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クラスごと異世界に召喚されたのだが、その中に『異星人』が紛れ込んでいる件  作者: 枕崎 削節


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69 脅迫

遅くなりました。伯爵をとっちめる続きです。どこまでエスカレートするのでしょう・・・・・・

 もう意識を失いかけた伯爵を『乙女の祈り』の手から救い出したタクミは、彼をステージまで引っ張り上げる。


 熱烈な抱擁とキスの雨を降らせていたマッチョたちに近づくのは、タクミとしてもかなり勇気が必要な行為だったが、何とか彼らを引き離すことに成功した。


 ただしタクミが近寄った時に『あら、この銀色の鎧の人カッコいいわー!』という声が聞こえたが、あえて無視をする。彼らに付き合っていると絶対に良くない事に巻き込まれるのが確実という嫌な予感のせいだ。


 美智香の魔法で大量の水を掛けられて、ようやく意識がはっきりした伯爵は座り込んだまま今度は何をされるのとか怯えている。


「皆さーん! 勇気のある慈悲深い伯爵様が戦争に出ているこの街の兵をすべて引き上げるそうでーす」


 春名の声に観衆は沸き立つ。彼らの中には徴用されて家族が戦場に借り出されている者たちが多かった。父親や恋人が戻ってくるという話に彼らの歓声は止むことが無い。


「おい、よく聞け。お前が王家に手を出さない事と今すぐに紛争地帯から兵士を撤退させる事。この2点を約束しない限りは、俺たちはお前を毎日この場に連れてくるぞ。一切の条件は認めない、返事はイエスかノーだ」


 タクミの無機質な声がずぶ濡れで震える伯爵に重いプレッシャーを掛けていく。


「わかった、約束する。すぐに兵は引くし、王家には手を出さない」


 震えながら小さな声で返事をする伯爵、だがその表情はまだ何かを企んでいるように見えなくもない。だが、タクミはここでダメ押しをするのではなく、あえて泳がす方針を選んだ。その方が心をへし折るにはより効果的だ。


「それでいい、もし約束を破った場合は命の保障はしないからそのつもりでいろ」


 恐ろしい銀色の鎧を着たタクミの姿はすでに伯爵にとってはトラウマになってその心に深く刻み込まれている。彼の要求にこの場では逆らう術がない伯爵はイエスを選択するしかなかった。


 うなずいたタクミを見て司会役の春名がステージの終了を告げる。


「皆さーん! 今日はありがとうございました。明日もこのステージをやりますから、もっとたくさんの知り合いの人を誘ってぜひ来てくださーい!」


 近頃あまりいい話題が無かった街の人たちは、久しぶりに大人も子供も心から楽しいひと時を過ごした。皆口々に『明日も来よう』と話している。特に子供たちはこぞって親に『明日も』とねだっている。




 人々が帰った後の塔の周辺には、タクミたちと伯爵だけが取り残されている。


「さて俺たちも帰るか」


 タクミの言葉で伯爵を放置して宿に戻る一行。


「あれはどうするの」


 空が伯爵を指差してこのままにしておくのかと聞いてくる。彼女は生でガチムチの皆さんの熱いシーンを見る事が出来ていつもの3倍増しでツヤツヤしている。


「子供じゃないんだからほっといて構わない。暗くなったら自分で帰るだろう」


 まだ呆然として佇む伯爵にまったく興味を見せずにタクミたちは足早にその場を去っていった。


 



 一仕事終えて宿に戻ったタクミたちは一休みしてから風呂と食事を済ませて、すでに部屋でベッドに入っている。


 そして現在タクミの横には空が小さな体を横たえている。彼女は昼間の興奮が尾を引いて、どうしてもと他の女子に頼み込んでタクミと寝る権利を譲ってもらったのだった。


「タクミ、チューして」


 かわいい声でねだる空は小動物のような愛くるしさがあるのだが、タクミからすると小さな妹にじゃれ付かれているような感覚しか覚えない。せめてもう少し色々な部分が発育してくれれば話は別なのだが・・・・・・


