どうやら彼らはこの件でかなり焦っていたらしい。
応接室に通されて出されたお茶を飲んでくつろぐタクミたち、ラフィーヌの街で通された伯爵の応接室は華やいだ装飾が至る所に施されて明るい雰囲気を醸し出していたが、この国は総じて装飾が乏しく質素な印象を受ける。街全体もあまり飾り立てない落ち着いた雰囲気で、それがこの国の国民性というものなのだろうか。
「お待たせした、私がノイマン子爵だ。この度は依頼に応じてくれたことを感謝する」
気さくな表情で握手を求める子爵。彼の衣服もそれ程華美な装飾が無く、その態度とともにタクミたちには好感を与える。
「これがギルドの依頼書で、それからこれが大蜘蛛の糸で作られた反物になる。確かめて欲しい」
タクミは収納から取り出した反物一反をテーブルに出す。その品を見た子爵の表情がたちまち明るくなった。
「助かったよ。一人娘の婚礼のためにドレスを作ろうとしたんだが、この戦乱で商人たちは移動する事が出来なくて流通が止まってしまった。手を尽くして何とか手に入れようとしていたのだが、これでようやく婚礼を迎えることが出来るよ」
手放しで喜ぶ伯爵にタクミはこの付近の紛争の事情を聞きだす。
「俺たちの目的地はマルコルヌスの火山だ。そこに行くまでに紛争地帯を抜けていかなければならない。何か情報は無いか?」
子爵は彼らの目的地を聞いて驚いた表情をしている。何しろ場所が場所だ。
「マルコルヌスの火山! 君たちは正気か! あそこは過去誰も戻ってきた者が居ない魔の山だぞ」
タクミはそのような事は承知の上だという態度で答える。同時にどうせ協力を求めるならば、自分たちの事も少しは明かしても構わないとも考えている。
「俺たちはこう見えてモダンジョンの攻略者だ。実力ならばここに案内した隊長が一番わかっているだろう」
まったく余裕の態度を崩さないタクミの口から出た『ダンジョンの攻略者』という言葉に子爵は再び驚愕する。何しろ何百年に一度出現するかどうかの存在だ。
「ほ、本当かね! 俄かには信じがたい話だ」
タクミは『A』と記載されたギルドカードを提示する。この若さでAランクというのはどういう意味か子爵にも伝わった。
「という事で信じてもらえたか。このあたりの情勢を教えてくれ」
タクミの言葉が真実だと疑う余地がなくなった子爵は大きくため息をついてからうなずく。
「わかった、君たちの欲しい情報は提供しよう。その他に必要な物も準備しよう」
協力を申し出た子爵の態度ににんまりするタクミ、これで先に進む展望が大きく開けたと感じるのだった。
読んでいただきありがとうございます。前回評価をいただきまして嬉しい次第です。次回の投稿でタクミたちは最北の街に到着する予定です。金曜日にはお届けできるようにがんばります。
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