 軽く口付けを交わしてあとは空の好きなようにやらせるタクミ、そしていつものように彼女はタクミの大胸筋と腹筋の感触を堪能している。


 だがその時タクミの端末から小さなアラーム音が響く。


「空、すまないが続きは帰ってからだ」


 せっかくこれから思うぞ運分楽しもうと思っていた空は不満そうに頬を膨らませるが、事前に話を聞いていたので着替えるタクミに向かって『早く帰ってきて』と一言告げて布団の中にもぐりこんだ。


『急な仕事で呼び出される夫に不満を言う若妻か!』と心の中で突っ込んだタクミだが、彼の目には好物を取り上げられた子供のような空の態度がかえって可愛く映る。




 そのまま無言で部屋を出て行くタクミは、街の南の門に向かって早足で歩き出す。少し離れた物陰に隠れて待っていると、そこに1台の馬車が到着した。


「伯爵様が急用で外に出る。至急開門せよ」


 馬車の横に付いている兵士が門番に声を掛ける。こんな時間に何事かと出てきた門番は、慌てて門を開けようと扉のかんぬきに手を掛けようとしたその時・・・・・・


「こんな時間にどこに行こうというんだ?」


 物陰からパワードスーツに身を包んだタクミが姿を現す。それは伯爵の手の者にとっては最早恐怖の象徴だった。


 その姿を見た途端に馬車の周囲にいた兵士たちは戦意を失った。昼間に散々な目に会っているだけに、抵抗するだけ無駄だとわかっている。


「伯爵、出てきてもらおうか」


 無機質な声に逆らうことが出来ずに、馬車の扉が開き伯爵が姿を現す。彼の表情は恐怖で怯えて、歯がカチカチと音を鳴らしている。


「なぜだ! 後でも付けていたのか?!」


 伯爵は戸惑いと疑問の中でタクミがこの場に姿を現した理由を尋ねる。だが、その言葉は極めて弱々しく貴族としての威厳の欠片も無かった。


 実はタクミは皮下に埋め込む発信機をこっそりと伯爵に取り付けており、彼の動きが手に取るようにわかっていた。しかしそんな事をわざわざ伯爵に教える必要は無い。


「どこに行こうと俺たちからは逃げ切れない。諦めるんだな。さて逃げ出そうとしていたという事は先ほどの約束は反故にされたと受け取って構わないんだろう」


 タクミは一歩ずつ伯爵の退路を塞いでいく。暗がりに乗じて逃げ出そうとした相手を信用できないのは当たり前だ。


「待ってくれ、約束は守る。本当だ、だから助けてくれ!」


 必死に懇願する伯爵だが、全身をパワードスーツに覆われたタクミの表情がわかるはずも無く、ひたすら許しを請う事しか出来ない。その姿はタクミから見て哀れにさえ映る。


「信用できないな、命まで取る必要は無いと言われていたがこの場で殺す」


 タクミは腰のナイフを引き抜いて、これ見よがしに伯爵の目の前にちらつかせる。その様子を見て伯爵は完全に腰を抜かして『あわあわ』ともう声すら出すことが出来ない。


「ふん、実に下らないやつだな、殺す価値も無いか。最後にもう一度だけチャンスをやろう。そのまま屋敷に戻れ、もしもう一度逃亡したらその時は殺す」


 ナイフをしまうタクミを見て明らかにホッとした様子の伯爵、だが彼のその表情はタクミの次の一言で凍りつく。


「それから逃げ出そうとしたペナルティーだ。明日もう一度飛び降りてもらうぞ」


 タクミの冷酷な宣告に再び死にそうな表情に戻る伯爵だった。




 タクミが宿に戻ると布団にもぐりこんで眠っていた空が目を覚ます。自分の横をポンポンと手で叩いて『早く来い』とアピールしている。


「ちょっと待ってくれ、今着替えるから」


 タクミの言葉にニッコリと幸せそうに微笑む空だった。 

読んでいただきありがとうございました。感想、評価、ブックマークお待ちしています。次の投稿は月曜日の予定で、たぶん次の街のお話になります。

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